【楽しい100人 Vol.10】お父さんは我が家のヒーロー!イクメン&クックメン…三輪康志氏
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奥様の三輪真理さんは、広島県を中心に活躍するシンガーソングライター。康志さんは、そんな真理さんの音楽活動を支えるために、16年前に主夫の道を選んだ「主夫」だ。
「イケメンではありませんが、イクメンです!」
開口一番康志さんが口にした「イクメン」という言葉は、実は広島県民にとっては、他県よりもずっとなじみのある言葉だ。それは、湯崎知事が2010年に、第三子誕生に合わせ育児休暇を取ったことに由来する。「ひろしまイクメンサミット」が開催されるなど「イクメン」普及活動にここ数年力を注いでいる広島県だが、三輪さんはそのまさにパイオニアといえる存在だ。
「台所でトントンと包丁の音が聞こえて、あなたご飯できたわ……というのが子供の時の夢だったんですが……」
と観客の笑いを誘った三輪さんが主夫になる最初のきっかけは、26歳での結婚からしばらくしてのこと。仕事から帰宅すると妻が「家事に疲れた」、とこぼしたことから
「『家事をしてほしくて結婚したんじゃない』-そう、言ってはいけない一言を言ってしまった。26歳の過ちです」
夫の言葉に肩の荷が下りた妻には笑顔が戻り、家事分担は妻から夫婦半々に。三輪さんの主夫としての第一歩がスタートする。その9年後、海外旅行先のオーストラリアで世界一と言われるジェットコースターを満喫して帰国した真理さんに、妊娠が発覚。絶対安静となったために、家事分担は半々から、三輪さんの全負担に。三輪さんの完全「主夫」生活が始まった。そして、娘さんが誕生すると「主夫」三輪さんにもう一つの顔が加わる。
「妻は産みの親。私は育ての親です」と三輪さんは笑顔で、誇らしげに言う。
出産を終え音楽活動を再開させた真理さんに代わり、三輪さんは「イクメン」として日々育児に没頭した。毎晩の読み聞かせ、運動、パソコンと、家事をこなしながら育児にも手を抜くことなく子供と関わった。初めての寝返り、初めての立っち、初めての言葉・・イクメンだったからこそ、一つも逃さずに見守ることができた。もちろん育児の苦労もあった。アトピーのあった娘が眠れず、夜から朝まで背中をさする日々が毎日のように続いた。その中でふと、病弱でよく怪我もする子供時代の自分を、親がつきっきりで看病してくれていたのを、思い出した。
「成長が止まって、成熟が始まる。自分が気づかずにうけていた親からの愛情に気づいた時を、成熟と呼ぶんです」
自分が親の立場になって初めて、わかったことがあった。小学校1年生からは、娘さんのお弁当が始まった。初めは妻と交互につくっていたものの、いつの間にか三輪さんの仕事に。工作みたいと妻に笑われながらも、4年前からは料理教室にも参加。娘と妻に体に良いものを食べてほしくて「前の晩のおかずは(残ら)無い・冷凍食品やレトルトには逃げない・電子レンジは我が家にはない・彩りを考える」という三輪家のおきてを作り、料理にも励んだ。
「今日も晩御飯を作ってから、ここに来ました!」
料理の話をする三輪さんは、とても楽しそうだ。
家族のためにもっと体に良いものを―その想いと、11歳と14歳の時の体験が人生に影響する、と聞いたことから、昨年は家族3人でイタリアのオーガニック体験ツアーにも出かけた。アグリツーリズムで実際に収穫した作物から料理を作ったり、まるで映画やアニメの世界のような、やぎやガチョウのいる自給自足生活を体験したり、本場フィレンツェでピザを焼いたりと、楽しく、そして体に良い体験を満喫した。
家族のために。ただその一つの思いで家事や料理、育児を手を抜くことなくこなしてきた三輪さんは、こうしめくくった。
「僕の夢は、日本の男性が育児と料理の魅力に取りつかれて、イクメンやクックメンが当り前になり、その言葉自体が死語になることです。男性が得意と言われている仕事は、近々コンピューターやロボットにとって代わられてしまいます。だからその前に、料理と育児を女性だけの手に渡さずに、その素晴らしさに気が付いてほしいんです」
スピーチが終わった後に「娘より」という文字が三輪さんの背後のスクリーンに映し出された。当日会場に来ていなかった娘さんからのサプライズは、お弁当のおかずのランキングと、「お父さんいつも、ありがとう」という一言だった。
照れくさそうに、そして最高に嬉しそうに、三輪さんの顔にほほえみが広がった。
《築島 渉》
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