派手な設定なしでなぜハマる?『残念ながら明日も出勤です!』が描く、大人たちの“等身大”オフィスロマンス | RBB TODAY

派手な設定なしでなぜハマる?『残念ながら明日も出勤です!』が描く、大人たちの“等身大”オフィスロマンス

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『キム秘書はいったい、なぜ?』『社内お見合い』『キング・ザ・ランド』。日本でも高い人気を集めたオフィスロマンスのヒット作には、ひと目で物語を説明できる強烈な仕掛けがあった。完璧な財閥副会長とハイスペック秘書の絶妙な駆け引き、身代わりお見合いからの偽装カップル、豪華な高級ホテルを舞台にしたシンデレラストーリー。現実を忘れさせる強いときめきと非日常的な高揚感は、疲れた夜に観るファンタジーとして最高のエンターテインメントだった。

 一方、Prime Videoで独占配信中の『残念ながら明日も出勤です!』には、そうした「分かりやすいフック」が見当たらない。御曹司との身分違いの恋でもなければ、劇的な偽装恋愛でもない。それにもかかわらず、配信が始まるとじわじわと視聴者の心を掴み、気づけば次の話を再生してしまう中毒性を生み出している。激しい事件も派手な設定もないこのドラマは、いったい何を武器にして、私たちを物語へ引き込んでいるのだろうか。

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王道のようで、どこか違うオフィスロマンス

まず、本作がどのような作品なのかを整理しておこう。物語の舞台は、大手家電メーカー・セウム電子のデジタル家電事業部。主人公のチャ・ジユン(パク・ジヒョン)は、入社7年目で商品企画チームに所属している。一方、ジユンの隣のチームに着任した部長カン・シウ(ソ・イングク)は、「3ノー(NO)マン」——すなわち「笑わない(No Smile)」「人付き合いをしない(No People)」「簡単に謝らない(No Sorry)」として恐れられる徹底した合理主義者であった。

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 過去の苦い経験から無理のない範囲で現実的に仕事をやりくりしていたジユン。しかし、シウは彼女の才能や仕事への真摯な姿勢をしっかりと見抜いていた。新製品のタスクフォース責任者となったシウは、ジユンをメンバーに抜擢。シウとのやり取りを通じて仕事への情熱を思い出した彼女は、ともに仕事をする中で、彼の誠実さや仕事に対する熱量に触れていく。

 あらすじだけを拾うと、一見すれば「冷徹な上司と平凡な部下の社内恋愛」という、王道パターンにも思える。しかし、画面を開いてみると、先に挙げたヒット作とは少し異なる構図が見えてくる。

 二人の恋心を急加速させるようなアクシデントの代わりに、そこにあるのは何気ない日常の積み重ねだ。新型家電の役員への答申や完成発表会といった業務をともに乗り越え、仕事の合間にはハーブティーを勧め、スーパーではまとめ買いの割引商品を一緒に選ぶ。そんな時間を重ねるうちに、ジユンは冷徹に見えたシウの合理性が「ただの冷酷さ」ではなく、「筋の通った誠実さ」なのだと気づいていく。一見すると「何も起きていない」ように見える展開の裏で、本作は先に挙げたヒット作とは異なる方法で、二人のロマンスを動かしていく。

“何でもない毎日”の中から恋が生まれる

 本作を観ていて不思議なのは、画面の中で流れる時間に妙な身に覚えがあることだ。物語の始まり、ジユンは社内で「定時の妖精」と呼ばれていた。かつては仕事に情熱を注いでいたものの、無理を重ねて倒れた経験から、会社に自分のすべてを捧げることをやめたからだ。自分が数日休んでも会社は何事もなく回っていく。「壊れた部品のスペアは常に山積みだ」と知った彼女は、定時退勤を徹底する現実派へとシフトした。この仕事観に、思わず頷いた社会人は多いはずだ。

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 そんなジユンの前に現れたのが、シウである。シウが目を留めたのは、彼女の「仕事」だった。偶然拾った手帳にびっしりと書き込まれた商品アイデアを目にし、会議ではその一つを発表する機会を作る。そして、ジユンが捨てようとしたその手帳を開くと、そこにはシウの筆跡で「Good!」という温かいコメントや、既に製品化された案への「未来から来ました。発売済み」というメモが残されていた。

 シウの人柄をこんな形で見せるのが、なんとも心憎い。シウの書き込みを一つひとつ追ううちに、ジユンだけでなく、見ているこちらまで心が満たされていく。自分の地道な努力を、誰かが静かに、そして正当に見つめていてくれたこと。二人のロマンスは、運命の赤い糸ではなく、こうした「仕事を通じた相互理解」を土台にして構築されていくのだ。

大人だって、恋をすれば不器用になる

 こうして育った感情は、本人たちも気づかないうちに、何気ない瞬間へと滲み出していく。その変化を象徴するのが、シウの自宅にあるロボット掃除機だ。

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 家電のショールームさながらのシウの自宅をジユンが訪れると、二人が過ごす様子をロボット掃除機が記録していた。ふとした拍子にそのログ映像が映し出され、シウはそこに映る自分の姿に目を留める。ジユンを前にして、穏やかに微笑んでいるのだ。普段は「3ノーマン」として笑顔をほとんど見せないシウ自身も、それまで意識していなかった自分の表情を目の当たりにする。恋に落ちる瞬間を大きな事件として描くのではなく、いつの間にか変わっていた自分に気づく瞬間として描く。そこにも、本作のロマンスらしさが表れている。

 そして、恋を自覚した途端、それまで整然としていた二人の日常には、ほんの少しずつ“狂い”が生まれていく。タスクフォースが解散すればシウがアメリカへ戻ることを知ったジユンは、傷つく前に距離を取ろうと、突然タスクフォースを辞めると言い出す。ところがシウは、その理由を「自分の気持ちがバレたから避けられているのではないか」と勘違いして落ち込む。

 一方のジユンも、シウの元妻であり、自身にとっても信頼する先輩であるスジンの存在に心をざわつかせる。二人がすでに離婚していると分かっていても、親しげな姿を目にすれば嫉妬してしまう。仕事ならば冷静に状況を判断できるシウも、現実的に物事を考えてきたジユンも、恋となれば途端にいつもの自分ではいられなくなるのだ。

 だが、そんな二人の関係が大きく動く瞬間がやってくる。 チームの親睦旅行の際、距離を置こうとするジユンをシウが思わず「行かないで」と引き止めた場面だ。「どうせ離れるなら自分から去った方がまし」と言うジユンに、彼は「じゃあ引き止めて」と返す。「好きだ」と答えを提示するのでも、「一緒にいてほしい」と迫るのでもない。「引き止めて」と、最後の一歩だけをジユンに委ねる。ここまですれ違ってきたシウが、最後には相手の気持ちを確かめるように一歩踏み込む。その不器用さと大胆さが同居した一言に、大人同士ならではの駆け引きが滲む。

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 いつもと変わらない時間の中で、それまで保っていた理性がほんの少し崩れる。そのほんの少しの“狂い”が、何でもない毎日を一気にロマンチックなものへ変えていく。シウとジユンの恋をどこか他人事とは思えないのは、そんな感情の揺れに覚えがあるからかもしれない。

“普通の会社員”を見ていたくなる パク・ジヒョンの新境地

 本作に「身に覚えがある」と感じるのは、描かれる出来事だけではない。チャ・ジユンの喜びや苛立ち、迷いにもまた、妙な親しさがある。そのジユンを演じているのが、これまでどちらかといえば“身近さ”とは異なる魅力で視聴者を惹きつけてきたパク・ジヒョンであることも興味深い。

 これまでのパク・ジヒョンは、しばしば画面の中で「目を奪う」側の俳優だった。『財閥家の末息子』のモ・ヒョンミン役で見せた鋭利な美貌と野心を皮切りに、映画『秘顔-ひがん-』では見事な愛憎劇と大胆なラブシーンを披露。名だたる実力派たちが名を連ねる中で、青龍映画賞の助演女優賞を受賞した。さらに『ウンジュとサンヨン』では病を患う難役に挑み、百想芸術大賞のTV部門最優秀演技賞(女性)にノミネートされるなど、その繊細かつ緊迫した感情表現は高く評価されてきた。彼女のキャリアはこれまで、画面の空気を一変させるようなエッジの効いた役柄とともにあったのだ。だからこそ、本格ロマンスのヒロインに初挑戦した本作は、パク・ジヒョンにとって一つの転機ともいえる。

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 今作で彼女が演じるのは、特別な肩書きや強烈な個性を持たない、ごく普通の会社員だ。そこにあるのは、圧倒的な存在感で視線を奪うというより、ふとした表情や仕草に「分かる」と自分を重ねたくなるような魅力である。長時間のデスクワークを終え、帰宅後に脱力しながら飲む一杯のビールに浮かべる解放感。シウから「妹みたいに思っている」と言われて不機嫌になり、大好きなクロワッサンを頬張りながらあからさまに苛立ちを募らせる表情。感情を大きく誇張するのではなく、仕事中の緊張、疲労、恋に翻弄される隠しきれない動揺まで、彼女はその時々の感情を、細やかな表情の変化に滲ませていく。そんな“等身大のヒロイン”に説得力を与えたことが、本作でパク・ジヒョンが見せた新たな魅力なのだ。 

恋は始まる。それでも、明日も出勤する

 二人が恋人同士になったからといって、ジユンの人生が劇的に変わるわけではない。最終回、開発担当者から「君が二つの部署をつないでくれた」と評価されたように、彼女の居場所を切り拓いたのは、彼女自身が積み重ねてきた仕事だった。

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 ここまで見てくると、「特別なフックがない」という最初の印象も変わってくる。仕事も恋も、人生を劇的に変える特別な出来事としてではなく、同じ毎日の中で起こるものとして描く。何でもないように見える日々そのものを物語の真ん中に据えたことこそ、『残念ながら明日も出勤です!』が選んだ“大胆な仕掛け”だったのだ。

 恋をしても、人生が魔法のように一変するわけではない。残念ながら、明日も出勤だ。それでも、同じように見える毎日の中で、人生を少しだけ前に進める瞬間はある。本作が見つめているのは、そんなささやかな変化なのだ。

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《よしはらゆう》

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