在宅ワークやノマドワークが一般化した今、「どこでも仕事ができる」環境は珍しくない。しかし、カフェやコワーキングスペースを転々とする働き方には、毎回の荷物の準備やセットアップ、不安定な通信環境といった悩みがつきまとう。
そんな中、YouTubeチャンネル「Tory Delury」を運営する映像クリエイターのToryさんは、キャンパーバン(改造車)という移動する空間に、わずか3秒で展開できる本格的なワークスペースを構築した。引き出しを開けて電源を入れるだけで、デュアルモニターのPC環境が立ち上がるこの「隠しオフィス」は、限られた空間でいかに快適な仕事環境を作るかという課題に対する、ひとつの明快な解答だ。
「前のバンではベッドの上で作業していたんです。でもそうすると、すぐに眠くなってしまって……」と語るToryさん。
今回の新しいバンでは、「仕事しやすい環境」を最優先に考え、試行錯誤を重ねた。大型モニター3画面という当初のプランを諦め、シンプルさを追求した結果、毎日使い続けられる理想の作業空間が完成した。
車内という特殊な環境だからこその工夫、そして「複雑すぎるものは使わなくなる」という気づき。この記事では、移動しながら働く新しいライフスタイルを支える、実用的なワークスペース構築のヒントをお届けする。
手のひらサイズの「GEEKOM AX8 Max Mini PC」が車内ワークスペースの救世主に
Toryさんが抱えていた最大の課題は、iPadでは本格的な編集アプリが使えず、確定申告のソフトもダウンロードできないこと。かといって、通常のデスクトップPCを車内に設置すれば、限られたスペースを圧迫し、「プリンセス・キャッスル」をイメージした内装の美観も損なわれてしまう。
そこで選んだのが、「GEEKOM AX8 Max Mini PC」。手のひらに収まるほど小さく、動画では「私の手と比べてもこんなに小さい!」と驚きの声を上げている。
この超小型PCの特徴は、サイズに反した高性能さ。最大2TBまでストレージを増設でき、SDカードリーダーも搭載。52%向上した放熱性能により、車内が高温になる環境でも安定動作する。もともとゲーミングPC用途で設計されているため、動画編集に必要な処理速度も十分だ。
「これならカフェにも図書館にも持っていけるし、スライド式の引き出しにもぴったり収まる」とToryさん。実際、引き出しに入れてみると、本体の小ささに「これなら絶対入る!」と喜びの声を上げていた。

トリプルモニターの失敗から学んだ「シンプルこそベスト」
当初、Toryさんはトリプルモニター(3画面)構成を計画していた。「1つの画面で編集、もう1つで台本やメモ、3つ目でリサーチ、すべてを一度に表示できたら効率的だと思ったんです」。
しかし実際に設置してみると、想定外の問題が浮上した。
まず、モニターが大きすぎて引き出しのスペースをほぼ埋め尽くしてしまい、他のものが収納できない。そして何より、毎回のセットアップと片付けに時間がかかりすぎる。「車内生活で学んだことは、セットアップが複雑で時間がかかるものは結局使わなくなるということ」とToryさんは振り返る。
さらに決定的だったのは、3画面が「情報過多で逆に集中できない」ことだった。「今、すごく圧倒されてる。画面が多すぎて、何が起きてるのかわからない」と動画内で率直に語っている。

そこで方針を転換。以前から持っていたラップトップ用の拡張モニター(ポータブルセカンドスクリーン)に切り替えた。結果、セットアップ時間は大幅に短縮され、「これくらいがちょうどいい。ミニマリストだからではなく、集中して仕事するためには、これがベストだった」と結論づけた。

引き出し内に「マジックテープ固定」でゼロセットアップを実現
Toryさんの最大の工夫は、拡張モニターを引き出しの内側に直接固定したことだ。
使ったのは「屋外用15ポンド(約6.8kg)耐荷重のマジックテープ」。このマジックテープは車内の様々な場所で活用しているお気に入りのアイテムだという。軽量なモニターをしっかりと固定でき、引き出しを開ければモニターがすでにセットされた状態になる。
「セットアップ時間ゼロ。やることは電源プラグを差すだけ」、このシンプルさが、毎日使い続けられる秘訣だ。
さらに、キーボードとマウスを置く場所にも工夫を凝らした。引き出しの前後に渡すように木製のボードを設置し、キーボードとマウスをそこに置くことで、作業スペースを確保。使わないときは、このボードごと引き出し内に収納できる。
「この引き出しは以前、散らかった物置になっていて開けることもなかった。今では車内で一番お気に入りの場所になった」とToryさんは満足げに語る。

木製ボードで「キーボードトレイ」を自作して収納と作業性を両立
引き出しの両端に渡すように設置した木製ボード。これはスクラップ材を活用した自作のキーボードトレイだ。
「この木材を引き出しの両側に渡せば……キーボードとマウスがここに置ける!」とひらめいたToryさん。実際に試してみると、ちょうど良い高さで作業でき、使わないときはボードごと引き出しに収納できる。
ただし、長時間のデスクワークには姿勢のサポートが必要だった。「このまま6時間座りっぱなしは快適ではない」と考え、クッションを複数組み合わせて背もたれを作成。「これは私の求めていた雰囲気そのもの」と、機能性と美観を両立させた。

ワイヤレスキーボード&マウスで配線ストレスを最小化
当初、有線のキーボードとマウスを使っていたToryさんだが、「コードが少なければ少ないほど、引き出しを開けたときにやることが減る」と考え、Bluetooth接続のワイヤレス製品に切り替えた。
また、引き出し内の配線は、Amazonで購入した粘着式のケーブルオーガナイザーできれいに整理。「配線が絡まったり、問題になったりしないようにしたかった」とのこと。見た目もすっきりし、引き出しを開け閉めする際のストレスも軽減された。

わずか3秒で展開!「引き出しを開けて電源を入れるだけ」の理想形
完成したワークスペースは、驚くほどシンプルだ。
引き出しを開ける、電源プラグをコンセントに挿す、PCの電源ボタンを押す
これだけで、フル装備のデスク環境が立ち上がる。モニターは引き出しに固定されているため、セットアップ不要。キーボードとマウスはワイヤレスで、木製トレイの上に置いておけばすぐに使える。
「まさにノートパソコンのように、PCとモニターを持ち運べる。それなのに、フルサイズのデスクトップ環境が手に入る」とToryさん。カフェやビーチ、図書館など、どこにでも持ち運べる柔軟性も兼ね備えている。

車内ワークスペースが教えてくれること「複雑すぎるものは使わなくなる」
「最初は大きな3画面セットアップになると思ってた。でも結局、シンプルな方がずっと良かった」
Toryさんの言葉には、車内という制約のある環境だからこそ得られた、普遍的な気づきが詰まっている。
限られたスペースでも、工夫次第で快適な仕事環境は作れる。大切なのは「毎日使い続けられるか」という視点だ。どんなに高性能な機材を揃えても、セットアップが面倒なら結局使わなくなる。逆に、シンプルで手間がかからなければ、毎日のルーティンに自然に組み込める。
「この引き出しは、今では車内で一番お気に入りの場所。開けるたびにワクワクする」と語るToryさんの表情からは、単なる"作業スペース"を超えた、愛着のある空間を作り上げた満足感が伝わってくる。
固定のオフィスを持たない働き方は、もはや特別なものではない。Toryさんの工夫は、車内に限らず、小さな部屋や、限られたデスクスペースで働く多くの人にとってもヒントになるはずだ。環境に左右されず、自分にとって本当に必要なものを見極め、使いやすさを追求する、そんなワークスペース作りの本質を、この「隠しオフィス」は教えてくれる。
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