【WIRELESS JAPAN 2009 Vol.3】ドコモの触力覚メディア、直感検索・ナビを体感する
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●「触力覚メディア」
まず「触力覚メディア」を見ていこう。展示されていたデモは、手元で遠隔操作をするレバーのついた「箱」と、同じ外形をしたリモート側の「箱」で構成されており、手元の箱がマスタ装置となり、リモート側の箱が「スレーブ装置」として働く。箱には小さい操作レバーがついている。マスタ側のレバーを動かすと、それに追従してスレーブ側のレバーが動く。これだけでは、ただのリモコンと変わらない。触力覚メディアのすごい点は、スレーブ側での動きに合わせた感触が、マスタ側のレバーでも再現されるという点だ。
つまり、スレーブ側のレバーに何か物体が触れていたり力がかかったりすると、それと同じ力がマスタ側のレバーにも伝わってくる。デモでは、レバーの先につけたピックでギターの弦を弾くことで、この感触が体感できるようになっている。マスタ側では普通にレバーを左右に動かすだけだが、実際に操作をしてみると、本物の弦を弾いているような「ひっかかり」と「急に力が抜ける」動きを繰り返す。非常にリアルな動きだった。
本物のような手ごたえを再現するなら、アーケードゲームの車のハンドルが重くなったり、Wiiリモコンが振動するなど珍しくもすごくもない、と思うかもしれない。しかし、これらはあくまでバーチャルな状態をプログラムや疑似的な力で再現しているにすぎない。触力覚メディアの場合、手元のハンドル型コントローラが遠隔地の実際の車のハンドルと連動しており、その操作に必要な力や路面の凹凸などがリアルタイムで伝えられてくるということだ。
実際、このシステムを災害現場などでの重機の遠隔操作などに応用できるという。人間が近づけないところでも(例えば火山ガスが発生している現場)、ショベルカーやクレーンなどの遠隔操作が現場で操作しているような精度で操作できるという。リモコン操作ができる重機というのもすでに存在しているが、アームの操作などは目視かカメラ映像(+音声)によるフィードバックのみで行う必要がある。これだと、例えば重機が地面を掘っている時に、シャベル部分が土の中で固い岩などに当たったとしてもわからず、無理な操作をしてしまうことがある。触力覚メディアによって、クレーンのような微妙の操作が必要なものの遠隔操作も操作性の向上が期待できる。
ところで、スレーブ側の力や感触はマスタ側でどのようなしくみで再現されるのだろうか。装置の操作レバーはそのままモーターの軸に直結されている。マスタ側でレバー操作を行えば、レバーを動かしたことによるモーター軸の回転や加速度の情報を、スレーブ側に送ることができる。スレーブ側のレバーもマスタ側と同様にモーターで制御できるようになっているが、スレーブ側にはギターの弦があるため、レバーの先につけたピックが弦にひっかかり、モーターはリニアに動かない。このときのモーターの動きをそっくりマスタ側にもどしてやり、マスタ側のモーターを動かすようにすることで、ギターの弦をはじく感触となって再現されるわけだ。
さらに、このような制御をするときに問題になるのは「通信遅延」だ。遅延が一定ならば、反応が遅れるだけだが、遅延に揺れ(ジッタ)がある場合、リアルな感触の再現には程遠くなってしまう。触力覚メディアの開発には、この遅延制御とジッタなどを実際の力が変動する外的要因として補正制御する技術が重要だったという。
レバーやモーターにはギアを一切使っていない。ギアの機構が入るとバックラッシュ(歯車のかみ合わせの遊び)が違和感を増幅させてしまうという。また、圧力センサなどを用いると、リアルタイム制御が難しくなるので、操作部の機構は比較的シンプルになっている。
デモでは、マスタとスレーブ間の通信は有線で行われていたが、通信遅延などをシミュレートした環境で動かしていた。実際には、FOMA網での実験やLTEでの実験が行われている。現状では1軸での制御だが、当然2軸、3軸での制御まで発展させれば、かなり精度の高い操作が実現可能となり、遠隔医療に「触診」を取り入れるなど、応用範囲が広がるだろう。
●「直感検索・ナビ」
続いて「直感検索・ナビ」のデモコーナーを体験させてもらった。これは、いくつかの点でドコモの新しいチャレンジが見られる展示だった。まず、新しい直感的・体験的なコミュニケーションサービスというコンセプトで、自分がみている方向の情報を検索するという発想をどのようにインターフェイスとして実装するか、という点。これが冒頭の「直感検索・ナビ」につながる。
その検索についても、これまでのドコモのサービスと違って、データやアプリケーションを限定したり囲い込むことはしない。わかりやすく言えば、検索したい方向のお店や情報は、インターネット上の各種サービスやデータベース、掲示板などを利用できる形になっている。
端末についても、デモではAndroid端末が利用されていたが、これは新しいUIを実現するために必要なモーションセンサー、ジャイロセンサー、GPS、タッチパネル、カメラなどが搭載されている端末として手頃なものがそれであったということで、実際のアプリケーションはAndroidやWindows Mobileなどの区別なく開発できるという。ウェブ上のオープン系サービスを利用するが、HTTPなどを実装しやすいオープン系のOSに制限されるということもないそうだ。HTTPによるウェブとのやり取りはドコモのサーバーが仲介するので、端末側にLinuxやWindows、ブラウザなどが必須というわけではない。サービスやハードウェアもオープンだという。
そして、メールを「投げる」という新しいコミュニケーションスタイルの提案も行っている。これも触力覚メディアと同様に、細かく説明するよりデモの様子をお伝えしたほうがわかりやすいだろう。デモは本来屋外でできればよいのだろうが、会場内に設置された屋外風景写真の前で、直感検索・ナビの機能を実装したHTC端末をかざしてみる。すると、画面にはGoogleマップのようなバルーンアイコンが表示され、その方角にあるお店の情報などが検索できるということを示してくれる。そのまま端末を横に移動させると、バルーンアイコンが切り替わっていく。表示させるアイコンも、飲食店やショッピングなどジャンルごとの表示も可能だ。
そのお店の詳細情報が知りたければ、バルーンアイコンをつつけばよい。あとは通常のPDAや携帯電話のサービスと同じだが、細かい操作についても「直感」「体感」を意識した工夫がされていた。
メニューアイコンやバルーンアイコンなどは、縦横に整列するのではなく、円周、もしくはらせん状に配置される。指を回す操作を基本に考えたことによる配置だそうだ。画面を立てて、風景にかざすときはカメラ表示だが、そのまま下におろして画面を水平にすると、地図表示へと自動的に切り替わる。これは、方向と目的地が決まったら、地図をみながらの移動やナビゲーションに移るという操作を想定している。
携帯電話をかざした方向の情報は、GPS情報による現在位置と方位センサによる方向によって得ている。慣れていない地下鉄の駅から地上にでたとき、どちらの方向になにがあるのか、などという検索に便利に使えそうだ。地図表示をビル名やランドマークの表示にしておけば、目的地に近い場合、端末を地上風景にかざして周囲を「検索」してみると、行き先の方角、直線距離などがすぐにわかるというわけだ。
ランドマークや店舗を示すバルーンアイコン以外に、登録した友人の位置を示すアイコンを表示させることもできる。自分や友人の位置はGPS情報をサーバーに送信することで判断している。店舗情報や友人の位置など、どの程度の範囲までを表示しているかというと、半径200m〜2kmの範囲で設定ができるという。
もし近く、または設定範囲内に友人がいたら、メールを作成して、その方向に向けて「投げる」動作を行うと、メールが飛んでいく。これが「投げメール」なのだが、単に端末を持って投げる動作すればいいというわけでもない。投げる動作の速度や勢いによって、メールの届く距離も変わってくるそうだ。さらに、ただ友人の方向に投げたからといって、その友人に確実にメールが届くわけではない。投げたメールは相手の現在位置の近くに届いていれば、画面で確認して開くことができるが、投げる距離が足りなかった場合は、メールが届いた場所の近くに、相手がくるまでメールを認識することができない。
「投げる」という動作が、メールを送信するという操作になっているのではなく、あくまでもメールをその方向に投げるだけなのだ。なんとも変わったユーザーインターフェイスだが、リアル、直感に近づけるために、あえてそのような仕様になっている。また、そのことによって、新しいコミュニケーション方法や遊び方が広がるのではないかという発想でもある。確かに、実用的な応用はかなり限定されそうな投げメールだが、ゲームや遊びにはいろいろ使えそうな機能である。
ちなみに、投げメールは登録した友人同士でしか有効ではないので、自分の周辺にスパムメールが散乱するようなことはないそうだ。
「WIRELESS JAPAN 2009」のドコモブースでの革新的なサービスとインターフェイスについての2つのデモを紹介したが、「コミュニケーション」ツールとして会話や通常メール以外の可能性を示唆するもので、今後の携帯電話市場のさらなる広がりを予感させるものといえるだろう。
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