駆け込み需要は正解か?……耐震も、デザインも、“何か”をあきらめない住宅選び | RBB TODAY

駆け込み需要は正解か?……耐震も、デザインも、“何か”をあきらめない住宅選び

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住宅ジャーナリスト 大塚有美氏
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 現行5%の消費税が、2014年に8%、2015年には10%と段階的に引き上げられる見通しの中、住宅等の駆け込み需要も予想されている。土地代は別として、新築の建物や、中古の場合でもリフォーム代等には消費税が課税されるため、極力増税前に購入を済ませたいと思うのは当然のことと言えるが、そうした状況を前にして住宅トレンドはどうなっているのだろうか。

 以前であれば、「価格」「間取り」「立地」の3大要素が重要視されていたところに、一昨年の震災の影響もあり、耐震性・耐久性は外せないと考える人たちが増えてきているようだ。耐震性等を重視した結果、不本意な間取りやデザインを妥協するなど、“何かをあきらめてしまう”といった声も聞く。確かに、安心感があるというのは大切なポイントだが、せっかくの新居、新しい生活だからこそ、出来れば心から満足した家に住みたいと思ってしまう。耐震性も、それ以外の要素もあきらめない、賢い住宅選びはできないものか、消費増税前の状況も含め、住宅ジャーナリストの大塚有美氏に話を聞いた。

■消費増税前の駆け込み需要はどう考えるべきか

 まず、消費増税前の駆け込み需要について聞いたところ、「どの程度駆け込みがあるのか正確には不透明ですが、相当数あると思います」(大塚氏)と、その可能性は認めつつ、「今、既に準備している人は買う方がいいと思いますが、全く考えていない人が慌てて買うことはおすすめしません。資金的に余裕がない人も、無理する必要はないと思います」と、焦って駆け込むことには注意を促した。そして、「増税前に駆け込んで買っても、例えば変動金利であれば景気回復によって金利が上がることも考えられます。家を買うというのは、長い間ローンを支払うなど数十年にわたって考えなければならない話であり、その間ずっと経済状況が良いとも限りません。この返済額であればと少し無理をして購入したところから、さらに金利が上がった場合、月々の支払いがパンクする恐れもあるのです」。既に買いたい物件や住みたい土地も固まり、資金的にも余裕があるならば、増税前に買った方が少しでもお得だが、そうでない場合はひとまず落ち着いて、じっくり計画を練ることの方が重要と言えそうだ。

■理想とする“ライフスタイル”実現のための住宅

 次に、住宅のトレンドについて伺った。住宅と一口に言ってもマンションと戸建て、戸建ての中でも分譲と注文など選択肢が色々ある中、最近のトレンドとしても一から家を建てる“戸建て志向”は根強いそうだ。といっても、かつてのように「家を建ててこそ一人前」といった感覚が残っているのではなく、「理想とする“ライフスタイル”を追い求めていくと、『戸建て』、中でも注文住宅に行きつくケースが多い」とのこと。「最近では、家族全体でコミュニケーションを取れるようにオープンな間取りが好まれている傾向があります。LDKが全部一つの空間になっていて、キッチンで料理をしながら子供の遊んでいる所が見えたり、大きい空間で友人を招いてホームパーティーをしたり」。「注文住宅を建てている人のメインは30代の子育て世代で、共働きだったりすることも多いため、家事がしやすいだけでなく、家族が家事を手伝うなど、複数で作業がしやすい動線設計や設備機器、間取り、工夫が求められています。また、子どもの成長に合わせて間取りを変えられるなどもポイントです」とした。家族同士や友人たちとのコミュニケーションを重視する傾向が強まっており、そうした希望の“ライフスタイル”を実現する選択肢として、注文住宅が当てはまってくるというわけだ。

 しかし同時に、「安全性への配慮+省エネということも、やはり重要視されています。耐震性、耐久性など、いわゆる基本性能の部分と、省エネの観点から断熱性・気密性なども住まい選びのポイントになっています」と、耐震性を始めとした災害対策、省エネ対策の意識は高く、それらと間取りなどを天秤にかけた結果、「戸建てを希望しながら、マンションにせざるを得ない家庭も多くいらっしゃいます」という。そこで、理想とする“ライフスタイル”の実現と、安心感のある住宅を両立する具体的な方法について聞いてみた。大塚氏によると、一番大事なのはシンプルに「自分でとことん情報収集すること」だという。

■“何か”をあきらめないために。木のぬくもりと、耐震性や間取りの自由度を両立した工法

 「今はインターネットで簡単に調べられますから、とことん調べたうえで、担当者に質問としてぶつけていく。同じ質問を数社にした場合では、帰ってくる言葉が違うかもしれません。そういったことを繰り返し、自分がどこに納得するのか見極め、どんな家に住みたいのかイメージを持つことが重要です」。「木やコンクリートなどの素材特性や、『2×4』、『木造軸組工法』など工法の特性についても、違いや特徴を理解したり、自分のとっての住まいの形はどれが一番よさそうかというのが見えてくると思います」。上述したように、住宅といっても色々な形態があるが、さらにその中に工法による違いもある。今、何かを“あきらめてしまう”家庭に共通しているのが、こうした「工法」について何も知らないことだそうだ。明確なビジョンもなく知識もない状態では、例えば最初に見学した展示場で聞いた話だけを鵜呑みにしてしまい、心から納得しないままに住宅購入に至っても不思議ではない。

 大塚氏が注目している「工法」について尋ねてみると、「大手ハウスメーカーの住宅であれば、原則として耐震・耐久面では建築基準法が定める基準値をはるかにを越えています。その中で、それぞれ大事にしている部分、強みが違うところを見極めて選ぶことが重要です」と前置きした上で、「広い意味で木の家は日本の風土にあっているものだと思っていますが、木の家でも工業製品である集成材を使っている、『SE構法』という構法があります」と教えてくれた。「SE構法」は、NCN(エヌ・シー・エヌ)という会社が進めている木造の建築工法。強度の高い集成材の接合部に独自の金物を用いることで、より強固な接合部を生み出すとのこと。建築を支える骨組みの柱と梁の接合部をしっかりとつないだ構造を「ラーメン構造」というが、SE構法は接合部を強化した堅牢なラーメン構造で、骨組み全体で建築を支えている。柱や区画の壁を少なくすることが可能で、光を取り入れる大きな開口部や窓、出入り口、そして広々とした吹き抜け空間が安全に実現できることが大きな特徴だそう。

 大塚氏は、「最も感じるメリットは、木を使っていて、なおかつ耐震性がしっかりしていること。木を使った家はみんなが好きで、例え、マンションなど木造の家でなくても、木製の家具やフローリングの床を好む人も多いと思います。木の家が好きな人が圧倒的に多いのに、耐震性の面で不安なわけです。」「耐震性というのは木だから、コンクリートだからという話ではなくて、きちんと建てた家なら担保されるもの。『SE構法』は、それを構造計算という誰もが納得できる形で担保しているところもポイントではないでしょうか」と説明。さらに、「間取りの自由がきくことも重要です。木の家では、耐震性を担保するために柱を増やすといった方法がとられますが、それだととても目障りな空間になってしまいます」。また、家族構成や子どもの成長に応じた可変性の部分でも、「柱や壁が少なくても構造がしっかりしていると、家が長持ちするということに加えて、リフォームも容易になるというメリットがあります。後から細かく間仕切りすることは可能です」とした。

 東日本大震災を経験した今、災害への危機意識は高く、今後作られる建築物において耐震性や耐久性が疎かにされることは中々起こり得ないだろう。但し、そちらにばかり意識がいくと、思い描く“ライフスタイル”に対して妥協したり、家族構成の変化に対応できず追加の費用がかかってしまったり、不都合なことも出てくる。知っていれば広がった可能性を、知らないままにあきらめるのは非常に勿体ない話だと思う。“何か”をあきらめない住宅選びのために、まずはじっくり情報収集をして、5年、10年先の生活までイメージした上で各種素材、工法を見極め、十分に納得できる住宅を購入してほしい。

《白石 雄太》

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