俳優・佐藤二朗をめぐるハラスメント報道が波紋を広げている。
『週刊文春』は7月1日、フジテレビ系ドラマ『夫婦別姓刑事』の撮影中、佐藤が共演者の橋本愛に対して問題行為を起こし、フジテレビ側の調査で「深刻なハラスメント」と認定されたと報じた。
一方、佐藤側はハラスメントに該当するとの見方を否定し、本人も「すべての『事実』が明らかになることだけを望んでいます」とコメントしている。
真相については、今後の推移を見守る必要がある。
ただ、この報道が改めて浮かび上がらせたのは、俳優同士の現場トラブルやハラスメント疑惑が、作品やキャリアに与える影響の大きさだ。
その点で参考になるのが、韓国芸能界の事例だ。
復帰しても消えない“過去の影”
韓国では2018年、MeToo運動の広がりのなかで、俳優、映画監督、演劇人、大学教授らに性暴力やセクハラをめぐる疑惑が相次いだ。
表舞台に立つ者だけでなく、教える立場、演出する立場にいた人物にも告発が及び、芸能界や映画界は大きく揺れた。
その後の歩みは、一様ではない。復帰した人もいれば、いまだ表舞台から遠ざかっている人もいる。疑惑や訴訟を残したままこの世を去った人物もいる。
さらに近年は、告発や疑惑が俳優の名誉を傷つけたとして、虚偽事実の流布や名誉毀損が問題になるケースも出ている。
まず、復帰したケースとして代表的なのが、俳優オ・ダルスだ。

オ・ダルスは2018年、強制わいせつ疑惑が浮上し、活動を中断した。当時提起された疑惑について、本人は全面的に否認。その後、公訴時効の満了により内偵が終了し、法的には嫌疑なしとされると、静かに俳優活動を再開した。
ただし、復帰したからといって、世論の視線が完全に元に戻ったわけではない。
2026年には映画『王と生きる男』(原題)が観客動員数1600万人を突破し、オ・ダルスは個人キャリア通算9本目となる「1000万映画」出演の記録を手にした。韓国映画界で、単一の俳優が積み上げた「1000万映画」の記録としては最多だ。
本来なら大きく祝福されてもおかしくない記録だが、彼に向けられる視線はいまなお複雑だ。法的には区切りがついた以上、俳優としての成果は別に評価すべきだという声がある一方、過去の論争が完全に解消されたとは見なしにくいという見方も根強い。
実際、『王と生きる男』が1000万人を突破した際も、広報の過程でオ・ダルスの存在感は相対的に静かだった。1000万達成とともに公開された俳優たちの直筆感謝メッセージからも、彼の名前は外されていた。
復帰はできた。しかし、過去の疑惑が“なかったこと”になったわけではない。オ・ダルスの現在地は、その現実を示している。
戻れない人、未完のまま終わった人
一方で、長く表舞台から遠ざかったままの俳優もいる。
チョ・ジェヒョンは2018年、セクハラや性的暴行の加害者だと名指しされ、出演中のドラマから降板。以降、すべての活動を中断した。過去には弁護士を通じて、地方で蟄居中であるとの近況が伝えられたこともあったが、いまも俳優としての本格的な復帰は見えていない。

さらに、疑惑や捜査が未完のまま終わったケースもある。
俳優チョ・ミンギさんは、清州大学演劇学科の教授を務めていた当時、教え子たちからセクハラ被害を告発された。当初は疑惑を否定していたが、学生たちによる暴露が相次ぐと、被害者に謝罪し、法的・社会的責任を回避しないとの立場を示した。
しかし、警察の事情聴取を控えたなかで、2018年3月に突然この世を去った。事件は被疑者死亡により公訴権なしとして終結している。

また、韓国映画界の“鬼才”と呼ばれたキム・ギドク監督も、MeTooの流れのなかで複数の性加害疑惑が再浮上した人物だ。MBCの調査報道番組『PD手帳』では、俳優たちの証言に基づいて疑惑が報じられ、大きな波紋を呼んだ。
キム・ギドク監督は、報道したMBCや告発した女優を相手に損害賠償訴訟を起こしたが、1審、控訴審ともに敗訴した。別件では、女優A氏が2013年の映画撮影中に暴行や強要などを受けたとして告訴し、性暴力関連の容疑は証拠不十分で嫌疑なしとなった一方、暴行容疑については罰金刑が認められている。
キム・ギドク監督は2020年12月、新型コロナウイルスによる合併症のためラトビアで死去した。国際映画祭で数々の栄誉を手にした巨匠でありながら、晩年は性加害疑惑の影を抱えたままだった。

告発の“その後”が反転するケースも
ただし、韓国の事例が示しているのは、疑惑が浮上した人物がすべて同じ結末を迎えるわけではないということでもある。
俳優ハン・ジサンは2020年、女性A氏によるセクハラ疑惑の暴露をきっかけに私生活をめぐる論争に巻き込まれた。その影響は長く続き、最近では大学講師の任用が取り消される事態にもなった。
しかし7月2日、ハン・ジサン側は、別の人物B氏に関する検察の公訴状内容を公開し、そこに「ハン・ジサンが犯罪を行った事実も、犯罪で処罰された事実もない」と記されていると明らかにした。所属側は、B氏が長期間にわたってSNSなどで虚偽事実を流布し、俳優の公演出演など芸能活動を深刻に妨害したと主張している。

このケースは、性加害疑惑そのものとは別に、告発やオンライン上の拡散が事実関係を超えて一人のキャリアを傷つける危うさも示している。被害を訴える声を軽視してはならない一方で、何が認定され、何が否定され、どこまでが事実なのかを慎重に見極める必要もある。
ハラスメントや性加害の告発は、これまで黙殺されてきた被害を可視化する重要な契機といえる。特に芸能界のように、上下関係や現場の密室性が強い業界では、その声が持つ意味は大きい。
同時に、疑惑や告発が社会的に広がった瞬間、俳優のキャリアや作品全体が大きく揺らぐ時代でもある。だからこそ、被害を訴える声を軽視せずに受け止めながら、何が認められ、何が否定され、どこまでが事実なのかを慎重に見極める必要がある。
佐藤二朗をめぐる報道も、現時点で結論を急ぐべきではない。
俳優の言動が問われる時代において、芸能人の“その後”が世論と法的判断、そして業界の記憶によって大きく左右されることは、韓国の事例がすでに示している。
■【画像】セクハラ疑惑の韓国俳優の死から2年 MeToo暴露した女性被害者が心境語る


