【「エンジニア生活」・技術人 Vol.22】お客様のニーズにあった最適なサービスを提供する——NECビッグローブ・西本純子氏
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こうした企業向けサービスを顧客の要望に合わせてコーディネートしたり、プロジェクト管理を行なうのが、ビジネス事業部主任の西本純子氏の仕事だ。普段はテレビ局をはじめとしたメディア企業などの、比較的大規模な新サービス構築に関わることが多いという。直接的に開発に携わるわけではないが、必要なサービスや技術の提案を行うなど、エンジニアに近い側面もある。
西本氏は自身のミッションを「顧客の要望に応えうるコンポーネントを用意して提供すること」と語る。では、求められる要望とはどんなものなのだろうか?
■大規模運営が信頼性を担保する
ホスティングサービスに求められるものはさまざまだ。だが、そんななかで西本氏が扱う大規模な案件で求められるのは何よりもまず安定性だという。「場合によっては瞬断でも落とさないでくれと言われることもあります。そういった安定性を重視すると、使う技術もある程度成熟したものでなければ提供できません」。
だが、もちろん使う技術の選定だけで同社のサービスが安定しているわけではない。同社のサービスの信頼性を担保しているのは、スケールメリットだ。「ビッグローブでは何百台というサーバを一括して管理、運営しています。その膨大なサーバを、セキュリティ部隊、運用部隊といった分業制で、細かいレイヤーごとに専門家が管理を行なっています」。
専門部隊を用意することは、ほかのベンダーでも物理的には可能だ。しかし、規模が小さいと、分野ごとに人員を当てていくような運営方法では管理コストが高騰してしまう。一定の規模で運営しているからこそ、よりきめ細かな管理を低コストで行えるようになるのだ。
また、ビッグローブ自身がポータルサイトの運営を行なっていることで、サイトの運営ノウハウを持っていることも、顧客が評価するポイントだという。「通常のIDCやSIerの場合、サービスの全体像を把握して運営するわけではありません。ですので、たとえば『アプリケーションとしては正常な動きをしているが、サイトのサービスとしては正常ではない』という本末転倒な事態も起こりえます。しかし、弊社はハードウェアやアプリケーションを含めて、自分たちでポータルサイトを運営している。サイトやインフラの運用でそういう部分をわかってもらえるだろうという期待を感じることも多いですね」。
■顧客が自分の要望を把握しているとは限らない
とはいえ、顧客のニーズに答えるのはそう簡単ではない。大きなハードルは要件定義だ。具体的に何をどんなスケジュールで行なうのかの確定作業だが、ケースによっては困難を極めることもある。
西本氏は「場合によっては、要件を見て怒りを覚えることすらありますね」と笑う。まだ何も決まっていない段階で、顧客が大々的にサービス開始の日程を発表してしまったケースもあったという。「どう考えても半年はかかる作業だったのですが、2カ月後にはサービスを開始しなくてはならなくて。無理矢理間に合わせました(笑)」。
要件定義で難しいのは条件をクリアすることだけではない。そもそも顧客が何を望んでいるかを理解するのも大変な場合があるという。「私たちが相手の要望を理解できないということではなく、顧客自身が何が必要なのか十分イメージしきれていないんです」。
実際に発注する顧客は、システム関係の部署に所属する人の場合もあれば、企画系の部署に所属するITにあまり詳しくない人の場合もある。漠然と「こんなサービスをしたい」というイメージしかない場合には、具体的に何が必要なのかを固めていくだけでも大変な作業だ。「要件定義を終えたらまず一段落。達成感がありますね。もちろん開発が始まっても緊張の連続ですが」。
■技術は変わってもミッションは変わらない
ビッグローブが現在力を入れている分野の1つに、SaaS事業がある。とはいえ、もともとSaaSは中小規模の企業に適した提供形態だ。現時点では大規模案件でSaaSに対する要望はそれほど多くないと西本氏は指摘する。しかし、大企業などにはSaaSは必要ないかというとそうではない。「たとえば新しいプロジェクトやサービスを始めるときに、最初から大きな予算がつくということはあまりないでしょう。そういう場合はSaaS型の方が取っつきやすいと思います」。
また、大規模案件の場合でも、イベントなどによって一時的にアクセスが集中することもある。もちろん事前に予測が付いている場合は準備しておけばいいが、アクセスの集中は予測できないケースも多い。不測の事態には対応したいが、通常時にまで同じ規模のサーバやシステムを使い続けたくない。そんな要望もあるという。そういった場合にも、使用した分だけ課金を行なうようなモデルが求められる。
「ウェブサイトを作るハードルは低くなっていますが、ウェブサイトを使って動的なコンテンツを作ろうとすると、とたんにハードルが上がってしまいます。サービス提供の部分でハードルを下げていくのがSaaSの役割だと思います」。西本氏はそう述べる。
では、そうした提供するサービスやコンポーネントの変化で、西本氏の仕事もまた変化していくのだろうか。氏は扱うサービスが変わってもミッション自体は変わらないという。「いろいろなサービスや技術が日々開発されていますが、お客さんの要望に合ったサービスを探して提供するのがミッションです。今までもそうだったし、これからも変わらないと思います」。
西本氏はまた、そうした仕事への向き合い方は、エンジニアでもそうでなくても同じなのではないかと指摘する。「社会人として一番役に立った経験は、営業の仕事で顧客に怒鳴られたことです。自分の立場だけでなく、相手の立場をきちんと想像して話をする。そういうことができなければ、どんな仕事をしていても意味がないと思います」。
「この先、インターネットというものがどうなっていくか見届けたい」と語る西本氏。だが、インターネットがどう変わっていこうと、氏の仕事の本質はきっと変わることはないだろう。
《小林聖》
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