【テクニカルレポート】スマートコミュニティを実現する、複合型再生可能エネルギーシステムの開発……NTT技術ジャーナル | RBB TODAY

【テクニカルレポート】スマートコミュニティを実現する、複合型再生可能エネルギーシステムの開発……NTT技術ジャーナル

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図1 複合型再生可能エネルギーシステム装置外観
図1 複合型再生可能エネルギーシステム装置外観 全 6 枚
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 近年,電力を中心としたエネルギーの活用について,より無駄なく,便利に,そして賢く利用するための新たなインフラの概念として「スマートグリッド」,特定の地域のエネルギー利活用の概念として「スマートコミュニティ」に注目が寄せられています.ここでは,既存系統電力と太陽光などさまざまなタイプの分散型電源,および蓄電池を需要サイドにて統合し,ICTを用いることでエネルギー利用を最適化させ,また同時に,災害に対する耐性を向上させることも可能とする複合型再生可能エネルギーシステムについて紹介します.

はじめに
 スマートコミュニティとは,再生可能エネルギーの大量導入や需要制御を可能とする次世代のエネルギーインフラ(スマートグリッド),および関連するサービスを含めた社会システムのことを示しており,国内外のさまざまな分野から極めて高い関心が寄せられています.また,スマートコミュニティは既存の業界・サービスの垣根を越えた,融合による,新たな市場や概念を創出するものとして期待されています.NTTグループは,1940年代より,太陽光や風力などの自然エネルギーを通信用施設に活用するための技術開発に努めてきました.さらに近年,NTTファシリティーズは,需要家となる負荷側の近傍に分散型電源や蓄電池を設置し,CO2の排出の影響が少ないエネルギーの利用拡大をしたり,系統から受電した商用電源との相互補完,また停電や事故時におけるバックアップなど防災面での機能向上を果たすことができるマイクログリッドの研究開発,フィールド実証を数多く手掛けてきました(1).例えば,NEDOからの委託により開発し,仙台市の東北福祉大学キャンパス内にて設置,運用を継続していた品質別電力供給システム(仙台マイクログリッド)は,2011年3月11日に発生した東日本大震災後もエネルギー供給の機能を設計どおりに果たし,高信頼な給電システムとしての有益性,有効性,および耐災性など,多くのメリットをもたらすことを実例で示しています(2).また,NTTファシリティーズは,太陽光や風力などの分散型電源が導入された地域において,電力供給の安定性,信頼度や給電品質の維持・向上,環境負荷低減,また,需要家の利便性向上などの特性を検証するため,次世代電力供給システム実証研究を2006年からの5カ年において,愛知工業大学などとともに実施してきました.

 NTTファシリティーズは,これらの実証研究で得たノウハウや知見の蓄積,および東日本大震災で経験した高信頼給電方式のコンセプトを踏襲しつつ,分散型電源の種類や機種に依存せず,組込みを容易にすることや,交流・直流両方の特徴を活かした有効活用,商用電源との系統連系状態のみならず,昼間帯を主体とした自立運転状態とのシームレスな運用モードの切り替えなどの機能や要求を新たに盛り込み,複合型再生可能エネルギーシステムとして完成させました(3).同システムは,2012年度下期から市場での導入が始まっており,自治体の防災拠点や都市部のビル内における新たな給電システムとしての運用,およびそれらの展開が期待されています.

複合型再生可能エネルギーシステムの概要と特徴
 今回開発した複合型再生可能エネルギーシステムの外観,および構成の一例を図1,2に示します.本システムは,以下の3つの装置群により構成されています.

1. 給電制御装置:商用電力系統との連系・切離しを行うための交流半導体スイッチ(ACSW)と蓄電池充放電変換装置(双方向インバータ)から構成されており,本システムのコア要素です.

2. 分散型電源:太陽光,風力などのさまざまな種類の再生可能エネルギーの利用・組合せが可能です.

3. 蓄電池:リチウムイオン電池や鉛蓄電池などの各種2次電池が接続可能です.

 本システム制御の中心を担う装置は,給電制御装置であり,設定された目的に応じて,ACSWをオン・オフさせ,同時に双方向インバータを最適運用(蓄電池の充電,もしくは放電)させることで,分散型電源と負荷との需給バランスや受電電力量の調整を行い,平常時の環境負荷低減や系統電力使用量の最小化などに効力を発揮します.停電発生時は,蓄電池放電の負担を軽減するため,分散型電源からの発電電力を優先的に最大限利用するような制御を行い,システム運用の最適化を図っています.また,ACSWの高速動作により,停電や瞬時電圧低下などのトラブルを避け,負荷給電の無停電化が実現でき,ICTシステムなどの重要負荷システムへの安定した給電も可能としています.

 本システムのさらなる特徴は,分散型電源類と給電装置本体との間に特別な制御を不要としており,特定の製造メーカ,仕様に依存することなく,さまざまな組合せを可能としていることです.また,分散型電源がすでに導入されている設備への機能付加,また,本システムが導入された後における分散型電源の増減設も容易としており,分散型電源の「プラグアンドプレイ」を可能にすることで,給電システムとしての設計や運用の自由度を高めています.

 複合型再生可能エネルギーシステムの基本的な運用モードの概念を図3,共同研究実施者である愛知工業大学のキャンパスにて取得した実際のデータ例を図4に示します.本システムは,実際に商用電源が停電していない状態であっても,昼間帯に太陽光発電などの分散型電源の出力が十分に得られる場合,ACSWを意図的にオフの状態とし,自立運転モードとして運用することが可能です.出力が安定しない分散型電源であっても,蓄電池への充放電により需給バランスをとることで,負荷へ常に安定した電力を送ることができます.また,雨天や夜間など分散型電源の出力が得られない状態においては,ACSWをオンとし,商用系統から電力を負荷へ送りつつ,同時に蓄電池を充電することも可能です.なお,本システムはこの2つのモードを無瞬断で切り替えることができ,分散型電源から得られたエネルギーを主体に運用するという条件下においても高信頼な給電品質を維持することが可能となっています.

 図4の例では,6時過ぎから太陽光発電の出力が徐々に上昇していますが,早朝の負荷出力が小さく,発電電力の多くは蓄電池へ充電されています.また,昼間帯は,負荷容量と太陽光出力の大小に応じて,蓄電池への充電もしくは放電により給電系のバランスが保たれています.このとき,深夜0時~21時までは,蓄電池の充放電により,太陽光発電出力と負荷容量との差分を吸収していることが分かります.この時間帯においては,商用系統は停電でなく正常な状態にありますが,商用電力を一切消費(受電)しておらず,本システムが分散型電源からの出力と蓄電池により,自立している状態での運用となっています.しかし,18時以降は,太陽光発電の出力は0となり,負荷への給電はすべて蓄電池からの放電により補われているため,蓄電池容量は徐々に低下しており,21時には,蓄電池容量維持のため充電を行う必要があり,商用系統との連系モードに運用状態を変更しています.このモードの変更の際,無瞬断での切替えであり,負荷に影響を全く与えずに,給電ができています.図4は,自立運転モードから系統連系モードへ切り替えた場合の一例ですが,その逆の切替えも同様な特性を示します.

 図3,および図4に示した特性は基本的な運用モードと実データの一例ですが,季節・時間帯ごとの運転条件や各種しきい値を適切に変更することで,昼間帯の電力ピークカットやピークシフト,安価な料金体系の活用,CO2排出量の少ない時間帯の電力の利用などさまざまな運用のニーズにも適用させることが可能です.

 さらに,本システムの蓄電池接続用の直流母線を利用することで,NTTグループが推奨している直流380 V給電システムとの連系や電気自動車用蓄電池の適用拡大を行うことも可能となります.蓄電池には,NTTファシリティーズが開発したリチウムイオン電池(図1(b))を選定することも可能です.この電池は,可燃性電解液を難燃化(4)することで,異常時に火災を引き起こすことがなく,高い安全性を有しています.また,電池単体が大容量であるため,接続時の電池個数や接続点が少なくなり,信頼性を向上させることもできます.

※本記事は日本電信電話(NTT)が発行する「NTT技術ジャーナル誌 Vol.25 No.5,pp.38-41,2013」の転載記事である。
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