【木暮祐一のモバイルウォッチ】第8回 電脳メガネって何? スマートフォンがHMDの一般化を加速させる?! | RBB TODAY

【木暮祐一のモバイルウォッチ】第8回 電脳メガネって何? スマートフォンがHMDの一般化を加速させる?!

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木暮祐一氏。武蔵野学院大学准教授で携帯電話研究家/博士(工学)
木暮祐一氏。武蔵野学院大学准教授で携帯電話研究家/博士(工学) 全 5 枚
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 先だって、福井県鯖江市で開催された「電脳メガネサミット」というシンポジウムを聴講してきた。鯖江市はわが国のメガネの95%以上を生産しているメガネの街。その鯖江に「近未来のメガネのあり方」を考えてみようという老若男女が結集し、熱い議論を交わした。「電脳メガネ」というのは、2007年にNHK教育テレビジョンで放映されたアニメーション『電脳コイル』に登場した、メガネを通すとそこに様々な情報が映し出される情報端末のこと。まるで夢物語のようなアニメだったが、こうした「電脳メガネ」は、ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)とAR(仮想現実)によって、現実のことになろうとしている。

 HMDは、筆者がかつてから注目しているデジタルガジェットの1つで、メガネのように頭部に装着するディスプレイのこと。これまでも多数のメーカーが製品を送り出してきているが、大別すると視野を妨げない半透明の画像表示が可能なものと、完全に視界を遮ってしまって視野にはスクリーンだけ映し出すものの2種類が存在した。前者は、HMDに内蔵した液晶パネルの画像を、ハーフミラーを介して目に投射することで、視野を妨げない半透明の画像表示が可能になる。両手をふさがない形で作業をしたいなどの業務目的で利用されることを前提に設計されたものが多い。一方、後者は、仮想視聴距離2~3mの距離に50型程度の大型スクリーンが映し出されるような感覚で利用するもので、周囲の人に気がねすることなく映画等を視聴するような目的で開発されていた。

 わが国では、島津製作所やオリンパス、ブラザー工業、ソニー、ニコンなど多数のメーカーが参入してきたが、いずれも高価で一般の消費者が気軽に購入できるようなものではなく、また頭部に機器を装着する姿は周囲から異様さを感じさせるものばかりだった。

 ただ筆者は将来、HMDが日常品になるのではと睨んできた。というのは、以前から学生などに近未来のケータイのイメージを描かせると、必ずと言っていいほど「メガネ型ケータイ」が姿を現していたからだ。ケータイは通話機能に加え、メールやインターネットコンテンツなど、視覚を通じたコミュニケーション機能も備えるようになった。移動しながら身につけ利用することを考えると、通話のみであればハンズフリーヘッドセットですでに実現されているが、視覚を伴うコミュニケーションも加えるなら、歩きながら利用可能なディスプレイが必須となる。そのようなシチュエーションを考えると、理想形は「メガネ」になるというのは自然な成り行きだ。

 一方、以前から「ウェアラブルコンピューティング」という考え方があり、「常にコンピュータを身につける」ことを模索する動きもあった。1990年代から筆者もこれら分野の動向を追いかけていたが、気が付けばケータイ自体が「持ち歩くコンピュータ」になっていった。手のひらにあった電子機器である「ケータイ」が多機能化し、利用目的が広がっていったという視点は非常に重要だ。常に持ち歩きながら利用するものだからこそ、そこで利用されるコンテンツや必要とするユーザビリティは、机上で利用するコンピュータのそれとは大きく異なるべきものでなのである。机上のコンピュータをそのままモバイル環境で利用しようにも使い勝手が悪いだけで、疲労やストレスの要因にしかならない。実際、iPhone以前のスマートフォンの失敗要因もここにある。

 従って、HMDがプロダクトとして成功するためには、コンピュータの画面を視界に映し出すという利用方法は業務用など一部限定的で、むしろケータイ(スマートフォン)と接続でき、しかも移動しながら利用するのに特化した表示内容や表示方法を精査するべきと考えていた。

 今回、鯖江市で開催された「電脳メガネサミット」に参加してみて、会場で活発な議論をされていた方々の多くが、筆者と同じ考え方でHMDの発展に期待を込めているということが伺えたのは嬉しいかぎりだ。また、今回の電脳メガネサミットをコーディネートし、自らパネルディスカッションのモデレータも務めた株式会社jig.jp 代表取締役社長CEOの福野泰介氏をはじめ、今回のシンポジウム参加者の多くがEPSONのモバイルビューワー「MOVERIO BT-100」を活用していた。多数あるHMDの中で、「MOVERIO BT-100」はシースルー型で、移動しながら視野に映像表示させることが可能な上、Android OSで動作するコントローラ部と一体設計のスタンドアローン型である点が評価されていたようだ。すでに10年以上、日常生活でHMDを装着し続けてきた神戸大学大学院工学研究科教授の塚本昌彦氏は「MOVERIO BT-100」を装着してジョギングさえしてしまうという。

 何より、HMDがかなり身近な存在に近づいてきたということが嬉しく感じた。日常生活で違和感なく利用できる機器になるまで、あと一歩といったところだろう。シンポジウムの中で、福野泰介氏は、「現状のHMDは、携帯電話でいえばようやくショルダーホンのところまで製品化できたタイミング。しかし携帯電話がその後劇的に進化し、また大衆化したのと同様、HMDも一気に進化し普及していくと思う」と発言されていた。まったく同感で、スマートフォンが日常品になった現在、その情報出力先の一つとしてHMDの有用性は求められていくはずだし、さらにHMDga小型化し、またファッションアイテムとして楽しめるようなものになり、さらに量産効果でより安価になっていけば、おそらく数年後には街中で装着している人を多数見かけるようなものになっていくはずだ。

 じつはこうした動きは国内だけではない。Googleは今年に入ってから、Android OSベースのHMD開発プロジェクトを公表しており、また米アップルもHMDに関する特許を取得するなど、世界的にも動きが出てきている。しかし、わが国ではすでに長年に渡ってHMDに関して製品開発の実績を積み重ねてきているし、モバイルコンテンツの使いこなしも世界に誇れるわが国だからこそ、HMDとAR、そしてスマートフォンとの連携という軸で、ぜひ優れた製品やサービスを世界に先駆けて生み出し、世界をリードする分野を築いてもらいたいと考えている。そうした意気込みを感じることができた、「電脳メガネサミット」であった。

《木暮祐一》

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