【マイナンバー】中小規模事業者が知っておくべきこととは? | RBB TODAY

【マイナンバー】中小規模事業者が知っておくべきこととは?

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中小企業のマイナンバー対策について専門家2名に語ってもらった
中小企業のマイナンバー対策について専門家2名に語ってもらった 全 9 枚
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 ソリューションありきでなく、基本的な考え方も含め、マイナンバーの深層・真相・新相について、各業界の識者やオピニオンリーダーにご意見を拝聴する本企画。第一回目は、一般財団法人 日本情報経済社会推進協会(以下、JIPDEC)の坂下哲也氏に話をうかがった。

 JIPDECは、プライバシーマーク(Pマーク)やISMS適合性評価制度を始めとする各種事業を通じ、情報の保護と利用に関する安全・安心な情報経済社会を支援する組織だ。インタビューのモデレーターは、レピダムの林達也氏にお願いし、その内容を記事として構成した。

■100名以下の中小規模事業者が必ず知っておくべきこと

林:「そもそもマイナンバーが何か?」という点さえ、まだ現時点(9月中旬)でも、しっかりと伝わっていないような気がします。税と社会保障の関係から言えば、税金を納めているから、その見返りとして社会保障も受けられるという、ごくシンプルなストーリーであったはずです。最近の報道では、それとは異なる話題のほうが多くなっているため、余計に分かりづらくなっているようです。まずマイナンバー(個人番号)の原点について、お伝えしたいと思います。

坂下:もともと税と社会保障の分野で、個人番号の必要性がクローズアップされたのは、名前と住所による市民の突合に課題があったことがあります。例えば、2008年に固定資産税の課税を同姓同名の人に35年間も課していた事故が横浜市戸塚区で起きました。このとき、同姓同名の人をしっかり特定できず、誤った相手の課税コードを付番していたことが指摘されました。また最近では、消えた年金問題があげられます。そこで今回のマイナンバー制度では、個人を正確に把捉することが最大の目的になっています。よく「背番号」という言葉がネガティブに使われますが、国民一人ひとりに番号を割り当て、その人を正確に特定することで、さまざまなメリットも生まれてくるのです。

 マイナンバーに関する制度議論が具体的に出てきたのは、民主党政権のときで、当時は生活保護の不正受給も問題になっていました。公正・公平の観点から、個々人がどれくらいの所得があり、国民の義務である納税を行っているか。また、どのような社会給付を受ける権利を持っているのか、それを正確に把握することの必要性が訴えられました。特に、この後発生した東日本大震災では、個人を証明するものを全て失った場合に、自身の貯金を満足に引き出すこともできなくなり、個人を正確に把握する必要性が再認識されました。2015年にマイナンバー制度に関する法律が成立し、国内に住民登録をしているすべての国民に番号が振られ、事業者は、税と社会保障に関係する法定調書等にその番号を必ず記載する義務を負う事になりました。これは事業者の規模に関係ありませんから、HanjoHanjoの経営者(事業者)の方も、当然対象になっています。

林:ではHanjoHanjoの経営者のような中小規模事業者では、具体的にどういった対応をすればよいのでしょうか?

坂下:「特定個人情報(個人番号と個人情報がヒモづけられたもの)の適切な扱いに関するガイドライン(事業者編)」のなかに、100名以下の中小規模事業者の方を対象にした「特例的対応」が記載されています。例えば、「特定個人情報等の取扱い等を明確化する」とありますが、これは規定を作成するのではなく、あくまで「明確化しておけばよい」というレベルだと政府は説明しています。しかし、何かあったときに、「安全措置に問題がなかった」、「故意ではなかった」ことを示せる状態にしておく必要がありますので、当協会の啓発活動では、紙などに記載することを推奨しています。

 事業者の対策の中で、一番大事な点は「特定個人情報等の取扱状況が分かる記録を保存する」ことです。個人番号の「取得」「利用」「保存」「提供」「削除」というプロセスにおいて、システムログや、紙でもよいので、しっかりと記録しておくことが必要です。パートやアルバイトが頻繁に入れ替わる職場の場合は、業務フローをつくることで、誰がやってもきちんと取り扱える仕組みづくりが必要でしょう。また、「特定個人情報等の定期的に点検を行う」ことも大切です。なお、本人確認した上で取得したマイナンバーや、それを記載した帳票類は、数名程度で多くない場合は、カギのついた場所に保管すれば十分だと考えています。

 さらに、気を付けないといけない点は、「特定個人情報等を削除・廃棄したことを、責任ある立場の者が確認する」という点です。基本的に帳票類は7年間の保管(申告書等の場合)が義務付けられていますから、その期限が過ぎたら、速やかにマイナンバーが記載された書類を削除・廃棄し、それを記録する必要があります。このあたりが、中小企業にとって最低限知っておくべきことです。

■マイナンバー制度のメリットで、恩恵を受けられる点を理解する

林:事業者からみれば、個人番号への対応は余計な仕事が増えて、どうしてもコストがかかってしまいます。面倒なことが増えたと考えがちですが、最終的に自分たちにもメリットがあるという点が、まだうまく伝わっていない気がします。マイナンバーで具体的に便利になることは何ですか?

坂下:国民からすると、最も大きなメリットは添付書類が削減され、行政手続きが簡素化されることです。たとえば、児童手当の新規認定時に課税証明書の添付が不要になったり、お子さんが生まれたときに、これまでバラバラに申請していた出生届や健康保険の加入や、家族が亡くなった場合の死亡届や年金受給の停止、介護保険資格喪失届も、オンラインで一括申請できるようになることが期待されています。

林:マイナンバー制度が社会基盤として整備されると、さらに利活用などでプラス要素が出てくるはずです。ですから世間で騒がれているように、ネガティブな面だけを声高にいうのは疑問を感じます。

坂下:そうですね。社会的には今後、効率が良くなる方向に向かうと思います。マイナンバー制度が導入された後、行政分野で期待される制度の変化について、現在考えられている面について御紹介します。まず、社会保障面では医療保険や年金制度の一元化を実現できるでしょう。また、税制面では「記入済申告書制度」がスタートするのではないかと思います。マイナンバーによって、自身の所得が全て電子的に把握されるので、確定申告の書類に所得などの金額が、予め印刷されており、サインをするだけで済むようになるのではないでしょうか。これによって、企業側が年末調整の作業から解消されるでしょう。

 さらに、「現金領収書制度」による経済の活性化も期待できます。セキュリティ上のキーとなる公的個人認証などを登録し、現金決済時に個人番号カード等に格納されあ公的個人認証をかざすと、決済データが集積され、自動的に還付金が振り込まれる仕組みを構築できるのではないでしょうか。本来、軽減税率の対象となる人たちは、クレジットカードではなく現金決済が主になると思いますので、このような仕組みによって、より具体化が進むのではないかと思います。

 また、マイナンバーの活用によって、農地や森林などの土地や、家屋の所有・相続に関しても明確になります。森林は国土の65%も占めるのに、半分以上の所有者が正確に把握されていません。マイナンバーを活用することで、現存する正確な所有者の把握が可能になり、それに基づき所有者と賃貸契約を結んで、オーストリアのように労働集約型の大規模林業も行える環境が整うでしょう。

 家族関係の把握にも利用できると思います。議論は必要になりますが、マイナンバーを用いて、生計や同居の事実関係を前提とした家族関係を把握することによって、それに基づいた社会制度を適用することも起きるかもしれません。

林:なるほど。いろいろなメリットもありますが、その一方で心配されている点にセキュリティの問題があります。これも誤解されている点の1つなのですが……。

坂下:そうですね。マイナンバー制度のセキュリティの問題で誤解されているのが、マイナンバーが地方自治体や国の情報連携ネットワークにそのまま流れてしまうというものです。確かに自治体の窓口では行政手続きのためにマイナンバーを受け取りますが、機関間の連携ではマイナンバーは飛ばず、機関別符合(暗号)でやり取りされます。また、そのネットワークもLGWAN( Local Government WAN:地方自治体をつなぐ広域ネットワーク)というクローズド環境のネットワークでやり取りが行われます。

 ですからネットワーク上での情報漏えいの可能性はかなり低いといえるでしょう。国民は個人番号カードの公的個人認証により、自身のポータルサイト(マイナポータル)にログインし、機関別符号で集約された自分の個人情報を閲覧できるようになります。マイナポータルは現在構築中で、2017年1月からの運用が予定されています。

 このマイナポータルの利活用として考えられるのは、オンラインで、転職時に電子化された資格証明を入手して企業側に送ったり、採用時の転入・転出、ガス・電気・水道の解約・加入などの手続きを一括で行うことが可能になることでしょう。またマイナンバー制度では医療費も把握できるようになると言われていますので、自動計算による医療費控除も可能になるでしょう。

 一方で、様々なパーソナルデータを利用するにあたって、当該個人で利用するには能力的に敷居が高い人もいますので、その利用にあたって、本人の代理に利用を信託される代理機関(仮称)のようなものも検討されています。これによって、健康データなどを使い、たとえばデンマークのように健康コンシェルジェが個人のお手伝いをするサービスも考えられます。今後、さらに公的個人認証の利用の幅が広がってくるのでしょう。たとえばタクシーなどのレシートを電子化して処理することなども、JIPDECで研究しているところです。そうなると経済効果など、市場へのインパクトも大きくなります。

【本音で訊く!マイナンバーの深層&真相&新相(1)】中小規模事業者が知っておくべきこと

《井上猛雄》

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