毎年、スターを生む夏フェスとして、すっかり定着した韓国の「ウォーターボム(WATERBOMB)」。
今年もBIBI、aespa・カリナ、KISS OF LIFE、ソンミら多くのアーティストが水しぶきの中で強烈な存在感を放ち、SNSには数え切れないほどのステージ映像が拡散された。
だが、今年のウォーターボムを振り返ってみると、華やかな成功例だけでは見えてこない、このフェスのもう一つの顔が浮かび上がってくる。
それを象徴したのが、8月22日に行われた「ウォーターボム束草(ソクチョ)2026」だった。
同じステージに立ちながら、公演後の評価が大きく分かれた2人がいる。
突きつけられた「あなたの歌は?」
BBGIRLS出身のナム・ユジョンと、JEWELRY出身の歌手ソ・イニョンだ。

一方には「自分の色が見えない」という厳しい声が向けられ、もう一方には「クイーンの帰還」という歓迎の声が上がった。
その違いは、単純な歌唱力やパフォーマンスの優劣だけでは説明できない。
ウォーターボムという舞台では、アーティストが「自分の名前だけで何を見せられるのか」が、想像以上にはっきりと試されるからだ。
ナム・ユジョンにとって、今回のウォーターボムは特別な舞台だった。
2024年にBBGIRLSを離れ、女優活動などに領域を広げてきた彼女にとって、グループ脱退後に本格的なソロ歌手として存在感を示す重要な機会だったからだ。
本人も出演前、「グループ時代にも一人でソロ曲を出したことがなかった」と明かし、久しぶりにステージへ立つことへの負担を口にしていた。ソロ活動をどう宣伝するか考えるなか、音楽番組ではなくウォーターボムを選んだという。
しかし、実際のステージで披露したのは、『I really like you』(JEWELRY)、『Prince of the sea』(パク・ミョンス)、『Invitation』(オム・ジョンファ)など、既存のヒット曲を再解釈した楽曲だった。

ここで厳しい評価が飛び出した。
「本人の歌はないのか」「ソロになって何をやりたいのかわからない」「グループにいた頃のほうが輝いていた」といった声だ。もちろん、「初めてのソロ活動なのだから長い目で見たい」「新しい挑戦を応援したい」という反応もあった。
興味深いのは、批判の中心が「歌手に戻るな」というものではなかったことだ。問われたのは、“ソロ歌手ナム・ユジョンとは何者なのか”だった。
韓国メディア『OSEN』も、公演後の議論について、歌手復帰そのものより「ソロ歌手ナム・ユジョンだけの色をどこまで見せられたのか」に焦点が集まったと整理している。
ここが今回のポイントだろう。
グループを抜けてソロになったことと、「ソロアーティストとして成立すること」は、必ずしも同じではない。
ソ・イニョンには“帰ってくる場所”があった
対照的だったのが、同じ日に出演したソ・イニョンだ。
彼女は自身のヒット曲『Cinderella』『Thank You』などを披露し、会場を盛り上げた。公演後には「クイーンの帰還」といった好意的な反応が続き、本人も熱い現場の反応に感極まったと伝えられている。

ナム・ユジョンとソ・イニョンの違いを、単純に「成功」と「失敗」に分けるのは早い。
ただ、ソ・イニョンには明確な強みがあった。
イントロが流れれば本人を思い出す代表曲があり、過去の活動を知る人には「久しぶりに戻ってきた」という物語もある。
つまり、ステージに立った瞬間から「ソ・イニョンを見る理由」が成立していた。
一方、ナム・ユジョンの場合、観客が最も期待したであろう曲は、やはりBBGIRLS時代の代表曲『Rollin'』だったはずだ。しかし彼女はすでにグループを脱退しており、BBGIRLSは現在も3人で活動を続けている。
そのため、『Rollin'』を自らのソロステージの看板として前面に押し出すのは、簡単な選択ではなかったとみられる。
ウォーターボム出演が発表された段階から、「BBGIRLSの曲を歌うのか」「グループを離れたのに再び歌手活動をするのか」といった声が出ていたのも、その難しさを物語っている。
グループ時代の財産だけに頼るのも難しい。しかし、まだ「ナム・ユジョンといえばこの曲」というソロ曲もない。
その状態でリメイク中心のステージに挑んだ結果、逆に「あなた自身の色は何なのか」という問いが目立ってしまったとも考えられる。
ウォーターボムは“武器”を隠してくれない
ウォーターボムは残酷なステージでもある。
音楽番組なら、新曲そのものを紹介することができる。グループなら、メンバー同士の掛け合いやチームとしての完成度も武器になる。
しかしウォーターボムでは、ステージの数秒が切り取られ、SNSを通じて瞬時に拡散される。
そこで必要なのは、「この人といえばこれ」と、一瞬で伝わる何かだ。
今年でいえば、BIBIには賛否を呼ぶほど強烈な演出があり、カリナには一目で画になるスター性があった。KISS OF LIFEにはウォーターボムと好相性の楽曲とパフォーマンスがあり、ソンミには2018年から積み上げてきた“ウォーターボム神話”そのものがあった。

実際、ウォーターボムはこれまでも、クォン・ウンビのように出演をきっかけとして大きく存在感を高めるスターを生んできた。その意味で、このフェスを「スターを生む装置」と表現することもできるだろう。
だが2026年を振り返ると、もう一つ付け加える必要がありそうだ。
ウォーターボムは、スターを生む装置であると同時に、そのアーティストが今、何を武器に戦っているのかをむき出しにする装置でもある。
代表曲なのか、圧倒的なパフォーマンスなのか、キャラクターなのか、あるいは、その人自身が積み重ねてきた物語なのか。
水しぶきも、華やかな演出も、その答えまでは隠してくれない。ソ・イニョンには、すでに自分の名前と結びついた武器があった。しかしナム・ユジョンは今回、その“自分だけの武器”を明確に印象づけるまでには至らなかった。
スターを生んできた夏フェスは今年、その華やかさ以上に残酷な問いを突きつけた。「あなたは、一人でステージに立ったとき、何を武器にできるのか」と。
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