韓国で、“親日派”が残した財産を国家が回収する動きが本格化している。
今年12月3日から、「親日反民族行為者財産の国家帰属等に関する特別法」が施行されるのだ。
日本統治期に日本へ協力した対価として取得したと認定される財産を調査し、国庫へ帰属させる。2010年に活動を終えた「親日反民族行為者財産調査委員会」が16年ぶりに復活するということだ。
さらに今回は、対象となる財産がすでに売却されていた場合、その売却によって得た金銭なども回収対象となるという。親日財産の発見や回収につながる情報提供者への報奨金制度まで設けられた。
第1期の調査委員会は2006年から2010年まで活動し、親日反民族行為者168人の財産について国への帰属を決定。韓国メディアによると、その規模は当時の時価で2373億ウォン(約268億円)相当に達したという。
今回は韓国法務省が、少なくとも325億ウォン(約37億円)以上の回収を見込んでいる。
「自分の祖先も親日派?」検索サイトまで登場
日本から見ると、かなり強烈な制度に映るだろう。ただ、韓国国内でも、その受け止め方は決して一様ではないようだ。
韓国では今、制度の復活だけでなく、「自分の祖先はどうなのか」というところにまで関心が広がっている。
話題になっているのが、その名も「親日派スキャナー」と呼ばれるウェブサイトだ。

個人開発者が制作したとされ、自分の姓と「本貫」と呼ばれる一族の系統・ゆかりの地域を入力すると、同じ姓・本貫を持つ「独立有功者」や、政府が認定した「親日反民族行為者」の名前を確認できる。
サイトでは、国家報勲部の独立有功者に関する資料や、過去の親日反民族行為真相究明委員会の決定名簿など、公的資料を利用しているとされる。
ただし、サイト側もかなり慎重だ。
同じ姓と本貫だからといって直系の血縁関係があることを意味するわけではなく、「祖先の行為は子孫個人の責任とは関係ない」という趣旨の注意書きも明記している。
それでも、こうしたサイトがSNSやオンラインコミュニティで話題になること自体、現在の韓国で「親日派」という歴史問題が、決して教科書の中だけの話ではないことを示しているといえるだろう。
背景には、一人の女優をめぐる騒動もある。
“親日派のひ孫女優”騒動も影響
最近、韓国で激しい批判を浴びているのが、女優ハヨン(本名アン・ハヨン)だ。

ハヨンはテレビ番組で、自身が「4代続く医師家系」であることを紹介。曽祖父についても、日本で西洋医学を学び、帰国後に医院を開いた人物として語っていた。
ところがその後、曽祖父とされる医師アン・サンホが、1916年に設立された親日団体とされる「大正親睦会」の評議員名簿に掲載されていた記録が注目された。
所属事務所は当初、関連疑惑を否定したものの、その後に記録の存在を確認して説明を訂正。ハヨン本人も謝罪する事態となった。
そんな騒動の最中に「親日財産」の調査委員会復活が報じられたため、韓国では「ハヨンの一族の財産も回収対象になるのか」とまで関心が広がった。
ただし、ここは誤解してはいけない。
アン・サンホは、過去に韓国政府が公式に確定した親日反民族行為者1006人の名簿には入っておらず、『親日人名辞典』にも掲載されていない。そのため、今後の調査対象になるかどうか自体が現時点では不明だ。

つまり、この制度は「祖先に親日疑惑があれば、子孫の財産を何でも没収する」というものではない。
法的に親日反民族行為者と判断され、その人物が日本への協力の対価として取得した財産なのかを確認する必要がある。
韓国人は「没収は当然」と思っている?
では、当の韓国人は今回の動きをどう見ているのだろうか。
興味深いのは、少なくともネット上では「親日財産の回収は当然だ」という意見一色ではないことだ。
「親日派スキャナー」を紹介した韓国メディアの記事には、「祖先が過ちを犯したとしても、それは子孫が選べることではない。ただ、どう向き合うかは子孫が選べる」といった意見が寄せられた。
一方で、「親日より、現在進行形の親中や親北を調べるべきではないか」という声も目立つ。
親日財産回収を報じた別の記事でも、「中国に技術を売った人間の財産も回収すべきだ」「なぜ今になって80年以上前の問題を持ち出すのか」「また反日を政治的に利用しているのではないか」など、政府の方針そのものに批判的なコメントが並んでいる。
さらに、「植民地時代を生きた朝鮮人の多くは、日本の統治体制の中で働き、生活するしかなかった。今の基準だけで簡単に親日と断罪できるのか」という趣旨の意見も見られた。
もちろん、NAVERニュースのコメント欄だけで韓国社会全体の世論を判断することはできない。政治・社会問題では、利用者層や記事によって反応が大きく偏ることもある。
それでも、「韓国人なら親日財産の回収に当然賛成する」というほど単純ではないことは見えてくるだろう。
80年前の財産を回収する理由
一方、韓国で親日財産回収が繰り返し進められてきた背景には、また別の論理がある。
それは、日本統治への協力によって得た財産であるなら、そもそもそれを子孫が当然の相続財産として受け継ぐことが正当なのか、という考え方だ。
その反対側には、独立運動に参加したことで財産や生活基盤を失い、その影響を子孫まで受けたという家族史も存在する。
韓国では「独立運動をすれば3代が苦しみ、親日をすれば3代が栄える」という言葉が長く語られてきた。李在明(イ・ジェミョン)大統領自身も昨年の顕忠日の演説でこの表現に触れている。

だからこそ、「親日によって形成された財産は清算すべきだ」という論理が、韓国社会で今なお力を持っていると見ることができるわけだ。
とはいえ、80年以上前に取得された財産をどこまで追跡できるのか、何をもって「協力の対価」と認定するのかという難しさも残る。
過去の調査委員を務めた専門家は、現金や預金、古美術品などを子孫が隠してしまえば調査には限界があると指摘している。
「親日派財産」の回収を担う調査委員会が16年ぶりに復活し、「親日派スキャナー」まで登場する韓国。一見すれば、80年以上前の歴史を今なお徹底的に清算しようとしている社会にも見える。
しかし、その韓国内でも「当然の清算だ」という声だけでなく、「子孫にどこまで問うのか」「今さらなぜ」「政治利用ではないか」と異論が出ている。
80年以上前の歴史が、今も家族や財産、そして政治をめぐる現実の問題として現れる韓国の姿は、「反日か親日か」という二択だけでは、やはり説明しきれないようだ。
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