「旭日旗の持ち込み禁止が公式案内板に書かれたことには、大きな意味がある」
韓国の大学教授が、愛知・名古屋アジア大会の対応をそう評価した。
ところが、その約1時間半後、大会組織委員会は「当然、旭日旗は持ち込み禁止の対象ではなく、現場の誤った認識により掲示したもの」として公式に謝罪した。
評価されたはずの案内板が、ほどなく大会側によって不適切な掲示と位置づけられたのだ。
相次ぐ運営トラブルが問題視されている今回のアジア大会。国際大会におけるルールの共有と現場対応の難しさが、一枚の案内板を通じても浮き彫りになっている。
韓国教授が評価したのに…まさかの公式謝罪
発端は9月26日、愛知県の岡崎中央総合公園野球場で行われた野球のチャイニーズ・タイペイ対日本戦だった。
会場入口などに、旭日旗と中華民国(台湾)の国旗を例示し、「上記の旗は持ち込めません」と記した案内板が掲示されたのだ。この案内板は翌27日に撤去された。

すると9月28日午前8時ごろ、韓国・誠信(ソンシン)女子大学のソ・ギョンドク教授が自身のSNSで、この出来事を取り上げた。
ソ教授は、案内板がわずか一日で撤去されたことにも言及したうえで、「アジア大会組織委員会が設置した公式案内板に『旭日旗持ち込み禁止』と書かれていたことには大きな意味がある」と評価した。
さらに、今後の国際スポーツ大会で旭日旗を使った応援を防ぐための「良い先例として活用できる」との見方を示している。
ところが、同日午前9時28分。大会組織委員会は公式サイトに「野球競技会場における不適切な掲示についてのお詫び」を掲載した。教授の投稿から、およそ1時間半後のことだった。
大会側「旭日旗は持ち込み禁止ではない」
組織委員会は公式発表で、大会の円滑な運営に向け、観客に一定の禁止事項を設けていると説明。「参加国以外の国旗を掲げること」も禁止行為として案内しているとした。
そのうえで、今回の旭日旗に関する掲示について、次のように明言した。
「しかしながら当然、旭日旗は持ち込み禁止の対象ではなく、現場の誤った認識により掲示したものであり、観客の皆様に不快な思いを抱かせる結果となったことを、深くお詫び申し上げます」
組織委員会はさらに、旭日旗の扱いについて全競技会場への周知徹底を行うと表明した。
つまり、正式な禁止方針を後から撤回したのではない。大会側の説明では、そもそも旭日旗は持ち込み禁止の対象ではなく、現場の認識が誤っていたということになる。

ソ教授は、わずか一日で撤去されたものの、案内板が掲げられたこと自体に意義を見いだしていた。しかし大会側は、その掲示自体を不適切なものとして謝罪した。
偶然とはいえ、何とも間の悪い展開となった。
台湾でも反発…一枚の案内板が生んだ波紋
一方、この案内板をめぐっては、台湾でも別の反発が起きていた。
問題となったのは、台湾の旗が旭日旗と並べて持ち込み禁止の対象として表示されていたことだ。
台湾は国際スポーツ大会に「チャイニーズ・タイペイ」の名称で参加している。今回のアジア大会でも、会場内で使用できる旗や応援グッズの扱いが議論を呼んでいた。
韓国『聯合ニュース』によると、台湾の最大野党・国民党の議員は、台湾の旗を旭日旗と並べて禁止対象とした掲示について、意図的な「侮辱」だと主張した。
これに先立つ9月25日の台湾対中国戦でも、観客が「TAIWAN」と書かれた台湾プロ野球リーグの応援タオルを振ったところ、大会スタッフに制止されたという。台湾側の関係者は、応援行為への対応に反発している。

韓国では旭日旗の禁止が注目され、台湾では自国の旗の扱いが問題となり、日本の大会組織委員会は掲示の誤りを認めて謝罪した。一枚の案内板が、それぞれ異なる争点を生み出した形だ。
なお、台湾の旗をめぐる問題と旭日旗の扱いは、背景も争点も異なる。だからこそ、複数の国・地域が参加する大会では、案内の内容とその根拠を正確に共有する必要がある。
国歌取り違え、送迎バス…相次ぐトラブル
もっとも、今回の大会で混乱を招いたのは、一枚の案内板だけではない。
9月18日のホッケー男子、韓国対バングラデシュ戦では、試合前に韓国の国歌ではなく北朝鮮の国歌が流れるミスが発生した。
20日には、バスケットボール男子の決勝に臨む韓国代表を迎えに来るはずの送迎バスが現れず、チームが試合直前の練習を中止する事態となった。
さらに、選手団の宿泊環境をめぐっても不満が噴出。仮設のコンテナ型宿舎では、長身の選手に対してベッドが短いことや、室内での水漏れなどが報じられ、ホテルへ移ったチームもあったという。

いずれも、競技そのものとは直接関係のないところで生じた問題だ。
海外メディアからも大会運営に対する厳しい声が上がっており、日本国内でも、一連の不手際をめぐる報道が相次いでいる。
今回の案内板も、組織委員会によれば「現場の誤った認識」が原因だった。単なる掲示物のミスとはいえ、国際大会では、会場入口の案内も大会全体の公式方針として受け止められる。
しかも、その掲示は国境を越えて拡散され、韓国では評価され、台湾では反発を招いた。撤去や謝罪によって訂正する頃には、すでに各国・地域で別々の議論が始まっていたのだ。
国歌の取り違えに、選手の輸送や宿泊、そして今回の案内板。問題の内容はそれぞれ異なるが、競技に集中できる環境を整え、各国・地域の選手や観客を迎えるという、大会運営の基本に関わるものばかりだ。
残る大会期間、こうした混乱をどこまで防げるのか。一枚の案内板をめぐる騒動は、愛知・名古屋アジア大会が抱える運営上の課題を、思わぬ形で映し出すことになった。
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