【テクニカルレポート】効果的なプロジェクト計画の立案プロセス(後編)……ユニシス技報 | RBB TODAY

【テクニカルレポート】効果的なプロジェクト計画の立案プロセス(後編)……ユニシス技報

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図15 プロジェクト計画立案時の技法
図15 プロジェクト計画立案時の技法 全 1 枚
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4. プロジェクト計画立案における要点

 これまでISBPでのプロジェクト計画立案の考え方を紹介してきたが、ここでプロジェクト計画立案の目的を端的に表現すると、

・目標達成に向けて、プロジェクトチームに指示を与え、何をすべきか、どの方向に向けて作業するかを理解させること

・チームの状況を評価し、完成までのコスト生産性を把握して、プロジェクトが推移すべき正しい工数とコストを予測できることである。だが実態としてこれらのことがなかなか実現できず、失敗するプロジェクトは少なくない。

 プロジェクト計画立案では、先ず何よりも、アサインされたプロジェクトマネジャが計画の重要性を認識し、計画立案に最善の努力を払わなければならない。そのためには、経験・知識の活用と分析技法を適用する方法が考えられる。経験者・有識者に助言を求めレビューを依頼するという、謙虚でかつひたすら熱意を注ぐことが不可欠である。この謙虚に熱心に求める姿勢こそがよい計画立案の原点であると筆者は確信している。過去の同様なプロジェクトないしシステムの開発事例や実績を積極的に調査することが殆どの場合重要であり欠かせない。人に教えを乞い、事例を懸命に求める行動は、プロジェクト成功へひたすら熱意を注ぐことから生まれる。方法論やツールの重要性に加えて、最後は使う側の問題に帰着する。

 使う側が上述した条件を満たしている前提で、重要な点は計画立案のための合理的なプロセスを実施することであり(3. 4節の「計画の立案プロセス」で紹介したISBPの計画立案プロセスがその典型である)、もうひとつはツールの有効活用を図ることである。計画立案プロセスで特に強調すべきは、最初の三つのステップである。1.要求のベースライン化、2.プロジェクトアプローチ、3.技術的アプローチは、プロジェクト計画を作成するためのしっかりした土台をつくり、さらにどのようにして計画立案を確実に実施するかの指針を提供するという点でキーとなるステップである。この後は、WBSを作成しプロジェクトネットワークを作成することが続くが、この二つは、プロジェクト計画の他のプロセス、すなわちリスク管理計画、工数や期間の見積り、スケジュールなどを作成するためのベースとなるものである。

 プロジェクト計画を上位マネジメントや経験豊かな識者によってレビューすることが極めて重要である。このレビューの場で、プロジェクト計画および予定しているプロジェクトコントロール方式の完成度と有効性を評価し、必要な指摘事項があればそれを指摘し、計画に問題が無ければその計画に承認を与える。問題や指摘事項が何も無いということは考えられず、潜在する問題を指摘できないレビュー者なら、それは論外である。こうしたレビューの場が、プロジェクトマネジャへの格好のOJT(On the Job Training)の場となり得るものであり、レビュー者もレビューを受ける側もこの側面を明確に意識して、レビューの場を最大限に活かすよう努めるべきである。この積み重ねにより、より精度の高いプロジェクト計画が次第に作成され、プロジェクトマネジャが育っていくことになる。明日から急によい計画を作成できるようになることなどあり得ないことである。

 ところで、プロジェクト計画立案過程での各種意思決定の問題、例えばそれらはリスク管理、あるいはスケジュール、コスト、品質等における問題であるが、プロジェクトマネジャのこれらの意思決定を支援するアプローチをどうするかについて、筆者はこれまで検討を続けてきた。このアプローチには、ISBPが定めたプロセスを確実に実施すること、上述したような経験者・有識者に助言を求め、レビューを受けて計画に反映させること、および経験や知識の活用に加え、意思決定分析技法を適用する方法が考えられる。

 意思決定分析等による科学的なアプローチは未だ部分的な適用事例にとどまっている。大規模な開発プロジェクトやリスクの大きい開発プロジェクトでは意思決定のための科学的なアプローチが必要になっており、どのような技法をどの範囲に適用できるかが課題であると考える。

 プロジェクト成功のために重要なことは、より優れた意思決定を行うことであり、この意思決定スキルが重要視される。プロジェクトマネジメントに使う分析の手法などを例として図15に示す。分析手法によってリスクや不確実性を数値化すると、プロジェクトのライフサイクルにわたって発生する意思決定に大いに役立つと確信する。数値化とは、プロジェクトがもつ定量的な側面に存在する測定可能な指標である。数値がほしい定量的な面としては、範囲、規模、費用、リスク、品質、時間などがある。これらを数値化して捉えることにより、事実関係が明確化し、課題や問題点に対する解決策や代替案、制御に意味ある結果をもたらし、結果の価値の尺度にもなる。これらの計上された数値の実績は、プロジェクトの実績記録として役立つデータとなり得ることは間違いない。データが示してくれる傾向は、的確で信頼のおけるものとなり、効果的に利用することが可能となる。

5. おわりに

 計画の重要性については誰しもが思い反対する人はいない。しかし、単に思っているだけではよい計画を作るために力の限り注力することにはつながらない。プロジェクト計画立案とプロジェクトコントロールとは、ISBP の主要な支柱である。計画があっての実行コントロールである。計画が無ければコントロールができず、それはあたかも俗に言う“行き当たりばったり”の状況である。そして、よい計画が無ければ、よいコントロールもできない。プロジェクトが失敗することを想像すれば、それは悲惨なものである。顧客に多大な迷惑をかけ、労力とコストの大半は泡と消え、メンバには疲労と虚無幻滅感を残すのみである。さらに後々への影響を考えればマイナス面は測り知れない。「マネジメントとは、人的資源と物的資源を、ダイナミックな組織体に結集させて、お客さまへは満足を、部下へは高いモラルと喜びを与えつつ、組織体の目的を達成させる行為である」という、かつてのL. A. アプリーによる本質的な定義を今一度かみしめたい。プロジェクトマネジャの使命の重さを自覚し、よい計画立案のために自分の限られた経験と能力に上司や経験を積んだ人の知恵を結集するよう手立てを尽くし、過去の多くの経験を基に体系づけられた方法論に加えて適切なツールの活用を図り、計画のレビューを受けて可能な限りよい計画に仕上げなければならない。その計画に基づいてプロジェクトをコントロールし、計画の恩恵に実際にあずかった人が、計画の重要さを真に知る人であると言える。単なる理解から認識に至ることが重要である。

 最後に、マネジメントには、プロジェクトマネジャを育てていくという重要な役割があり、その能力を備えていなければならない。計画立案のレビュー、プロジェクトの実行におけるマネジメントレビューの場は、プロジェクトマネジャへの絶好のOJT の場という今ひとつの副次的な効果を狙える場であるという側面も念頭に置くべきであることを再度強調しておきたい。

■執筆者紹介(敬称略)
・田中修二
技報編集委員会 改修

※同記事は日本ユニシスの発行する「ユニシス技報」の転載記事である。

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