「故郷におかえり」
最近、中国・上海を訪れた歌手兼女優のIUに、そんな揶揄が飛んだ。
発端は、上海・南京東路でIUを偶然目撃したという動画だった。街中に姿を見せたIUがファンに手を振る様子が公開されると、多くの反応が寄せられた。
ところが、そのなかには「現地人」「故郷に来たことを歓迎します」「本国に帰って休んでいる」といった書き込みも並んだ。IUを中国人だと決めつけたうえで、中国訪問を“里帰り”のように扱ったのだ。
もちろん、IUが中国人だという事実はない。では、なぜこんな言葉が飛び出すのか。
実は韓国の人気スターが、本人の意思とは無関係に“中国人”にされてしまうケースは、今回が初めてではない。
IUは以前から“中国人”にされていた
IUをめぐる国籍デマは、最近突然生まれたものではない。

2021年には、中国のSNS上でIUの公演映像に中国国旗を表示し、「中国人」として扱う動画が投稿されて物議を醸した。
韓国メディア『メイル経済』によると、その動画には「中国人対カンボジア」といった趣旨のハッシュタグまで付けられていた。韓国のユーザーから抗議や訂正を求めるコメントが相次いだが、記事掲載時点でも投稿は修正されていなかったという。
それから年月が経った現在も、IUを「中国人」「中国資本の代理人」などとする根拠のない話は消えていない。
今回も、上海に姿を見せたというだけで、その古い“設定”が再び呼び起こされ、「故郷へようこそ」という言葉につながった。
ウォニョンにも長年付きまとう“中国人説”
似た経験をしてきたのがIVEのウォニョンだ。

ウォニョンをめぐっては、過去に「華僑」「朝鮮族」などとする根拠のない国籍説がオンライン上で拡散してきた。
2022年には中国メディアが、ウォニョンを「中国系」とする前提で記事を掲載したこともある。
韓国メディア『MKスポーツ』は、過去の個人情報流出やオーディション番組『PRODUCE 48』出演当時の英語名表記、中国語の発音などが歪曲され、「朝鮮族」「華僑」とする虚偽情報へ発展したと説明している。
つまりIUとウォニョンの場合、中国の一部SNSユーザーやメディアによって、韓国の人気スターが“中国側の人物”として扱われる過程で、“中国人説”が生まれてきた側面がある。
本人たちがそう名乗ったわけではない。それでも人気が高く、中国でも大きな関心を集めるスターだからこそ、「実は中国系なのではないか」という物語が外側から作られていったといえるだろう。
ツヤンは別方向から“中国人”にされた
ただし、“中国人説”が生まれる経路はひとつではない。チャンネル登録者数1340万人の人気ユーチューバー、ツヤンの場合は、IUやウォニョンとは少し事情が違う。

ツヤンは2025年、YouTube番組で、自身をめぐる最も荒唐無稽な虚偽情報として「中国人説」と「中国勢力の支援説」を挙げた。
当時1200万人だった登録者数について、「中国勢力が支援しているからこれほど多い」と言われ、さらに自身も「中国人だ」とされたという。
こちらは中国側から“自分たちのスター”として扱われたというより、ツヤンをめぐって広がった虚偽情報のなかで、中国との関係を勝手に作られたケースに近い。
人気の理由を「中国の支援」に結びつけ、本人の実績そのものを疑わせる材料として国籍が利用された格好だ。
なぜスターの国籍まで勝手に変えられるのか
IUとウォニョンは、中国側の一部言説のなかで“中国人/中国系”として扱われた。一方のツヤンは、攻撃材料として中国との架空のつながりを作られた。
出発点は違う。しかし、3人に共通していることがある。それは本人の実際の国籍とは関係なく、第三者が勝手に“別のプロフィール”を作っていることだ。
そして一度その設定が広まると、その後に起きる出来事まで、その偽情報に沿って解釈されてしまう。IUが上海へ行けば「本国に帰った」。ウォニョンの中国語の発音は“中国系説”の材料にされ、ツヤンの膨大な登録者数は「中国勢力のおかげ」とされた。

最初の根拠がなくても、一度作られた物語が、次の出来事を説明する“根拠”として使われてしまう。
中国人であること自体が問題なのではもちろんない。問題なのは、本人とは無関係なところで国籍を作り変え、その偽のプロフィールを使って、さらに別の批判や揶揄を積み重ねていくことだ。
IUが上海を歩いただけで飛んだ「故郷におかえり」という言葉。その短い一言の裏には、何年も前から積み重なってきた国籍デマがある。中国側の言説から生まれたものもあれば、人気を貶めるために作られたものもある。
生まれ方は違っても、本人とは無関係に“国籍”を書き換えられている点は同じだ。そして、それはIUだけの問題ではない。


