韓国代表のワールドカップ敗退をめぐる怒りが、ついに危険水域に入りつつある。
ホン・ミョンボ監督への批判は、飲食店の“立ち入り禁止”掲示やネット上の風刺にとどまらず、殺害予告性の投稿にまで広がっているのだ。
ホン・ミョンボ監督率いる韓国代表は、2026年FIFA北中米ワールドカップのグループリーグで1勝2敗に終わった。
グループAを3位で終えた韓国は、各組3位のうち上位8チームに与えられる決勝トーナメント進出枠に入れず、最終的に敗退が決まった。
ソン・フンミン、イ・ガンイン、キム・ミンジェらを擁する“黄金世代”への期待が大きかっただけに、衝撃は大きかった。
特に、引き分けでも自力で32強進出を決められるはずだった南アフリカとの最終戦で0-1と敗れたこと、そしてその試合内容があまりにも消極的だったことが、国内の怒りに火をつけた。
その責任を取る形で、ホン監督は6月29日、メキシコ・グアダラハラのベースキャンプで記者団に対し、代表監督職から退くと表明した。
相次ぐ「ホン・ミョンボ立ち入り禁止」

しかし、辞任表明後も批判は収まっていない。
韓国では、ホン監督に対する怒りがオンラインを超え、飲食店やカフェといった日常空間にまで広がっている。
南アフリカ戦後、SNSやオンラインコミュニティでは「ホン・ミョンボ立ち入り禁止」といった趣旨の案内文が貼られた写真が相次いで拡散した。
コンビニの入口に「ホン・ミョンボは立ち入り禁止」といった趣旨の紙が貼られた写真が話題になったのに続き、市内バスの前方に「ホン・ミョンボ搭乗禁止」「乗車拒否」といった文言が掲げられた写真も広がった。
さらに、「ホン・ミョンボ、京釜高速道路出入禁止」といったパロディ投稿や、「近所のカルグクス店にもホン・ミョンボ出入禁止の案内文が貼られている」という写真も出回った。
なかには、実際に自営業者が自ら掲示したケースもある。
京畿道安養市のある韓国料理店には「ホン・ミョンボは出入禁止!」と書かれた案内文が掲げられた。店主は韓国メディアの取材に対し、南アフリカ戦後に掲示したものだと説明し、「韓国サッカーを好きな人間として、今回のワールドカップを見てとても腹が立った」と話したという。

一方で、店主は「自分の性格上、少しユーモアのある人間なので、お客さんにも見て一度笑ってもらおうと思った」とも説明している。つまり、そこには本気の怒りだけでなく、風刺や悪ノリ、店の話題づくりのような空気も混ざっている。
ただ、その広がり方は異様だ。
全北・金堤のある焼肉店も、公式SNSを通じて「本日から別途告知があるまで、ホン・ミョンボ監督の出入を断固として禁止する」と書かれた案内文の写真を投稿した。ソウル麻浦区のカフェでも、「来るはずもないが、腹の虫が収まらない」として、ホン監督の出入を禁じる趣旨の写真を投稿したと報じられている。
ホン監督は、もはやサッカーの戦術や采配をめぐる批判対象にとどまっていない。敗退の象徴として、街の貼り紙やSNSのネタにまでなっているのだ。
その空気は、職場の人間関係にまで持ち込まれている。
韓国の会社員向けオンラインコミュニティ「リメンバー」には、「うちのチーム長がまさにホン・ミョンボだ」というタイトルの投稿が上がり、多くの会社員の共感を集めた。
投稿者は、チーム内で最も仕事ができ、他部署からも高く評価されている社員がいるにもかかわらず、上司がその社員を重要なプロジェクトに入れようとしないと説明した。外部からその社員を推薦されても別の人材をあて、会議で良い意見を出しても話題を変えてしまう。プロジェクトがうまくいかないと、むしろ上司が安堵しているように見えたという。

投稿者は、最近の韓国代表を見ながら、その理由に思い至ったと書いた。
「ホン・ミョンボ監督がソン・フンミンに悪い感情を持っているのではなく、『ソン・フンミンが必ず必要だ』と言う人たちと意地の張り合いをしているように感じた。うちのチーム長も、その社員を嫌っているのではなく、『その人が必ず必要だ』という周囲の評価を否定したいのではないかと思った」
投稿者はさらに、「その結果、最も能力のある社員が犠牲になり、チーム長自身も損をしながら、自分の考えを証明しようとする選択を繰り返しているように見える」と指摘した。
この投稿には、「この文章を見てホン・ミョンボの心理を理解した」「うちの会社の役員も似ている」「組織より自分の立場を守ろうとする行動に見えた」など、共感の反応が続いたという。
この現象は興味深い。
ホン監督への批判は、もはや「なぜソン・フンミンを先発で使わなかったのか」というサッカー上の采配論だけではなくなっている。
韓国社会の中で、ホン・ミョンボという名前が、才能ある部下を使いこなせない上司、周囲の評価に反発して意地を張るリーダー、結果より自分の判断を証明しようとする管理職の比喩として使われ始めているのだ。
それはある意味で、監督批判が日常語にまで落ちてきたことを示している。
度を越えた殺害予告まで
だが、笑い話や風刺で済まされない動きも出ている。
韓国のあるオンラインコミュニティには6月28日午後、ホン監督に対する殺害予告性の投稿が上がった。

投稿者は自身の年齢や国籍に触れながら、ホン監督の帰国時期に合わせ、仁川空港で危害を加える趣旨の内容を書き込んだ。現在、当該投稿は削除されている。
また、別のオンラインコミュニティにも、ホン監督に危害が及ぶ可能性に触れる投稿が上がったと報じられている。
こうなると、もはや風刺や怒りの発露では済まされない。
MBNなど韓国メディアによれば、警察は当該投稿の作成者を追跡し、ホン監督の帰国過程で突発的な事態が発生しないよう注視する方針だという。
サッカーの敗戦に対する批判は当然あり得る。代表監督は結果責任を負う立場であり、ホン監督自身も辞任表明の場で「その責任はすべて監督である私にある」と述べている。
しかし、殺害予告や危害を示唆する投稿は、批判ではない。それはスポーツをめぐる怒りの範囲を超えた、明確に危険な行為だ。
今回の騒動は、政治の領域にも広がっている。
韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領は6月28日、韓国代表の32強進出失敗について、自身のXで「元名誉プロサッカークラブ団長であり、心情的なレッドデビルズとして、予想外の結果に当惑を超えて荒唐無稽さを感じる」と投稿した。
さらに「結局、人事が万事であることが改めて証明された」とし、「能力よりも、味方かどうかを重視して無能な人物を指揮官に選べば、結果は火を見るより明らかだ」と厳しく批判した。
李大統領は、今回の失敗を「組織と人事の失敗」と位置づけ、文化体育観光部に対して、正確な状況把握、原因分析、再発防止と改善策をきちんと確認するよう求めた。
文化体育観光部のチェ・フィヨン長官も「泥沼にはまってしまった韓国サッカーは、今こそ心を立て直し、底辺からやり直さなければならない」と述べ、根本的な対策の必要性に言及している。

韓国サッカーの問題は、ピッチ上の敗戦だけでは終わらなかった。
ホン・ミョンボ監督は辞任を表明した。それでも批判は収まるどころか、飲食店の貼り紙、会社員コミュニティでの比喩、オンライン上のパロディ、そして殺害予告性の投稿へと拡散している。
ホン・ミョンボという名前は、今や一人の監督名を超え、韓国社会の怒りや不信を背負う記号のようになっている。
韓国代表の敗退をめぐり、監督の采配やサッカー協会の人事が問われるのは当然だ。ソン・フンミンらを擁しながら32強にも届かなかった結果を考えれば、責任論が噴き出すのも避けられない。
しかし、批判と脅迫はまったく別物だ。辞任してもなお収まらないホン監督叩きは、韓国サッカーへの失望の深さを示す一方で、敗戦の怒りが危険な方向へ流れつつある現実も浮かび上がらせている。
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