近年、日本に生活拠点を移す韓国芸能人が目立っている。
かつての「出稼ぎ」的な進出とは異なり、より生活に根付いた移住だ。
わざわざ慣れ親しんだ母国を離れ、あえて日本という新天地を選んだ背景には、きわめて個人的な理由があった。
まずは、NHK連続テレビ小説『虎に翼』(2024)への出演で一躍名を広めた女優、ハ・ヨンスだ。韓国ではポケモンのゼニガメに似た愛嬌のあるルックスで親しまれ、高い人気を誇った彼女は、2022年に活動拠点を東京に移した。
AVデビューの噂、メディアへの敵対心
そんな彼女が移住を決断した背景には、韓国国内における女優活動の限界があった。2022年5月、当時所属していた韓国の事務所との専属契約が終了したのを機に、彼女は日本への留学を決意。しかし、突然の渡日や韓国ポータルサイトからプロフィールが削除された事実が憶測を呼び、一部では「芸能界引退」が囁かれ、果てには「日本でAV業界に進出するためではないか」といった根拠のない誹謗中傷がネット上で拡散される事態となった。

これに対し、彼女は2024年のインタビューで、移住の真意はあくまで「キャリアのため」であったと語っている。韓国での出演オファーが顕著に減っていた事実を率直に告白しており、10年のキャリアを一度リセットしてでも新しい環境が必要だったという。独学で日本語を猛勉強し、『虎に翼』での留学生役を勝ち取った背景には、単なる移住ではない、職業的生存をかけた背水の陣の覚悟があった。また留学直後のバッシングに対しても「母国のメディアが最も敵対的だ」とSNSで強く批判しており、韓国の過酷な世論に対する疲弊も、日本という新天地を求める一因となったようだ。
韓国バラエティ界の第一線で活躍してきた女性芸人のイ・グクジュも、2025年に東京での生活を開始した芸能人の一人だ。正確にはソウルと東京の二拠点生活だが、彼女が日本に住むことになった経緯は、40歳という節目を前にした「燃え尽き症候群(バーンアウト)」からの脱却だった。韓国では成功した芸能人として華やかな生活を送っていたが、新しい挑戦やときめきもなく、ただ働くだけの毎日に限界を感じていたという。
数ある国の中で彼女が日本を選んだ理由は、食文化への深い信頼と、心身を立て直すための「適度な不自由さ」にある。美食家として知られる彼女にとって、一人での食事も質を落とさず楽しめる日本の環境は、精神的な癒やしに直結していた。あえて東京の小さなワンルームを選び、新人の頃のような慎ましい生活を送ることで、肥大化した生活環境をリセットする。さらに、自己投資として日本語を習得するという明確な目的意識に基づいた選択であった。
働き方の多様化も後押し

また、『太陽を抱く月』などで知られるトップ俳優のチョン・イルは、以前から日本への愛着を頻繁に語っており、現在は日本に住んでいる。彼が日本に安息を求める背景には、かつて直面した「命の危機」がある。27歳のとき、彼は脳血管の一部が膨らむ「脳動脈瘤」という、いつ破裂してもおかしくない時限爆弾のような病の宣告を受けた。死への恐怖から重いうつ病も経験した彼を救ったのは、あてもなく「歩くこと」だったという。韓国では常に視線にさらされる彼にとって、日本は「一人の人間」として匿名で歩き続けられる唯一無二の場所だったのだろう。
最近では、自身のYouTubeチャンネルで浜松出張の際に購入した梅干しを使ってパスタを作る様子を公開しており、かなり日本に馴染んでいることがうかがえる。2015年には東京のキャンプ場でファンとBBQを楽しむイベントを開催するなど、長年築いてきたファンとの絆も、彼が日本を拠点とする大きな理由となっている。

彼らに共通しているのは、韓国という超競争社会の頂点を見たあとで、一人の人間としての自由や新たな可能性を日本に見出したという点だ。ハ・ヨンスは職業的生存、イ・グクジュは精神的再生、チョン・イルは安息を求めて日本を選んだ。彼らにとっての日本は、人生の第2章を始めるために最も好都合な場所だったのである。
加えて、こうした移住を後押ししているのが現代のテクノロジーと仕事の仕方の変化だ。インターネットが高度に発達した現代では、YouTubeやSNSでタレント自らが直接情報を発信し、収益化することが可能となった。テレビ局や事務所の意向に縛られることなく、異国の地からでもファンとの接点を維持し、自身のライフスタイルそのものをコンテンツとして提供できる環境が整っている。物理的な場所に縛られない働き方の普及が、トップスターたちの「日本移住」という大胆な選択を、より現実的で地続きなものに変えたと言えるだろう。
かつての「進出」という言葉とはまた違う、自らの幸福と尊厳を守るための主体的な選択。日本という新天地で自分自身を取り戻した彼らの表情は、韓国にいた頃よりも、どこか晴れやかで自由だ。
(文=スポーツソウル日本版編集部)


