【浅羽としやのICT徒然】第6回 世界中の人々をネットに繋ぐという思想は本物か? | RBB TODAY

【浅羽としやのICT徒然】第6回 世界中の人々をネットに繋ぐという思想は本物か?

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マーク・ザッカーバーグ氏(c) Getty Images
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 8月20日、米Facebookの共同創始者兼CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、全世界でまだインターネットに接続できていない50億人をインターネットに接続することを目標とするInternet.orgという共同体組織を設立すると発表しました。設立時点でFacebook社以外にパートナーとして名を連ねているのは、通信機器メーカーEricsson、半導体メーカーMediaTek、携帯電話端末メーカー Nokia、ブラウザメーカーOpera、携帯端末用チップメーカーQualcomm、総合家電メーカーで携帯端末メーカーでもあるSamsung Electronicsの6社です。

 internet.orgでは、これらのパートナーが、ツール、リソース、ベストプラクティスを共有することにより、手頃な料金、効率、ビジネスモデルという3つの分野で、世界人口の3分の2にあたる、残り50億人のインターネットへの接続を促進するための解決策を模索する、としています。

 Facebook社はこの6社と協力しながら、主に発展途上国での携帯電話による基本的なインターネットアクセスのコストを劇的に下げ、普及を促進する考えを示しています。そのために、携帯電話のアプリケーションをシンプル、かつ、軽量動作が可能にして、さらに、電話機の部品や通信ネットワークを改善することで、より少ない電池容量で大量のデータを流すことができるようにする、とのことです。

 Facebook社は、2011年からFacebook for Every Phoneというフィーチャーホン用のアプリケーションを無料配布しています。今回の取り組みで、フィーチャーホンや廉価版スマートフォンの需要が見込める発展途上国での携帯電話によるアクセス環境を大きく改善し、指数関数的にユーザが増えていた黎明期と比較すると、現在年率9%以下に落ちてしまっているインターネット成長率を再び加速する考えです。

 この動きは、全人類にインターネット接続を、というザッカーバーグ氏の個人的な信念によるものとされていますが、現在11億人いると言われているユーザ数を今後さらに延ばして行くための新たなマーケット拡大戦略と捉えることができます。特にフィーチャーホンを基軸に置いた今回のアプローチは、グーグル社のAndroidや、アップル社のiPhoneに対する挑戦状と解釈することもできそうです。Facebook社は政府機関や携帯電話事業者やマイクロソフト社などがInternet.orgのパートナーに加わって欲しいと考えているようですが、NY Timesの本件の記事には、Google社の参加は無いだろうという見方が示されています。GoogleはもちろんAndroidを持っていますし、独自にインターネットユーザの拡大に向けた試みも続けています。同じ陣営に入るモチベーションはないと見るのが自然でしょう。

 一方、ネットワーク屋の視点で見ると、FacebookやGoogleのようなメディア企業主導でのインターネット接続推進の動きにはどこか胡散臭さも感じてしまいます。結局彼らの主なビジネス源である、広告配信のリーチを広げたいだけに見えます。もちろん、世界中でインターネット接続が安価に一定の品質で提供される環境を目指したいのは同じ思いではありますが、できれば、巨大メディア企業の寡占状態をベースにしたネットワークアクセス環境がこれ以上広がるのは勘弁願いたいと感じるのは、私が古いインターネット屋だからでしょう。

 今年6月には、元CIA職員により、国家安全保障局(NSA)など、アメリカの情報機関にFacebookを始めとするSNS加入者の個人情報が提供されていたことが暴露され大きな波紋を呼びました。FacebookやGoogleなどのメディアサービスのユーザ数は既に1社で先進国の人口を軽く凌駕する規模になっています。実際Facebookのユーザ数11億は、インドや中国の人口に迫っています。これだけの大規模なユーザの日々の情報活動の一部を把握することができるわけですから、当局にとっては非常に便利な情報収集手段に見えるでしょう。ザッカーバーグ氏やGoogleのラリーペイジ氏は自身のブログで関与を否定していますが、それだけではどうにもスッキリしません。また、メディアという性格上、彼らのシステムが、誰にどの情報をどのタイミングで配信するかを決めているわけですから、そこにも誰かの恣意が入る可能性は否定できません。

 もしほんとうに、人類の自由な発展のために世界中の人々をインターネットに繋ぎたいという思いがあるのであれば、利用者のプライバシー情報や、言論の自由といったものを、どのような仕組みで保護しようとしているのか、そこの取り組みについて、まず明確にした上で進めて欲しいと考えます。

■筆者:浅羽としや/IIJで、1エンジニアとしてバックボーンNWの構築や経路制御などを担当し、CWCで、技術担当役員として広域LANサービスの企画・開発に従事。現在、ストラトスフィアで、社長としてSDNの基盤ソフトウェアのビジネスを推進中。

《浅羽としや》

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