BTSのグラミー賞エントリー見送りをめぐり、ファンや世論、海外メディアから支持の声が広がっている。
ただし、K-POPアーティスト本人たちの反応を見ると、そこには温度差も見える。
先立って、BTSのRM、JIN、SUGA、J-HOPE、JIMIN、V、JUNG KOOKは7月29日、それぞれのSNSを通じて一斉に「私たちは今年、グラミー賞にエントリーしないことにした」と表明した。
続けて、「音楽が地域や言語で区分されるより、音楽そのものとして聴かれ、愛されることを願う」と説明した。
この決定は、グラミー賞を主催する米レコーディング・アカデミーが新設した「ベスト・アジアン・ポップ・ミュージック・パフォーマンス」部門への事実上の抗議と受け止められている。

同部門は、K-POPをはじめ、J-POP、C-POP(中国)などアジア圏のポップ音楽を対象にするとされる。グラミー賞側はアジア音楽の影響力を評価する新たな部門として説明しているが、韓国では早くから「アジアの音楽を主要部門から切り離すものではないか」という懸念も出ていた。
そうしたなかでBTSが示した「地域や言語で区分されるより」という言葉は、単なるエントリー見送りではなく、グラミー賞の新たな枠組みに対する問題提起として読まれている。
国内外から支持の声、しかし…
BTSの判断に対しては、韓国国内外から支持の声が続いている。
韓国メディア『News1』は、国内ネットユーザーから「目の前の賞より後世の文化界のために本当に良い決定だ」「こうした決定は何度でも支持する。音楽が音楽そのものとして評価されることを願う」「優越主義に立ち向かった正しい決定」といった反応が出ていると伝えた。
海外メディアもこの動きに注目している。

米誌『コスモポリタン』は「BTSがグラミーの新設部門を拒否したのは正しい」と題した記事で、BTSが受賞するのであれば「トークン化された部門」ではなく、トップアーティストたちと同じ土俵で評価されるべきだと伝えた。
同記事は、K-POP、J-POP、C-POPは本来それぞれ異なる音楽であり、「アジア」という地理的枠で一括りにすることは、それぞれの音楽や文化の違いを消してしまうとも指摘している。
また、BTSの判断を「芸術は作られた場所や歌われた言語ではなく、作品そのものの価値で判断されるべきだという立場を明確にしたもの」と評価した。
英『ガーディアン』も、BTSの声明を「柔らかい表現ながらも際立った批判」と位置づけたうえで、アジアのポップ音楽界では、同部門がアジアのアーティストを主要部門から遠ざける“囲い込み”になるのではないかという懸念があると伝えている。
BTSの所属事務所BIGHIT MUSICも、韓国メディア『OSEN』に対し、「アーティストのメッセージをそのまま受け止めていただければ幸いです」とコメントした。
BTSの決定を受けて、グラミー賞側も即座に反応している。7月30日、グラミー賞を主催するレコーディング・アカデミーのハーヴェイ・メイソン・ジュニアCEOが声明を発表したのだ。
彼は声明を通じて、新設されたアジアン・ポップ部門について、「部門が増えるということは、より多くのアーティストの作品が認められるということだ。それは分断するためではなく、私たち1万5000人のグラミー投票者によって認められる対象を広げるためのものだ」と強調した。
さらに「非常にはっきりさせておきたい」と前置きしたうえで、「アジアン・ポップ、あるいはジャズやカントリーのようなジャンル部門に楽曲を提出することは、そのアーティストが『年間最優秀レコード』『年間最優秀アルバム』『年間最優秀楽曲』を含む主要部門に提出し、審査対象となることを排除するものではない」と説明した。
別のK-POP勢にはチャンスにもなる
グラミー賞側からすれば、広がる懸念に説明を加える狙いがあったのだろう。いずれにしても、グラミー賞側が立場を示したことで、BTSの問題提起はさらに大きな注目を集めることになっている。

ただし、K-POP界の内側からBTSを支持する声が大きく広がっているかといえば、現時点ではそうとは言いがたい。
明確な支持を公に示した有名アーティストとして目立つのは、音楽グループEPIK HIGHのタブロだ。タブロは7月29日、自身のSNSでRMの投稿を共有し、「ARIRANG > GRAMMYS」と書き添えた。BTSの作品の価値をグラミー賞の権威より上に置く、かなり明確な支持表明だった。
ファンや専門家、世論、海外メディアの反応は大きい。だが、K-POPアーティストたちがBTSに歩調を合わせる流れになっているとは、発表直後の現時点ではまだ言いがたい。
もちろん、沈黙しているからといって、BTSの問題提起に反対しているとは限らない。所属事務所との関係、グラミー賞への今後の戦略、海外活動への影響など、アーティスト側が簡単に発言できない事情もあるだろう。
その慎重さの背景を考えるうえで見逃せないのが、今回新設された“アジア枠”の二面性だ。

BTSが拒んだとされるアジアン・ポップ部門は、K-POPを主要部門の外側に置く“線引き”にも見える。一方で、別のK-POPアーティストにとっては、初のグラミー受賞に手が届く“現実的な入口”にもなり得る。
BTSに続くことは、グラミー賞の枠組みへの異議申し立てになる。だが、エントリーすることは、新設部門の初代受賞者を狙う選択にもなる。ここに、BTSの問題提起がK-POP界全体の声になりきるかどうかが、まだ見通せない理由がある。
日本のアーティストにも向けられた問い
そして、この問いはK-POPアーティストだけに向けられているわけではない。
アジアン・ポップ部門は、J-POPやC-POPなども対象にするとされる。つまり日本のアーティストにとっても、それはグラミー賞に近づく新たな入口になり得るわけだ。
一方で、その入口が“アジア”という地域名で設けられたことを、どう受け止めるのかという問題も残る。
グラミー賞に評価される機会が増えることを前向きに見るのか。それとも、音楽を地域や言語で区切ることへの違和感を共有するのか。
BTSが拒んだものを、別のアーティストはチャンスとして受け取るかもしれない。それは決して単純に責められる選択ではないだろう。
発表直後に見えた温度差は、K-POP界だけでなく、これからグラミー賞と向き合うアジアの音楽界全体の立ち位置を映しているのかもしれない。
■BTSのエントリー見送りにグラミー賞CEOが声明「分断ではない」


