世界中がスポーツに熱を上げるワールドカップの季節、K-POPの存在感もまた大きくなっている。
米ロサンゼルスのSoFiスタジアムで開催された「2026 FIFA 北中米ワールドカップ」の開幕式では、BLACKPINKのリサがステージを飾り、華やかなパフォーマンスで会場を沸かせた。
さらに、今大会決勝戦のハーフタイムショーには、マドンナやシャキーラとともにBTSが立つ予定だとも報じられている。
音楽、ファッション、SNS、セレブリティがスポーツの熱狂と結びつく流れは、もはや特別なものではない。K-POPは今や、スポーツイベントを彩る重要なコンテンツの一つになっている。
一方で、その距離感を誤れば、スポーツの場は摩擦の現場にもなる。
その象徴のような騒動が、韓国プロ野球の観客席で起きた。ボーイズグループAHOFが、プロ野球の観客席で自社コンテンツを撮影し、所属事務所が謝罪する事態となったのだ。
AHOFが謝罪、問題は“観客席での撮影”
騒動が起きたのは、6月14日に大邱サムスン・ライオンズ・パークで行われたサムスン・ライオンズ対SSGランダースの試合だった。
AHOFのメンバーであるスティーブンとチエンは、この日、始球・始打イベントに参加。その後、観客席に移動して試合を観戦した。

問題になったのは、試合中に行われた自社コンテンツの撮影だった。一部の観客は、2人が観客席でフラッシュをたきながら撮影を続けたと指摘。関連場面が中継画面やオンラインコミュニティを通じて広がり、批判が大きくなった。
野球ファンからは「試合への集中を妨げる行動だった」「観客席はコンテンツ撮影場なのか」「選手と他の観客への配慮が足りない」といった反応が相次いだ。
これを受け、所属事務所F&Fエンターテインメントは6月15日、公式SNSを通じて謝罪した。
事務所側は「選手の試合進行と観客の観覧に支障を与え得るという点を事前に十分考慮できなかった」とし、「選手団と観客を最優先に考えるべきだったにもかかわらず、配慮と準備が不足していた点を重く受け止めている」と頭を下げた。
始球式や始打式に芸能人が登場することは珍しくない。球団にとっても集客や話題化につながり、アイドル側にとっても普段とは違う層に名前を届ける機会になる。
ただ、試合中の観客席は撮影スタジオではない。
そこには、すでにチケットを買って試合を見に来た観客がいる。グラウンド上では選手がプレーしている。フラッシュや強い照明が視界に入れば、周囲の観客の集中を妨げる可能性があり、選手にとっても好ましい環境とはいえない。
アイドル側にとっては“撮れ高”でも、スポーツファンにとっては“観戦妨害”になり得る。その温度差が、今回の騒動の核心だった。
K-POPとスポーツの現場をめぐる摩擦は、今回が初めてではない。
2024年8月には、WINNERのイ・スンフンが釜山(プサン)の社稷(サジク)野球場で始球式を行った際、マウンド上で約18秒間のダンスを披露して物議を醸した。
本人にとってはファンを楽しませるためのパフォーマンスだったかもしれないが、マウンドは投手にとって極めて重要な場所だ。試合前のグラウンド状態や選手の集中に配慮すべき場所で、長く踊ったことに野球ファンの批判が集まった。

昨年4月には、THE BOYZのケビンが始打式後の行動で謝罪した。
キウム・ヒーローズのユニフォームを着て始球・始打イベントに参加した後、観戦中に別の球団を応援するようなメッセージを見せたとして、野球ファンの反発を招いたのだ。本人は「軽率な言動で不快な思いをさせた」と謝罪した。

それぞれの問題は違う。
AHOFは観客席での撮影、イ・スンフンはマウンドでの過剰なパフォーマンス、ケビンは招待された球団への配慮を欠いた行動だった。
しかし、共通する点がある。
スポーツの現場を、K-POP側の都合で“ステージ化”しすぎたときに、摩擦が起きているということだ。
サッカーでも問われたTPO
この問題は、球場に限らない。
昨年7月には、IVEが水原ワールドカップ競技場で行われた「2025 Coupang Playシリーズ」のチームKリーグ対ニューカッスル・ユナイテッド戦に登場し、始蹴式とハーフタイム公演を務めた。
その際に話題となったのが、メンバーたちの衣装だった。水色のユニフォームをクロップ丈、オフショルダー、ホルターネックなどにリフォームし、それぞれの個性を生かしたスタイリングを披露。エンターテインメントとしては華やかで、ハーフタイム公演への期待感を高める演出でもあった。
一方で、露出の多い衣装がサッカーの公式セレモニーにふさわしいのかという疑問も出た。

始蹴式は試合開始を告げる公式行事であり、実際にボールを蹴る場でもある。衣装として目を引くことと、スポーツイベントのTPOに合っていることは、必ずしも同じではないという見方だ。
AHOFのような観戦妨害とは性質が違う。IVEの場合、誰かの視界を遮ったわけでも、試合進行を乱したわけでもない。メンバー自身が望んだスタイリングだったとも伝えられている。
それでも議論になったのは、スポーツイベントが単なるステージではないからだ。
サッカー場にせよ、球場にせよ、そこには競技の文脈がある。ユニフォームは単なる衣装ではなく、チームや競技を象徴するものでもある。始球式や始蹴式は、アイドルのプロモーションである前に、試合の一部として位置づけられる公式セレモニーでもある。
だからこそ、同じ衣装や演出でも、音楽番組なら称賛されるものが、スポーツの場では「やりすぎ」と受け止められることがある。

K-POPがスポーツイベントを盛り上げること自体は、決して悪いことではないだろう。むしろ、ワールドカップの開幕式でリサが喝采を浴びたように、音楽とスポーツが結びつくことで生まれる熱狂は確かにある。
ただし、それはスポーツの場を何でもありのPR空間にしていいという意味ではない。
スポーツファンは、アイドルを見に来ているわけではない。多くの観客は、応援するチームや選手のプレーを見に来ている。1球、1プレー、1つの判定に集中している人もいる。そこへ強い照明や過剰な演出、場の文脈を読まない言動が入り込めば、反発が起きるのは当然だ。
アイドル側にとっては自然な演出でも、スポーツの現場では別の観客体験を壊す可能性がある。
スポーツの場を借りるなら、そこにある競技の時間、選手の集中、観客の体験をどう尊重するのか。K-POPとスポーツの距離感を、アーティスト側も事務所側も、もう少し慎重に考える必要がある。
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