「就職や結婚の選択肢として日本行きを選ぶ韓国の20・30代男性たち」
そんなニュースの真偽をめぐって討論したコメディアン、チャン・ドンミンの発言が議論を呼んでいる。
きっかけは、韓国のバラエティ番組『ベッティング・オン・ファクト』で扱われたニュースだった。
番組でチャン・ドンミンは「韓国で就職できないなんて話はあり得ない」という趣旨の発言をし、韓国にも仕事は十分にあると主張した。
複数の事業体を運営しているという彼は、「求人を出しても応募者がほとんどいない。来る履歴書はほとんど40~50代で、20~30代は本当にいない」と説明した。さらに、「アルバイトではなく正社員の求人だった」とし、周囲の事業家たちも人手不足を訴えていると語った。
つまり、企業側から見れば「若者は就職できないのではなく、働こうとしていない」ということだ。
実際、この発言には共感も集まった。「中小企業は本当に人を採れない」「探せば仕事はある」「間違ったことは言っていない」といった反応だ。
だが一方で、反発も少なくなかった。「新卒ではなく経験者ばかり求めるから若者が入れない」「退勤後も連絡が来る会社は現実に多い」「芸能人だから世間を知らないのではないか」といった声も上がった。

では、韓国の20・30代は本当に働こうとしていないのか。それとも、韓国社会の労働市場そのものが、若者にとって息苦しい場所になっているのだろうか。
「働かない若者」なのか、「働けない社会」なのか
数字を見ると、韓国の若者が置かれている状況は単純ではない。
韓国経営者総協会が5月17日に発表したところによると、20・30代の「休んでいる」人口は71万7000人に達し、関連統計の集計以来、過去最多水準となった。
2022年には62万2000人、2023年には64万4000人、2024年には69万1000人だったが、さらに70万人を超えた形だ。
ここでいう「休んでいる」は、単に失業しているという意味ではない。就職活動をしているわけでも、学校に通っているわけでもなく、労働市場から距離を置いている状態に近い。
さらに国務調整室の「2024年青年生活実態調査」では、妊娠・出産・障害を除き、家にだけ留まる19~34歳の若者が53万7863人と集計された。ソウル市の調査でも、ソウル青年の4.5%にあたる約13万人が、孤立・隠遁状態にあるとされた。
つまり、韓国の若者問題は「仕事があるのに怠けている」という一言では片づけられない。就職活動の失敗が続き、自信を失い、人間関係が途切れ、社会から離れていく。そうした流れが、若者の「休んでいる」状態や孤立につながっている。
もちろん、企業側の訴えにも現実はある。

韓国では中小企業を中心に人手不足が深刻だ。求人を出しても若者が来ない。来てもすぐ辞める。大企業や安定した職場に人材が集中し、中小企業には人が集まりにくい。
ただ、若者の側から見れば、それは単なる「選り好み」ではない。低賃金、長時間労働、不安定な雇用、将来の見えなさ。そうした条件の職場に入ることが、自分の人生を良くする選択に見えないのだろう。
問題は、仕事が一つもないことではなく、若者が入りたい仕事、続けられる仕事、将来を預けられる仕事がどれだけあるのかという点だ。
しかも、企業側も余裕があるわけではない。
韓国では最近、中小製造業の苦境が深刻になっている。首都圏の工場競売は急増し、今年1~3月のソウル、仁川、京畿地域の工場競売は1526件と、前年同期の622件から2.5倍に増えた。関連統計の集計開始以来、最多規模だという。
全国の国家産業団地で休業・廃業した企業も、昨年1090社に達し、こちらも統計開始以降で最大規模となった。
高物価、高為替、内需不振、中国企業との競争。こうした要因が重なり、中小企業は人を採りたくても待遇を大きく改善できない。若者はその条件では将来を描きにくいため、結果として、企業は「人が来ない」と言い、若者は「行ける会社がない」と感じる。
このズレこそ、チャン・ドンミンの発言が炎上した理由だろう。
彼の言う通り、仕事はあるのかもしれない。だが、その仕事が若者にとって魅力的か、生活を立て直す足場になるかは別問題だ。
それでも「日本なら」と考える若者たち
そこで浮上するのが、日本という選択肢だ。
韓国のKBSが報じたところによると、2025年に日本で就職した韓国の若者は約2200人に上り、前年より50%近く増えた。日本に好印象を持つ韓国人も約63%に達し、前年から20ポイント以上増え、初めて否定的な回答を上回ったという。
理工系人材の流れを見ても、日本の存在感は大きい。科学技術情報通信部の調査では、海外で就業・研究・求職・創業目的で滞在している韓国人就業者は7万3528人。そのうち、日本が38.2%で最も多く、アメリカの35.5%を上回った。

日本で働く韓国人も増えている。日本の厚生労働省の外国人雇用状況によれば、日本で働く韓国人は2020年の約6万9000人から2024年には約7万5000人へと増加した。
韓国の若者にとって、日本はもはや旅行先だけではなく、就職先であり、生活の場であり、韓国社会の競争から少し距離を置くための現実的な選択肢になりつつある。
もちろん、日本に行けばすべて解決するわけではない。
日本にも低賃金、長時間労働、外国人としての壁、言語の問題、キャリア形成の難しさはある。それでも韓国の一部の若者にとっては、日本のほうが「もう少し人間らしく働けるかもしれない」と映るのだろう。
実際、日本で働く韓国人男性の一部は、韓国企業との違いとして、退勤後や休日に連絡が少ないこと、私生活が守られやすいことを挙げている。韓国での激しい競争や長時間労働に疲れた若者にとって、その違いは大きい。
チャン・ドンミンは「韓国にも仕事はある」と言った。たしかに、仕事はあるのかもしれないが、韓国の20・30代が探しているのは、単なる求人票ではない。自分の時間が守られ、将来を考えられ、社会の中で消耗しすぎずに生きられる場所だ。その候補として、日本が見られている。
さらに興味深いのは、日本行きが就職だけにとどまらない点だ。
韓国男性と日本女性の結婚も増えている。韓国統計庁が3月19日に発表した「2024年の婚姻・離婚統計」によると、2024年の韓国人男性と日本人女性の結婚は1176組。前年より40.2%増加し、2015年以降で最多を記録した。
背景には、韓国社会における結婚の負担感がある。
日韓の20・30代を対象にした調査では、韓国の若者が結婚を遅らせる理由として、「出産・育児負担」が28.5%、「住宅購入費用」が25.5%と上位に挙がった。一方、日本の若者では「自由を失うことへの恐れ」が35.5%で最も多かった。
就職に対する認識にも違いがある。韓国の若者の42.1%は就職の難しさを「狭き門」と見ていたが、日本の若者の52.5%は「努力すれば無難に可能」と答えた。
つまり韓国の若者にとって、就職も結婚も「入口」が重い。とりわけ結婚の場面で経済的負担を背負いやすい男性にとって、その重さはより切実に感じられるのだろう。そのなかで、日本で働き、日本で生活し、日本人女性と結婚するという選択肢が現実味を帯びてくるわけだ。
韓国の若い男性たちの一部が、日本を「現実的な選択肢」として見始めていることは間違いなさそうだ。「仕事はある」と言うだけでは、この流れは説明できない。
いま韓国の20・30代男性の一部が見ているのは、どこで働けば人間らしく暮らせるのか、どこでなら結婚や家庭を現実的に考えられるのかということだ。
その答えの一つとして、日本が浮上していることこそ、チャン・ドンミンの発言が議論を呼んだ本質なのかもしれない。
■NHK朝ドラ女優も母国に辟易…日本に住む韓国トップ芸能人がジワジワ増えている理由


