【トーク】堀江貴文×石川光久『攻殻機動隊ARISE border:3 Ghost Tears』 前編 | RBB TODAY

【トーク】堀江貴文×石川光久『攻殻機動隊ARISE border:3 Ghost Tears』 前編

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堀江貴文×石川光久「攻殻機動隊を巡るトークセッション」 前編
堀江貴文×石川光久「攻殻機動隊を巡るトークセッション」 前編 全 3 枚
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『攻殻機動隊』が今年で25周年を迎えた。士郎正宗の描き出した世界が、今なお色あせることなく多くの人々に影響を与え続けている事実には驚嘆するばかりだ。また、押井守監督による『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』に端を発したアニメ作品が現在まで作り続けられていることにも、『攻殻機動隊』というコンテンツのもつ強度を実感させる。
25周年という節目は新シリーズ、『攻殻機動隊ARISE』の制作を持って迎えられた。公安9課が立ち上がる(=ARISE)までの軌跡を若き草薙素子らと共に描いた本作は全4話の作品として企画され、現在border:2までが上映公開、間もなくborder:3が上映開始となる。
『攻殻機動隊』25周年、そして『攻殻機動隊ARISE border:3 Ghost Tears』の上映開始を記念し、堀江貴文さんとProduction I.G社長・石川光久さんの対談を行った。ITのみならず膨大な知識をもつ堀江さんと石川社長の際限なきトークセッションは、『border:3』に深くリーチする内容となった。
[取材:アニメ!アニメ!編集部 構成:細川洋平]

□ 石川光久(いしかわ・みつひさ)
Production I.G代表取締役社長。1958年東京都生まれ。竜の子プロダクションを経て1987年アイジータツノコ(現Production I.G)を設立。『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』『イノセンス』をはじめ、数々のアニメーション作品を制作。

□ 堀江貴文(ほりえ・たかふみ)
1972年生まれ。ライブドア元代表取締役社長CEO。主な著書に『ゼロ-なにもない自分に小さなイチを足していく-』(ダイヤモンド社)『収監なう。(シリーズ)』(文藝春秋)がある。

『攻殻機動隊ARISE border:3 Ghost Tears』
2014年6月28日(土)全国劇場上映【2週間限定】

■ アニメーションの未来

―AA
堀江さん普段はアニメをご覧になりますか?また思い出に残っている作品などはありますか?

―堀江貴文(以下、堀江)
普通の人よりは見てると思います。ただ、ヘビーユーザーではないですね。好きな作品は『王立宇宙軍 オネアミスの翼』です。

―AA
『攻殻機動隊』はご覧になってますか?

―堀江
『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』は見ました。

―AA
アニメは「クールジャパン」という名の下に海外まで広く知れ渡り、日本文化としての認知度も高まっています。堀江さんはアニメに対してはどうお考えですか?

―堀江
アニメは昔の作品でもリメイクして今の最新技術でおもしろく見れたりするからいいなと思いますね。『新劇場版ヱヴァンゲリヲン』みたいにですね。
あと僕はアニメーターの人材育成が気になってるんですよ。「アニメを作りたい」という話を誰かとした時に、「動く絵をキレイに描ける人は日本に数人しかいない」って話をされたんです。「宮崎駿は動く絵をキレイに描けるからすごいんだ。ところがそんな人は何人かしかいない。結局そういう人がヒット作を生み出すんだけれど、アニメーションの動きをイメージしながら絵コンテや絵をキレイに描ける人がいない」。それは本当なんですか?

―石川光久(以下、石川)
宮崎さんは「歪み」を描ける人ですよね。それはコンピューターでは描けない線なんですよ。歪みが描けるかどうかは感性によるところが大きい。特にうまいと言われる人は「歪み」が描ける人ですね。
レイアウトでも、写実性ではなく見た人に感情移入させるような構図を描ける人は本当にすごい。そういう人は確かに少ないと思います。しかも教えて育てられるような技術じゃないんですよ。

―堀江
そうなんですか。

―石川
かつて『AKIRA』(1988年公開)を一線で作ったアニメーターはまさにうまいと言われる人たちでした。ほとんどが当時20代の若い人たち。堀江さんが挙げていた『オネアミスの翼』も若い人たちで作っているんですよ。
でもいまは『AKIRA』とまるきり同じものを作ろうと思っても、もう作れないんです。昔の手法はもう使えないですしね。昔はみんな睡眠時間をギリギリまで削って絵を描いて、お金の代わりに米を支給したりして「よしみんなやるぞ!」とやっていました。そうしたことはいまの時代には無理ですよね。
もちろん鉛筆からタブレットへ技術が変わっていく中で、CGを駆使する「巧い人間」は出てきているんです。ただ、昔気質のゴリゴリ鉛筆で描くようなアニメーターは出てこないでしょうね。時代が変わるのは、単純に「技術が向上したから今は昔よりいいものが作れる」のではなくて、時代との感性・技術にふさわしい作品が生み出される、ということです。おもしろい作品かどうかはまた別の問題になると思いますけどね。

■ 未来を想像すること

―石川
堀江さんに伺いたかったのは、今、いろいろな企業が成長して、国境を越えて世界を動かしていますが、そんな中で国家は今後どうなっていくと思いますか?

―堀江
国民国家自体は共同幻想なので自分が日本国民であるということは「自分を構成するレイヤー(所属する対象)の1つにすぎない」って考えていますね。以前は「国」「会社」「家族」ぐらいしかレイヤーはありませんでしたが、今は実にさまざまなレイヤーに所属することができます。
例えばFacebookなどではいろんなグループに所属できます。国家単位でいうと僕なんかは「日本国」より「Apple国」の住民のような気すらしています。
iPhoneアプリは販売するとAppleに30%取られます。それを揶揄して「Apple税が高え!」ってみんなが言っています。文字通り僕たちは「Apple国」に税金を払うApple国民で、その国は日本より大きい国かも知れない。「お前Apple国の資格を剥奪するぞ」って言われたら、僕はめちゃくちゃ焦りますね。

―石川
『攻殻機動隊』は「電脳化」することでさまざまな「国を超えたネットワーク(=レイヤー)」に人々が属している世界ですね。

―堀江
「ビットコイン」というネットワーク上の暗号通貨もそうですよね。分散型P2P(※)を使ってみんながお互いの取引を監視して信頼し合うことでお互いのウォレット(所持金額)を認め合うネットワークです。国や第三者機関が入らないので取引コストはほぼゼロ。そのうち契約関係(株や証券)や投票などもこのネットワークを介してできるようになると思います。
(※P2P=多数の端末間を直接通信で繋ぎデータの送受信をする通信方式)

―AA
『攻殻機動隊』が士郎正宗さんによって生み出されたのが1989年、今から25年前のことです。インターネットも発達していなかった時代に現在のネットワーク社会、そしてその先をリアリティをもって予見したものとなりました。実は今から15年後の2029年に『攻殻機動隊』の世界では公安9課が設立されます。では、この2029年に世界はどう変わっていると思いますか。

―石川
士郎さんは『攻殻機動隊』にリアリティをもたらそうとしています。『攻殻機動隊』は核戦争が勃発してしまった世界からスタートしています。放射能汚染が広がる中で日本は放射能除去の技術を生み出し発達させ、その技術を礎に再び高度成長を果たした世界です。潤沢な資金がサイボーグ開発といった科学技術を向上させ、やがて国家規模ではない、国を超えた規模の凶悪犯罪が多発し始める。それに対処する組織として公安9課が設立された。
こういった歴史を作り出して、士郎さんは次のように言っているんですね。「人間というのは振り子と同じだ」と。技術というのは一定の高みまで到達すると必ず揺り戻しがある。服装やインフラなども突飛なデザインに進化していくわけではなくて、ある地点でアナログ方向に回帰していくだろうっていうことですね。
もちろんインフラに限ったことではなくあらゆるものは極端に突き抜けた進化をしない、士郎さんが描く世界はそういった振り子の原理を内包したものになっているんです。質問に戻ると、それが現代から離れ過ぎることなくリアリティに繋がっています。実に巧妙だと思います。

―堀江
なるほど。

―AA
堀江さんは15年後、2029年にこの社会がどう変わっていると予想されますか?

―堀江
全く予想できないですね(笑)。

―AA
堀江さん自身は何をやっていると思われますか。

―堀江
僕は15年後に何をやってようかというのにあんまり興味がないんです。

―AA
堀江さんは、未来に対してポジティブだなとも感じるのですが。

―堀江
未来を考えることは全然ポジティブじゃないと思いますよ。未来にいいことなんかたぶんないんですよ。
「未来を考えてもいいことはない」ということです。15年後って55才ですよ。あんまり考えたくないですよ(笑)。
今より確実に老化している、そんな自分を想像したくない。だから未来を考える人の気が知れないというか。著書『ゼロ』でも書いたんです、「過去にとらわれず未来に怯えず、今を生きよう」って。未来ってやっぱり考えていいことはないんですよ。今やるべき事を一生懸命やった方がいい。

―AA
石川社長はいかがですか?

―石川
いや、僕がまさに今55才なんでそう言われると(笑)。55才も意外に悪くないですよ。

―堀江
もちろんなってみたらそうだと思います(笑)。

―石川
「今やるべき事を一生懸命やった方がいい」というのは思いますね。今を楽しんで生きている人はたぶん10年後も同じように楽しんでいるんじゃないかなと思います。作品も同じです。我々は過去の作品にはほとんど目を向けていません。今にこそ興味がある。
『攻殻機動隊』はシリーズごとに「今」作れるスタッフがそれぞれ集まっている、そこは非常に重要ですね。だからこそ『攻殻機動隊』というのは「『今』作るべき作品」であり続けるんだと思うんです。

後編に続く 

堀江貴文×石川光久「攻殻機動隊を巡るトークセッション」『攻殻機動隊ARISE border:3 Ghost Tears』上映記念対談 前編

《animeanime》

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