【テクニカルレポート】地域への貢献を目指す“地域ICTサービス”について── ICTで地域にリーズナブルな革新を……ユニシス技報 | RBB TODAY

【テクニカルレポート】地域への貢献を目指す“地域ICTサービス”について── ICTで地域にリーズナブルな革新を……ユニシス技報

ブロードバンド テクノロジー
図1 地域ICTサービスの全体像
図1 地域ICTサービスの全体像 全 4 枚
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【要約】
 社会経済情勢が大きくかつ急激に変化する中、行財政改革への取り組みに迫られている地方自治体では、自治体クラウドへの関心が高まっている。自治体クラウドは、クラウドコンピューティング技術を電子自治体の基盤構築に用いることで、情報システムの効率的な整備・運用や住民サービスの向上等を図ることを目的としており、国や地方自治体において様々な取り組みが行われている。

 このような環境の下、日本ユニシスでは、「ICTで地域にリーズナブルな革新を」をコンセプトに、地域への貢献を目指す「地域ICTサービス」を発表した。地域ICTサービスは、地域にフォーカスした多様なサービスをワンストップで提供するクラウドサービスの集合体で、地方自治体の業務効率化を推進する自治体ICTサービスと、地域協働型の街づくりを支援するパブリックICTサービスから構成され、「Civicloud」、「SAVEaid」、「LIBEaid」等のサービス製品をリリースしている。

 今後、地域ICTサービスが顧客の支持を拡げていくためには、サービス・インテグレーションというコアコンピタンスを中核に据え、魅力的なコンテンツをクラウドサービスとして提供していくことだけではなく、「幅広いエリア・団体に跨る顧客層に対して、地域の課題解決に有益であることを認知してもらう活動」、「サービスの販売や適用を通して、地域の活性化に繋がる地場企業との協業」、「時間や空間の障壁を取り払うクラウドサービスだからこそ実現できるコストメリットの追求」等を強化し、地域と共に課題の解決に取り組んでいくことが重要である。


1. はじめに
 人口の減少や少子高齢化の進行、景気の低迷や大規模自然災害の発生等、社会経済情勢が大きくかつ急激に変化する中、行財政改革への取り組みに迫られている地方自治体では、自治体クラウドへの関心が高まっている。

 これまで、国や地方自治体をはじめとするパブリックセクターでは、業務処理の電算化、レガシーマイグレーションによるコスト削減等に主眼がおかれていたため、ICTの進展がもたらした「時間や空間の制約を超えたサービス提供」という恩恵を充分に活かすことができていない。自治体クラウドは、クラウドコンピューティング技術を電子自治体の基盤構築に用いることで、情報システムの効率的な整備・運用や住民サービスの向上等を図ることを目的としており、国や地方自治体において導入に向けた様々な取り組みが開始されている。

 このような環境の下、日本ユニシスは 2009年10月、「ICTで地域にリーズナブルな革新を」をコンセプトに、地域への貢献を目指すクラウドサービス「地域ICTサービス」を発表した。本稿では、国や地方自治体の動向を踏まえながら、地域ICTサービスのコンセプトやサービス製品の概要、活用事例等を紹介する。


2. 国の施策と自治体クラウドの進展
 政府は、2006 年に「新 IT 改革戦略」を策定し、電子行政について「住民サービスに直結する地方自治体の電子化が十分ではないなど、国民・企業等利用者が利便性・サービス向上を実感できていない」と指摘するとともに「行政分野への IT の活用により、国民の利便性向上と行政運営の簡素化、効率化、高度化及び透明性の向上を図る」ことを掲げている。このことを受け、電子自治体を推進するための指針として策定された「新電子自治体推進指針」では、「2010 年までに利便・効率・活力を実感できる電子行政を実現すること」を目標とした。

 しかしながら、電子自治体の推進にあたっては、情報システムの開発や維持管理に多大なコストが必要な上、個人情報保護や災害時の業務継続など、情報システムに求められるセキュリティ対策はより厳格化していることから、地方自治体の財政的な負担や人的な負担は一層重さを増しているところである。

 一方で、情報通信技術の進展を背景として、ブロードバンド環境とデータセンターを活用したクラウドコンピューティング技術が急速に普及しつつある。クラウドコンピューティングのメリットは、多くの利用者がネットワークを介して情報システムをシェアし、効率的な運用と規模の経済性を生み出す点にある。利用者にとっては、コンピュータを個別に所有するのではなく、必要に応じて利用するという形態となることから、個々のニーズに応じたサービスを低コストで利用することが可能となる。

 自治体クラウドは、この新たなクラウドコンピューティング技術を電子自治体の構築にも活用していこうとするもので、情報システムの効率的な整備・運用や住民サービスの向上を図ることを目的としている。

 総務省では、クラウドの導入を促進することは、行政コストを大幅に圧縮し住民本位の電子自治体を確立する観点から、喫緊の政策課題としており、総務大臣を本部長とする「自治体クラウド推進本部」を設置している。また、「地方公共団体における ASP・SaaS 導入活用ガイドライン」の作成、基幹業務をクラウドによって実現し技術的な検証を行う「自治体クラウド開発実証事業」、パッケージシステムに基づく自治体業務の標準化の可能性について検証する「自治体の行政改革モデル検証」などにも取り組み、その普及に努めている。


3. クラウドサービスに対する地方自治体の意識
 クラウドコンピューティングへの取り組みが進む一方で、利用者側からは、「カスタマイズへの対応」や「セキュリティへの不安」等クラウドサービスへの懸念も指摘されている。様々なメディアでクラウドコンピューティングへの期待や懸念が語られる中、地方自治体がクラウドサービスに対してどのような意識をもっているかを把握するため、複数の団体を対象に独自調査を実施した。以下は調査結果の概要である。

・クラウドコンピューティングの認知率は 9 割、よく知っていると回答した人は 1 割、4 割の人が概略を説明することができると回答。
・基幹業務システムにおいて、クラウドサービスが主流となるとの考えは 9 割に達し、全体の 4 割が基幹業務システムのクラウド化を「積極的に検討している・したい」と回答。
・導入コストが自庁設置と比べて同程度ならば、4 割の団体が導入を検討したいと考えており、コストが 30%以上削減できるなら、8 割の団体が導入を検討すると回答。
・クラウドサービスの優位な点は、「トータルコスト削減(7 割)」、「将来性(6 割)」、「スケーラビリティ(5 割)」、「保守性(5 割)」があげられた一方で、オンプレミス型が優れている点は「既存システムとの親和性(6 割)」、「セキュリティ強化(4 割)」、「安定性・信頼性(4 割)」等と回答。
・コスト削減以外でクラウドサービスに期待するものとしては、「IT 資産を持たなくてよい(5 割)」、「法令改正へのシステム対応の負荷が少ない(4 割)」、「業務の効率化・人員の有効活用(3 割)」等と回答。

 これらのことから、地方自治体では、クラウドサービスが「トータルコストの削減」や「職員の負荷軽減」を実現する有効な手段であることは認知されており、「既存システムとの親和性」や「セキュリティの強化」等の課題が克服されれば、クラウドサービスを積極的に導入したいと考えていることがわかる。


4. 地域ICTサービスとは
 日本ユニシスが発表した地域ICTサービスは、最新のクラウドコンピューティング技術を採用したクラウドサービスの集合体で、地方自治体の業務効率化を推進する自治体 ICT サービス、地域協働型の街づくりを支援するパブリック ICT サービスから構成されている(図 1)。

 自治体 ICT サービスは、機能・操作性に優れた自治体業務パッケージをクラウド化したサービス製品群の総称で、文書管理業務をクラウドサービス化した UniCity 総合文書管理システムSaaS Edition の発表を皮切りに、住民基本台帳業務をはじめとする基幹業務システムをクラウドサービス化した Civicloud の提供を開始している。パブリック ICT サービスは、地方自治体と NPO・民間企業等新しい公共の担い手が連携し、地域の課題解決を支援するサービス製品群の総称で、地域の安心安全を支援する危機管理情報共有サービス SAVEaid、地域の教育・文化を支援する電子図書館サービス LIBEaid の提供を開始している。

 これらのクラウドサービス製品はいずれも、ベースとなるアプリケーションに各分野・業務で顧客から高い評価を得ているパッケージ・システムを幅広く採用している。このパッケージ・システムは、各々が優れた機能を有している一方で、様々なベンダーの製品を採用していることから、トータルサービスとして提供する上で、機能の重複やパッケージ間の連携、システムの運用管理等に課題がある。これらの課題を解消するため、共通機能の管理やシステム間連携については、国や地方自治体、IT ベンダーが共同で標準仕様を定める「地域情報プラットフォーム」に準拠した統合基盤を採用し、パッケージが稼働する基盤には、最新の自動化・仮想化技術が実装されている ICT ホスティング基盤を採用している。

 このように、地域ICTサービスは、「地域向けソリューションのベストセレクション」、「地域情報プラットフォーム準拠の統合基盤」、「最新の自動化・仮想化技術を実装した ICT 基盤」等の特徴をもつクラウドサービスであり、地域にフォーカスした多様なサービスをワンストップで提供することにより、「新 IT 改革戦略」が掲げる「国民の利便性向上」と「行政運営の簡素化・効率化」の具現化を目指している。


5. サービス製品の概要と活用事例
 本章では、自治体ICTサービスのCivicloud、 パ ブ リ ッ クICTサービスのSAVEaid、LIBEaidについて、サービスの概要と活用事例を紹介する。

5. 1 Civicloud の概要
 Civicloud は、最新のテクノロジーを用いた ICT ホスティング基盤上に、多くの導入実績を誇る自治体業務システム・パッケージをマルチテナント化したクラウドサービスであり、地方自治体における基幹業務システム(表 1)を総合行政ネットワーク(LGWAN)経由で提供する。Civicloud で採用している自治体業務パッケージは、地方自治体から高い評価を得ている株式会社 RKK コンピューターサービスの総合行政システムと株式会社両備システムズの総合福祉システムから構成されており、豊富な機能をパラメータで制御し、高い操作性を備えていることから、エンドユーザの要求に対しても柔軟に対応することができる。

 また、Civicloud の基盤には、第三者機関によるリスク評価でも「極めて安全」との評価を得ている最新鋭のデータセンターで運用され、佐賀県での自治体クラウド開発実証事業にも採用された ICT ホスティング基盤と、全国の地方自治体を相互に接続する行政専用の総合行政ネットワーク(LGWAN)を採用していることから、信頼性が高く、強固なセキュリティをもつサービスとなっている。

 このような特徴をもつ Civicloud を導入することにより、システムの導入から運用までのライフサイクルコストを大幅に削減できるだけでなく、システムを維持、管理する職員の負荷も大幅に削減することができる。

5. 2 SAVEaid の概要
 SAVEaid(図 2)は、地方自治体をはじめとする地域の災害対策を支援するため、地理情報システム(GIS)と連携して、人員の安否情報や被災状況等を表示し、「被害情報の共有・見える化」を実現するクラウドサービスである。特に、情報の錯綜・混乱が最も予想される災害発生直後から応急期の業務をサポートする目的で開発され、職員の安否確認や参集率の把握、被害の集計・分析、都道府県への報告など、地方自治体にとって大きな負担となっていた作業を軽減し、迅速な意思決定や災害対応を支援する。また、平常時においても、参集計画の立案・見直しや訓練の実施等の防災力向上に役立つ機能を備えている。

 SAVEaid を導入することにより、短期間かつ安価な費用で危機管理情報共有システムを構築できるため、これまで、防災情報システムを導入することができなかった多くの地方自治体に対して、地域の防災力向上に向けた支援を行うことが可能となる。

5. 3 LIBEaid の概要と特徴
 LIBEaid/ライブエイド(図 3)は、今後、多くの図書館で普及が進むと推測される電子図書館システムをクラウドサービスとして提供するもので、電子書籍等のデジタルコンテンツを実物の本と同じように貸し出すことができる。この電子図書館システムは、千代田区立図書館で稼働している iNEO(アイネオ)株式会社の電子図書館パッケージ「Lib.pro」をベースに機能改修したもので、提供されるデジタルコンテンツは、暗号化処理や PC 上にデータを残さない仕組みなどの DRM 機能で保護されており、著作権管理が必要な電子書籍にも対応している。LIBEaid/ライブエイドを利用することにより、図書館や学校、企業等が、それぞれの目的に合わせたデジタルコンテンツを貸し出すことが可能となり、市民や児童、顧客等の利用者は、自宅や職場の PC からインターネットを介してコンテンツを閲覧することができる。

5. 4 LIBEaid の活用事例
 総務省の 2010 年度「新 ICT 利活用サービス創出支援事業」(電子出版の環境整備)の採択を受け、神奈川県鎌倉市を実証フィールドに「図書館デジタルコンテンツ流通促進プロジェクト」として、LIBEaid/ライブエイドを活用した電子図書館の実験を実施した。

 このプロジェクトでは、国内の公共図書館における電子書籍の取り扱いを促進するため、アメリカや韓国などの電子書籍先進諸外国の実態を踏まえた「技術要件の整理」や「運用ガイドライン案の整備」を行っている。また、公共図書館を中心とする「地域でのデジタルコンテンツ利活用のあり方」を研究することも目的としているため、一般的な電子書籍とともに、地域発のコンテンツ利活用についても実証実験の対象としており、鎌倉地域の住民や鎌倉市役所、鎌倉市教育委員会等から貴重な文化的資料や世界遺産登録推進活動についてのコンテンツの提供を受けるなど、地域ぐるみの取り組みを行っている。


6. 地域ICTサービスの今後に向けて
 今後、地域ICTサービスが顧客の支持を拡げていくためには、サービス・インテグレーションというコアコンピタンスを中核に据え、魅力的なコンテンツをクラウドサービスとして提供していくことだけではなく、「幅広いエリア・団体に跨る顧客層に対して、地域の課題解決に有益であるとの認知を促す活動」、「サービスの販売や適用を通して、地域の活性化に繋がる地場企業との協業」、「時間や空間の障壁を取り払うクラウドサービスだからこそ実現できるコストメリットの追求」を強化し、地域と共に課題の解決に取り組んでいくことが重要である。


7. おわりに

 2011年3月11日に発生した「東日本大震災」により、被災地の地方自治体の多くは甚大な損害を被り、住民への情報発信すらできない状態が続いている。日本ユニシスでは、被災地域に向けて、地域ICTサービスの一部を無償で利用することができる「特別プログラム」の提供を開始した。この「特別プログラム」をはじめとする地域ICTサービスが、被災者の救済と被災地の一日も早い復旧に役立つことを切に願う。

●執筆者紹介
石橋武将(Takemasa Ishibashi)
 1990年日本ユニシス入社。関西支社において地方自治体の営業職に従事。2005年より官公庁事業部、2010年より官公庁企画部にて、地方自治体向けのソリューションや新規ビジネスの企画を担当。

※本記事は日本ユニシス株式会社より許可を得て、同社の発行する「ユニシス技報」2011年5月発刊 Vol.31 No.1 通巻108号「別冊技報」収録の論文を転載したものである。

《RBB TODAY》

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