韓国に残っている“日本の名前”を消そうという動きが加速している。
韓国では現在、「植物主権」という少し聞き慣れないテーマが改めて注目されている。
きっかけは、「世宗(セジョン)大王の誕生日」(5月15日)に合わせて公開された一本の動画だ。
韓国エンタメ好きに広く知られるナ・ヨンソクPDと、韓国広報活動で有名なソ・ギョンドク教授が、韓国山林庁の国立樹木園と共同で制作した多言語映像を公開した。
テーマは、「ハングルを守った朝鮮の植物学者」だ。
動画では、日本統治時代、朝鮮半島の植物が韓国語の名前で呼ばれにくく、その記録や分類の基準が日本人学者によって定められていたことを紹介している。
朝鮮半島特産植物に「竹島」の名が
そのなかで朝鮮の植物学者たちは、朝鮮博物研究会を設立し、「クムガンチョロン」「バラムコッ」「ケブルジュモニ」など、韓国語の植物名を学術記録の中に残そうとしたという。

ソ教授は、「韓国の植物の名前と記録を、自分たちの手で立てようとした朝鮮の植物学者たちの、よく知られていない活動を紹介したかった」と説明。さらに、日本統治時代の痕跡を消し、取り戻してきた植物の歴史を通じて、「植物主権」の重要性を知らせたいとも語っている。
では、植物主権とは何なのか。簡単にいえば、植物そのものだけでなく、その名前、記録、分類、由来を、誰の視点で残すのかという問題だ。
一見すると植物学の話に見えるが、韓国ではそこに植民地支配の記憶が重なる。
日本統治時代、朝鮮半島の植物を調査し、分類し、学名として記録した日本人学者がいた。その代表的な人物が、中井猛之進だ。
2019年の韓国メディアの報道では、当時、朝鮮半島特産植物527種のうち327種の学名に「Nakai」が入っていると紹介された。特産植物の数は分類基準やリストの更新によって変わるため、現在もその数字をそのまま使うには注意が必要だが、韓国固有の植物の多くに日本人植物学者の名が残っているという問題意識は、今も続いている。
例えば、韓国で「クムガンチョロン」と呼ばれる植物がある。日本名は「ハナブサソウ」で、学名は「Hanabusaya asiatica (Nakai) Nakai」。朝鮮半島固有の植物だが、そこには中井の名前が残っている。さらに、朝鮮初代公使だった花房義質に由来するとされる。
韓国側から見れば、自国の固有植物に、日本人学者の名前だけでなく、日本の外交官の名前まで刻まれていることになる。

韓国で「ミソンナム」と呼ばれる植物も象徴的だ。日本名は「ウチワノキ」。朝鮮半島の代表的な固有種とされ、学名は「Abeliophyllum distichum Nakai」だ。
韓国メディアは過去に、この植物について、韓国植物学の開拓者であるチョン・テヒョン博士が1917年に忠清北道・鎮川で初めて発見したが、中井が自身の名前だけを学名に入れ、日本式の名前で紹介したと説明している。
韓国側からすれば、自分たちの土地にある植物を、自分たちの研究者が見つけていたにもかかわらず、世界の学術記録には日本人学者の名前が残ったという構図になる。
そして、最も皮肉なのが、「独島」(ドクト、竹島の韓国での呼称)に自生する植物の名前だろう。
韓国メディア『朝鮮Biz』によると、鬱陵島(ウルルンド)と独島に自生する韓国固有植物「ソムキリンチョ」の学名は「Sedum takesimense Nakai」。「Sedum」はベンケイソウ科マンネングサ属を意味し、種小名の「takesimense」は日本式の独島表記である「竹島/Takeshima」に由来する。そして「Nakai」は、前述した中井猛之進の姓だ。

韓国側からすれば、これは二重に皮肉な名前だろう。
独島に自生する植物に、日本側の地名表記を思わせる「takesimense」が入り、さらに日本人学者の名まで残っている。植物の学名が、領土問題と植民地期の学術調査の記憶を同時に呼び起こしてしまうのだ。
だからこそ韓国では、近年、独島で新たに発見された生物に「dokdoensis」という種小名を付ける例も出ている。
同記事によれば、70年以上にわたって独島警備隊員を悩ませてきた吸血性の新種昆虫には、「Culicoides dokdoensis」という学名が付けられた。今年までに、独島で新たに発見され、「dokdoensis」の名が付いた生物は40種に達するという。
簡単には変えられない学名
いわば、「竹島」を思わせる名前ではなく、「独島」を刻む名前へ。植物や生物の名前を通じて、独島を韓国の言葉で記録し直そうとする動きでもある。
ここで難しいのは、こうした学名を「日本統治時代の痕跡だから」と簡単に変えられないことだ。
植物の学名は、国際的な命名規約に基づいて決まる。一度発表され、学術的に認められた名前は、政治的・感情的な理由だけで容易に変更できるものではない。韓国側が不快に感じる名前であっても、それが国際的な学名として使われてきた以上、国内世論だけで消し去ることはできない。
だからこそ、韓国では別の形で“取り戻す”動きが続いている。
今回の動画が紹介した朝鮮の植物学者たちの活動も、その一つだろう。日本人学者による分類や記録が残る一方で、朝鮮の植物学者たちは韓国語の名前を学術記録に残そうとした。クムガンチョロン、バラムコッ、ケブルジュモニといった名前を守ることは、単なる呼び名の問題ではなく、自分たちの土地の植物を自分たちの言葉で記憶する行為だった。

また、韓国では英名の修正を通じて“日本の痕跡”を減らそうとする動きもある。
『朝鮮Biz』によれば、国立樹木園は2022年、三・一節に合わせて、朝鮮半島自生植物の一部の英名から「Japan」という単語を取り除いて知らせたという。学名と違い、英名は学術的に使われる一般名称に近いため、変更や普及の余地が比較的大きい。
つまり韓国側は、国際学名をすぐに変えられない一方で、韓国語名、英名、標本、記録、教育コンテンツ、歴史の掘り起こしを通じて、植物を自分たちの視点で語り直そうとしているのだ。
ソ・ギョンドク教授が「植物主権」という言葉を使うのも、そのためだろう。
学名に残った「Nakai」を消すことは難しい。「takesimense」のような表記も、国際的な分類や研究の文脈では単純には扱えない。だからこそ、消せない名前の横に、自分たちの言葉と記録を積み上げていく。
今回、ナ・ヨンソクPDがナレーションに参加したことにも意味がある。専門家だけが語ると届きにくい植物分類の問題を、一般の人々にわかりやすく伝えるためだろう。ソ教授はこれまでも、芸能人や著名人と組んで歴史・文化に関する広報活動を行ってきた。今回の「植物主権」も、その延長線上にある。
植物の名前は、単なるラベルではない。そこには、誰が見つけたのか、誰が記録したのか、誰の言葉で呼ばれてきたのかという歴史が刻まれる。韓国の植物に残る“日本の名前”は、植民地期の学術調査の痕跡であると同時に、国際ルールのなかで簡単には消せない記録でもある。
韓国では、消せない名前を前にして、別の名前を守ろうとする。「植物主権」とは、植物の名前をめぐる小さなナショナリズムの話に見えるかもしれないが、その奥には、統治時代の記録を誰の視点で読み直すのかという大きな問いがある。
■まるで自国のもののように「東京駅」が登場、しかも“8月15日”に 韓国政府当局の映像


