日本では『24時間テレビ』が幕を閉じ、障害のある子どもや家族、支援のあり方が大きく取り上げられた。
その直後、海を隔てた韓国では、一人の“車いすユーチューバー”をめぐる炎上が、まったく別の方向へ広がっている。
きっかけはKTX(高速鉄道)での転倒事故だった。
だが今や、批判の対象は事故映像の公開方法だけではない。高校時代の素行、少年院説、障害等級、KTX割引、さらには妻や知人にまで広がっている。
しかも、そのなかには事実と確認できない話や、制度上ほぼ成り立たない主張まで混じっている状況だ。
車いすユーチューバーのパク・ウィをめぐる騒動は、「一度疑惑が浮上した人物は、どこまで叩いていいことになるのか」という、ネット社会の危うさをかなり露骨に映し出している。
最初はKTX映像公開への批判だった
パク・ウィは、2014年の転落事故によってまひが残り、現在は車いすで生活する人気ユーチューバーだ。

8月14日、KTXを降りる際、移動式の傾斜路を下っていたところ、車いすの車輪が社会服務要員(駅スタッフ)の足に引っかかり、転倒した。約1週間後、パク・ウィはその場面を捉えた防犯カメラ映像を自身のYouTubeチャンネルで公開した。
問題になったのは、その伝え方だった。
駅スタッフはパク・ウィを助ける過程で事故が起き、現場ではすでに謝罪していたとされる。
それにもかかわらず、100万人規模の登録者を持つチャンネルで映像を公開したことに対し、「一人の職員をさらすような形になっているのではないか」と批判が広がった。
パク・ウィはその後、映像を削除し、「職員の立場を十分に考えることができなかった」と謝罪した。ここまでは、映像公開という具体的な行動をめぐる批判だった。
ところが、問題はそこで終わらなかった。
KTX騒動の後、オンライン上では、出所のはっきりしない過去の噂まで次々と拡散され始めた。
その一つが、「高校時代に学校内で暴力行為を起こし、少年院に入った」というものだった。具体的には、当時ほかの生徒にけがを負わせ、少年院に行った後に復学したという内容まで広がった。
だが8月30日、パク・ウィと同じ高校の卒業生だと名乗る人物が反論した。
その人物は卒業アルバムを公開し、噂のなかで被害者として挙げられた2人の名前が卒業アルバムに見当たらないと主張。さらに、「少年院に行った」「退学後に復学した」といった話も一度も聞いたことがなく、もし本当にそんなことがあれば学校中に知られていたはずだと否定した。
興味深いのは、この同級生がパク・ウィを全面的に擁護しているわけではないことだ。

KTXでの対応や高額な講演料をめぐる批判については擁護するつもりはないとしながら、それでも「学校内暴力の話は違う」と線を引いた。
この姿勢は重要だ。
パク・ウィの行動を批判することと、確認されていない過去まで事実として広めることは、まったく別だからだ。
「障害1級でKTXを70%割引」も事実と違った
次に広がったのが、障害等級とKTX割引をめぐる疑惑だった。
オンライン上では、「パク・ウィは障害1級としてKTXを70%割引で利用している」「講演などで300回以上使っているなら不正乗車ではないか」「病院へ行くための割引を仕事で使っている」といった主張まで登場した。
ところが、制度を確認すると、かなりの部分が事実と違う。
韓国鉄道公社の現在の制度では、「障害の程度が重い障害者」のKTX運賃割引は50%だ。70%ではない。過去の障害等級制度でも、1~3級のKTX割引率は同じ50%だった。
また、この割引は病院への移動だけに限定された制度ではない。仕事、旅行、講演など、利用目的による制限もない。正規の資格で割引乗車券を購入しているのであれば、10回利用しようが300回利用しようが、それだけで不正乗車にはならない。
さらに韓国では2019年に障害等級制度そのものが廃止され、現在は「1級」「2級」という公式区分も使われていない。
つまり、「70%割引で300回不正利用した」という主張は、制度上そのまま成立しない。さらに「障害1級なのはおかしい」という批判も、公開情報だけで簡単に断定できる話ではない。
それでも、一度「怪しい人物」という空気ができると、こうした話まで疑惑として拡散されていく。
炎上の範囲は、さらに広がっている。
パク・ウィと妻の歌手ソン・ジウンが出会うきっかけを作ったとされる芸人キム・ギリのSNSにまで、批判や皮肉が書き込まれるようになったという。一部では家族まで持ち出した揶揄もあったと報じられ、現在はコメント機能が制限されている。

ここまで来ると、もはやKTXで何が起きたのかとはほとんど関係がない。本人の行動への批判が、過去へ広がり、障害そのものへ広がり、家族や知人へまで広がっている。
一度「叩いていい人」という空気ができると、批判の対象が際限なく広がっていく。それが今回、かなりわかりやすい形で起きている。
批判することと、その人のすべてを疑うことは違う
パク・ウィがKTXの防犯カメラ映像を公開した判断には、批判される理由があった。本人もその点を認め、映像を削除して謝罪した。
だが、それと「高校時代に少年院へ行った」「障害等級がおかしい」「KTXを不正利用した」という話が事実かどうかは、まったく別問題だ。
一つの行動に問題があったからといって、その人物の過去も、障害も、家族も、知人も、すべて怪しいことにはならない。しかしネット上では、一度「悪い人」と認定された人物について、悪い情報ほど信じられやすくなる。
そして、その人物と関係があるというだけで、周囲まで攻撃対象になっていく。

日本では同じ週末、『24時間テレビ』で障害や支援、家族の物語が大きく取り上げられた。一方、韓国では今、一人の車いすユーチューバーの障害そのものまで、炎上の材料として消費され始めている。
もちろん、この2つの事象を単純に比較することはできない。ただ、一つだけははっきりしている。
誰かの行動を批判することと、その人物について出てくる悪い話を何でも信じることは違う。
パク・ウィをめぐる騒動は、一度「叩いていい人」という空気ができたとき、その境界線がどれほど簡単に消えてしまうのかを、かなり露骨に見せている。
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