【テクニカルレポート】ITモダナイゼーションの現状とNRIの取り組み……野村総合研究所「技術創発」(後編) | RBB TODAY

【テクニカルレポート】ITモダナイゼーションの現状とNRIの取り組み……野村総合研究所「技術創発」(後編)

ブロードバンド テクノロジー
図表6:移行前・移行後の対比
図表6:移行前・移行後の対比 全 3 枚
拡大写真
※本記事は前編に続く野村総合研究所「技術創発」の転載記事である。

■4.NRIの取り組み

(1)紹介する取り組み概要

 NRIでは、お客様の要件・要望に合わせ、最適なITモダナイゼーションソリューションをご提案できるよう取り組みを行っている。ここではその例として、「メインフレームから NRIクラウド(※2)COBOL PaaSへの移行」ソリューションについてご紹介する。

 「メインフレームからNRIクラウドCOBOL PaaSへの移行」ソリューションとは、機械変換(コンバージョン方式のリライト・リホスト)により、メインフレーム上のアプリケーションをオープン環境へ移行するソリューションであり、移行先のオープン環境として、これまで数多くの大規模基幹業務システムで実績のある基盤をベースとした仮想アプライアンス(※3)基盤(NRIクラウドCOBOL PaaS)を採用している。移行前後の対比を図表6に、提供する仮想アプライアンス基盤の概要を図表7に示す。

※2:NRIクラウドとは、NRIが提供するクラウドソリューション群の総称。オンプレミス環境、プライベートクラウド環境、パブリッククラウド環境などを組み合わせたハイブリッドクラウドサービスの提供も可能。

※3:特定のOS、ミドルウェアなどのソフトウェアをセットにして、仮想化ソフトウェアイメージとして構成したもの。

(2)ソリューションの特長

 本ソリューションの主な特長として、以下が挙げられる。

・低コスト・低リスクでの移行
・維持管理コストの削減
・信頼性の確保と基盤共通化・最適化

 ここでは、それぞれについて順番に説明する。

<低コスト・低リスクでの移行>

 アプリケーション移行においては、大部分を機械的に変換(変換率 95%以上[※4])するため、手作業での移行と比べ、移行コスト・期間共に大幅な削減が可能である。また、業務ロジックに変更が入らない形での移行(現行資産の有効活用)であるため、移行後の機能・保守性の維持という観点でリスクを低く抑えることもできる。

 一般的なリホスト・リライトソリューションでは、アプリケーション変換に焦点があたりがちであるが、基盤についての考慮は非常に重要である。アプリケーションは機械変換により移行が可能であるが、基盤(実行基盤・運用基盤)については通常の再構築プロジェクト同様の設計・構築コストがかかることが多く、結果として当初想定したほどの移行コストの削減とならない場合もあるからだ。本ソリューションでは、NRIのシステム構築で実績のある方式設計のベストプラクティスに従った検証済みの基盤を仮想アプライアンス化し、クラウド上のPaaSとして提供している。これにより初期構築費を安価に提供できると共に、迅速な利用開始を可能としている。

※4:機械変換率はお客様のメインフレーム環境に依存して変動する。

<維持管理コストの削減>

 メインフレーム撤廃・オープン化を検討する多くのお客様が最大の目的として挙げるのが、維持管理コストの削減である。単純に老朽化したメインフレームを撤廃しオープン環境に移行するだけで、維持管理コストの大幅な削減を実現しているケースは多く存在する。しかし、基盤をうまく構成しないと、思ったほど維持管理費が落ちない、あるいは一時的にはコスト削減に成功したが、ハードウェア更改の対応などのコスト(一般的に、メインフレームに比べサーバハードウェアのサポート期間は短い場合が多い)で相殺されてしまうなどの話も現実に存在する。

 本ソリューションでは、移行先環境として、クラウド上のPaaSを利用することで、通常のオープン化に比べても高いコスト削減効果を実現可能である。本稿では、クラウドのメリットを説明することを目的としていないため、詳しくは説明しないが、例えば、上で述べたハードウェアの更改課題については、クラウド(仮想化)の導入により、大幅に改善することが可能となる。

<信頼性の確保と基盤共通化・最適化>

 メインフレームで大規模な基幹業務システムを運用しているお客様の中には、オープン化による維持管理コストの低減への期待を感じつつも、オープンシステムで基幹業務を処理することに対する不安感(信頼性・性能等を含め、オープン環境でメインフレーム並みの基幹業務の維持ができるのかなど)からメインフレーム脱却への舵取りができず、結果としてIT投資の多くを維持管理に費やし続けている場合も多い。そのようなお客様にとって、オープン環境でもメインフレーム並みの信頼性を確保可能な基盤の整備は不可欠である。

 また、基盤共通化の考慮が欠けており、結果としてコスト削減ができない場合もあることは前述したとおりである。本ソリューションの基盤は、オープン系の標準的な技術を元に、大規模な基幹業務システムでの利用を想定して開発し、多くのプロジェクトで活用してきたNRI製の高信頼性・高生産性フレームワーク(ObjectWorks+)をベースにしている。この基盤の活用により、高い信頼性を提供すると共に、リホスト・リライト手法とリビルド(再構築)手法との組み合わせでの移行の場合でも、基盤の共通化を図ることが可能である。

 さらに本基盤は、そもそもメインフレーム技術者など、オープン系で標準に利用されるWeb/Java技術に精通していない技術者が、容易に開発・保守を実施できるよう考慮して整備した機能を多く取り込んでおり(オンライン基盤は標準的なWeb/Java基盤であるが、フレームワークが内部処理を隠ぺいしており、開発・保守において、Web/Javaに関する深い知識を要求しない作りになっている)、これまでメインフレーム上にて開発保守を実施してきた技術者にも安心してお勧めできるものになっている。また、開発支援機能群が豊富に提供され、移行実施後の追加開発、さらには移行後システムの再構築においても、同一基盤上で高い生産性を確保した開発が実現可能である。

(3)提供するサービス

 本ソリューションでは、NRIの豊富な実績を生かし、移行方針・計画策定から資産の移行・基盤構築・テスト・リリース・運用まで、お客様の幅広い要望にお応えする「トータル」なサービスを提供している。移行プロセスと提供サービスの概要を図表8に示す。

 ここでは、各サービスについて、簡単に説明しておく。

<計画立案支援サービス>

・資産分析サービス
 リホスト・リライトといった現行資産の有効活用を前提とした移行の場合、移行実施前に、移行対象とする資産を明確化すると共に、不要な資産を取り除きスリム化しておくことは、移行コストや移行後の維持管理コストの削減のために重要である。

 資産のスリム化に有効な分析手法として、未使用資産分析や未稼働資産分析がある。前者はバッチのJCLやオンラインのメインプログラムなどを起点とし、どこからも呼び出されないプログラム(デッドプログラム)を洗い出すものであり、後者はメインフレーム上の稼働ログを元とし、一定期間稼働していないプログラムを洗い出すものである。NRIでは、これらの分析手法を利用した資産分析サービスも提供しており、お客様の資産の見える化やスリム化の支援を行っている。

・小規模パイロット移行検証サービス
 本番マイグレーション実施前に小規模パイロット変換(数画面、数ジョブ)を実施するサービスも提供している。これにより、全体の移行を実施する前に、移行後システムのイメージアップや実現性の確認を実施していただくことができる。

<移行サービス>

 本稿では、アプリケーション変換・基盤構築の部分を中心に説明したが、NRIでは、テストや本番移行を効率化するさまざまなツール群も保持しており、アプリケーション変換・基盤構築・テスト・リリースまで、トータルなシステム移行サービスを提供する。

<保守・運用サービス>

 移行後システムの保守・運用まで責任を持って請負うことが可能である。

■5.まとめ

 本稿ではITモダナイゼーションの技術的な手法や動向、移行実施における考慮点などについて説明すると共に、NRIの提供するITモダナイゼーションソリューションの1つである、「メインフレームからNRIクラウドCOBOL PaaSへの移行」ソリューションについても紹介した。

 本稿中でも記述したように、ITモダナイゼーションにおいては、システムのあるべき姿を定義し、現行資産の状況を踏まえた上で、適切な移行計画を立て、(段階的に)移行を実施していくことが重要である。また、ITモダナイゼーションにおいては、アプリケーションの移行に焦点があたりがちであるが、基盤についての考慮も必要である。ITモダナイゼーションについては範囲が広いため、すべてのノウハウを紹介することは難しく、内容を絞った説明となったが、読者の方々の参考になれば幸いである。

 本稿では、メインフレームからの移行を中心に説明したが、オープン系システムもレガシー課題を抱えている。最近のNRIの調査でも、C/S(クライアント/サーバ)型のオープンシステムが、移行が必要なIT資産のトップとなるなど、ITモダナイゼーションの対応範囲も広がりつつある。

 我々はこれまでの活動において、調査・研究活動やさまざまなプロジェクト適用を通じて、ITモダナイゼーション関連のノウハウを蓄積してきたが、今後も更なるノウハウ蓄積、新たなソリューション開発等を実施し、お客様のITモダナイゼーションプロジェクトの成功に貢献していきたいと考えている。


■執筆者(敬称略)
水野貴之:野村総合研究所 イノベーション開発部 上級テクニカルエンジニア 情報技術本部にて、主にITモダナイゼーションやシステム開発技術関連の調査・研究、ソリューション企画・開発、実プロジェクトへの技術支援等に従事。

※本記事は野村総合研究所「技術創発」2012年6月号より転載したものである

《RBB TODAY》

特集

【注目記事】
【注目の記事】[PR]

この記事の写真

/

関連ニュース