「行こうぜ、行こうぜ、スターバックス行こうぜ」
知識がないことは許しても、無知は許してはいけない。
無知とは他者との関係性に対する感覚の欠如であり、相手への最低限の想像力すら持ち合わせていない状態を指す。他人が受ける傷や痛みを少しも想像していなかったことが明らかになったとき、大衆の怒りは爆発する。
なぜ「スターバックス」がダメなのか
韓国では最近、培材(ペジェ)高校野球部の一部選手が光州(クァンジュ)第一高校野球部との試合中に放った言動が大きな波紋を呼んだ。まさに深刻な無知から生じたものであり、社会的な批判が巻き起こるのも当然の流れだ。
問題が起きたのは6月29日、全国高校野球選手権大会の試合中だった。培材高の一部選手が光州第一高のダグアウトに向かって「スターバックスに行こうぜ」「タンクデー」などと叫んだことが発端だった。
「タンクデー」は、1980年5月に光州で発生した5・18民主化運動を想起させる言葉として受け止められた。当時、民主化を求めた市民や学生に対して戒厳軍が投入され、多くの死傷者が出た。現在の韓国では、民主化の歴史を語るうえで欠かせない出来事として記憶されている。
今年5月には、スターバックスコリアが「タンクデー」という名称を使ったイベントを展開し、5・18民主化運動を連想させるとして大きな批判を浴びたばかりだった。そうした騒動を想起させる言葉が、相手校へのヤジとして使われたことになる。
これは単なるヤジや挑発のレベルではない。多数の犠牲者が出た5・18光州民主化運動を揶揄するミームを利用し、相手を嘲笑したヘイトスピーチだった。フェアプレー精神が息づくべきグラウンドに、地域差別と歴史歪曲の亡霊が入り込んだのである。
波紋は瞬く間に球場の外へと広がった。
YouTube野球バラエティ『炎の野球』シーズン2は、6日に公開予定だった培材高編の配信を全面中止し、映像そのものを廃棄する決定を下した。軽率な言動によって制作スタッフが注いだ時間や労力、そして制作費が無駄になるという、大きな社会的コストが発生したことになる。
歴史認識の重要性を訴えてきた著名人や世論も強い怒りを示した。日常に浸透するヘイト文化への懸念の声が相次いだ。
俳優のハン・ジョンスは「10代、20代の日常に広がる“イルベ”(巨大ネット掲示板。日本で言えばネトウヨ的な傾向を持つ利用者が多いとされる)的な歴史嘲笑やヘイトが社会を悪化させている」と指摘した。また作家のソ・ジェウォンは「民主主義のために流された血が嘲笑の対象になってはならない」と嘆いた。
他にもタレントのホン・ソクチョンは「イメージ回復のためではなく、真摯な謝罪と歴史学習が必要だ」と訴え、韓国史講師として知られるチェ・テソンも「大人世代として恥ずかしい」と頭を下げた。

一方で、一部からは「高校生が試合中に起こした単なる騒ぎに過ぎない」と問題を矮小化しようとする声もあった。しかし、それは差別的言動を覆い隠そうとする危険な論理にほかならない。
韓国スポーツ界が抱える欠陥
今回の騒動は、単なる“未成年のヤンチャ”として片付けてはならない。韓国現代史への浅い理解と無関心が生み出した悲劇だからだ。匿名性の高いネット空間で消費されてきた悪質なヘイト文化が、現実世界へと飛び出したのである。他人の苦痛や歴史的悲劇を単なる冗談のネタとして扱う現状が、あまりにも露骨な形で表面化した。
問題を起こした生徒たちに責任があるのは当然だ。しかし、そのような無知を生み出した大人たちも責任を免れない。
「野球さえ上手ければいい」という結果至上主義のもとで、他者の痛みに共感する人格教育は後回しにされてきた。競争と勝利だけを追い求めるエリートスポーツシステムが抱える大きな欠陥が露呈したのである。
韓国野球・ソフトボール協会は培材高に対し、全国大会6カ月出場停止という重い処分を科した。スポーツ倫理センターも職権調査に着手している。

処分そのものは妥当だ。しかし、罰を与えるだけでは問題の本質は解決しない。重要なのは、空白となった歴史認識をどう埋めるかである。
学生にはボールの投げ方を教える前に、人として守るべき一線や他者の痛みに共感する姿勢を教えなければならない。エリートスポーツ界だけでなく、教育界全体においても現代史教育を見直すことが急務だ。
放置された無知はやがて嫌悪へと変わる。そして嫌悪は社会を傷つける凶器となる。今回の騒動は、韓国社会と教育界に対する極めて重い警鐘である。
「歴史を知らない民族に未来はない」
今、まさにその岐路に立たされている。


