映画『おおかみこどもの雨と雪』 齋藤優一郎プロデューサー インタビュー前編 | RBB TODAY

映画『おおかみこどもの雨と雪』 齋藤優一郎プロデューサー インタビュー前編

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(C)2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会
(C)2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会 全 2 枚
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映画『おおかみこどもの雨と雪』 
齋藤優一郎プロデューサー 
インタビュー前編

2012年夏に全国公開された『おおかみこどもの雨と雪』は、興行収入も42.2億円の大ヒットとなった。また、2013年2月20日に発売されたBlu-ray Disc、DVDの販売も好調が伝えられている。細田守作品の人気ぶりを再び示したかたちだ。
しかし、こうした人気や評価は、長年の創作活動の積み上げの中で築かれたものだ。そうしたなかで『時をかける少女』から、『サマーウォーズ』で細田守監督とともに作品に携わってきたのが齋藤優一郎プロデューサーだ。『おおかみこどもの雨と雪』の制作にあたっては細田守監督と共にスタジオ地図を立ち上げた。齋藤優一郎プロデューサーに、『おおかみこどもの雨と雪』、スタジオ地図、そして映画づくりについて伺った。
[インタビュー取材・構成:数土直志] 

『おおかみこどもの雨と雪』
http://www.ookamikodomo.jp/


■ スタジオ地図、立ち上げの理由

―― 今回『おおかみこどもの雨と雪』は、スタジオ地図を立ち上げて、これまでと少し違うかたちでの映画づくりになりました。これまでとの変わったことはありますか?

―― 齋藤優一郎プロデューサー(以下齋藤) 
『時をかける少女』の時は、組織に属している社員プロデューサーでした。その時、映画を作るきっかけとなった丸山正雄さん(現・MAPPA代表)から「好きにやれ」と言われ、基本的には「任せられた」かたちでした。以降、細田作品をいかにたくさんの人に観てもらうかのプロデュースをしてきました。

スタジオ地図は、細田守監督がピュアに映画作りを行える場所をいかに作れるか。その作品を一番いいかたちで世の中に出していくために必要なプロデュース、人の結集を考えた延長線上にあります。大儲けしたいとか、キャラクタービジネスをやりたいということではなくて、会社というよりは映画を作る場所だと思っています。

―― スタジオ地図の名前の由来も伺わせてください。

―― 齋藤
東映長編とかディズニーなど、アニメーション映画の歴史は100年ぐらいあります。でも、その歴史はそれなりに長いとは言えども、まだやってないモチーフやテーマ、表現のフロンティアは無限に広がっていると思っています。主体性と覚悟、チャレンジ精神を持ってそこを目指したい。
宝探しとか冒険旅行みたいな意味もふくめて、チャレンジをしながら映画を作って、新しい大陸を見つけ、「そこに線を引いて地図を作っていけたらいいね」という気持ちです。映画作りの精神を細田監督が地図という名前に込めたんです。

―― ここ10年ぐらいのアニメ業界は閉塞感が漂っているような気がしています。みなさん苦しいとは言いつつも、アニメはやはり多くの人に求められています。
でも盛況であるがゆえにテーマにしても、題材にしても、原作にしてもやり尽くされた感もあります。

―― 齋藤 
いや、まだ全然です。題材として『おおかみこどもの雨と雪』の親も、『サマーウォーズ』の親戚もそうでしたし、まだまだやってないことは実写の映画もふくめてありますよね。
スタジオ地図の名刺には、明朝体で書かれたロゴがあります。最初はロゴをキャラ化したり、イタリック体にしようかとかもありました。けれど正体の明朝体でいいんですよって。

僕らは公の場所で、公共の利益にかなう映画を作っていくことがひとつの大きな命題です。ど真ん中で直球で、堂々とした映画を作る場所です。新聞だって文庫本だって公なものはみんな明朝体です。「だから僕らも明朝体でいいんだ」と。そういう気持ちで映画にチャレンジしていけたらいいなと思っています。


■ プロデューサーの仕事

―― 優れた監督には優れたプロデューサーがやはりいないとなかなかうまく回らないのではと考えることがあります。自身では、『おおかみこどもの雨と雪』までの映画のなかでどうした役割が求められていたと思われていますか?

―― 齋藤 
『時をかける少女』の時は、丸山さんから現場を一任されましたが、正直言って、まだ作るだけで精一杯という状況でした。細田監督の様々なチャレンジを傍らで見つめ、そのチャレンジに追いつこう追いつこうと必死でした。
映画を作るとは何なのか、映画の公共性、そして、映画は1人では作れないということも、細田監督と作品を通して沢山のことを学ばせてもらったと思います。

『サマーウォーズ』では、「大家族映画」という初めてのテーマにチャレンジする細田監督を中心に、プロデュース面でも擬似家族のようなものを、一緒に作りたいと思いました。それは制作や製作委員会だけでなく、宣伝も含めてそうすることが大事なんじゃないかと。チームみんなで映画同様の大家族になって、一致団結して最後は勝つぞ!と。
結果的に、たいへんいいスタッフに恵まれて素晴らしい結果を残すことができました。

監督はいつも「(ひとつの作品に)監督はひとりなのにプロデューサーは何人もいていいね」と言うわけです。それに対して「監督は孤独だ」と。確かにそう思います。だからこそ、その孤独な監督をプロデューサーチームやスタッフで支えていかなくては行けないんだと思います。僕は、「名プロデューサー」みたいな感じではまったくないですが、そういうことだけは考えてきました。
それは、「おおかみこどもの雨と雪」でも同じです。細田監督のチャレンジに対して、気持ちを持ってくれる人たちのチームをどう作って、作品をどのようなかたちで世の中に出していけるかを意識的に考えて実行したつもりです。

―― その人を集めるのが一番難しいと思います。もちろん細田守監督という才能はすごい求心力がありますが、でもこれをまとめるのは大変ではないですか。

―― 齋藤 
それは細田監督が言う、公共の利益にかなった映画を作れるかです。作品があるから協力してくれる人がいるんです。もしくはそういう気持ちを持ってくれる人も出てくるんです。
それは企画だと思います。それがなく、人間関係だけで映画を作ってもつらくなります。
人生30年のなかで映画10本作れるか作れないか、そのなかでいろんな人たちを巻き込んで、人生を賭けて、尊い期間をこの作品だけに集中してもらいます。それに耐えられる強度のある企画、作品をどう作るかです。すべては作品が持っている力と可能性だと思います。


■ 最大のプロデュースは、細田監督に映画を作り続けてもらいたいということ

―― 細田監督はホップ、ステップ、ジャンプで『おおかみこどもの雨と雪』までで本当に大きくなられました。大きくなったことで、監督自身もそうですが、作品をプロデュースするかたも求められるものがすごく大きくなったということはありますか。

―― 齋藤 
プロデューサーなので、当然お金は回収しないと、というのはあります。ただ、僕の最大のプロデュースは、細田監督に映画を作り続けてもらいたいということです。バイタリティとかチャレンジ精神がある限り、描きたいものを作って欲しい。

映画は常に一本一本なので、毎回チャレンジをしながらどう結果を出していくかです。興行はやってみないとわからないですが、ちゃんとチャレンジし続けられるような環境を作れるかはプロデューサーの仕事です。
『時をかける少女』もそうでしたし、『サマーウォーズ』も、今回の『おおかみこどもの雨と雪』も、やり方は変わってないです。

常にたくさんの人に観てほしいと思っていることも変わりません。この10年ぐらい細田監督とやってきた流れで大きく変わった部分はないです。
いままでの大事な部分は積み上げつつも、でもプロデューサーとしての新しいチャレンジもする。プロデューサーも監督と同じようにチャレンジしないと、監督とプロデューサーの関係は保てない。何よりも作品のためになりません。
新しいチャレンジに覚悟を持って一歩踏み出して行けるか、踏み出して行くべきだと思うし、その繰り返しです。

後編に続く

『おおかみこどもの雨と雪』
http://www.ookamikodomo.jp/

[キャスト]
宮崎あおい 大沢たかお / 菅原文太



■ Blu-ray
2枚組 7140円(税込)
■ DVD>
2枚組 5040円(税込)
■ Blu-ray+DVD ファミリーパッケージ版

画像:(C)2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会

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