【楽しい100人 Vol.18】「人間はもう進化はしませんが、想像力は進化します」……加藤宇章氏
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「4分でわかる加藤宇章を作ってきました!」
人懐っこい笑顔と柔らかな語り口とともに始まったスクリーンの映像に、加藤氏の作品が次々と映し出される。加藤氏が特に手がけているのは、テラコッタと一般に呼ばれる土の焼き物による彫刻。毎年様々なテーマで作品を制作している。
「人間はもう進化はしませんが、想像力は進化します。」
という加藤氏の言葉の通り、加藤氏の作品は実に想像力豊かだ。「骨シリーズ」は、もしピカソやジャコメッティなどよく知られた芸術家が「骨」をテーマに制作したらどうなるか、を想像して作られた作品群。見ると確かに!と膝を叩きたくなる「骨」たちだ。
環境問題に焦点をあてたときのテーマは「空想科学生物」。「こんな生き物いたら面白いね」を合言葉に何万年後の地球に生息する想像生物たちは、奇妙で丸くて、そしてかわいらしい造形ばかり。
「造形作家として新しい世界を展開しないといけないと思っているんですが、どうしても好きな形に落ち着いてしまう。とがったものを作りたいと思っても、こういう間抜けな作品になってしまうんです。」
壇上で話す加藤氏の暖かな雰囲気をそのまま土に練りこんで焼いたような、眺めていると思わず口元が微笑んでしまうような作品の紹介が続く。
加藤氏が代表を務める「アトリエぱお」は広島でも名の知られたアートスクール。「もし僕が子供だったらこんな教室に通いたい、と思えるところにしたかった」と語る加藤氏は、その思いを実現するために、教材やカリキュラムに様々な工夫をしているという。年に一度行われる「アトリエぱおの仲間たち」展には、毎年10人以上のプロのアーチストも参加する。
「子供たちには本物に触れてもらいたい。それと同時に、親も子供もみんなで楽しめるようにしたいんです。」
トーテムポールや広島の街ーーアトリエぱおの子供たちがこの展覧会のために共同で製作した作品たちは、その横で誇らしげに写真に写る子供達のエネルギーでいっぱいの力作ばかりだ。
被曝70年の今年のテーマは、「Peaceful Mind」。「70年の平和に感謝し、未来の平和のために今平和希求を発信しよう」をスローガンに、子供たちがキング牧師など、平和活動に貢献した著名人を調べて絵画や彫刻を製作した。また、国際理解を深めるために、海外の方にモデルをお願いし、子供たちは国際交流をはかりながらの作品製作も行った。そして、加藤氏の今年の作品テーマは「コンフリクト・イーター」。
「コンフリクトは、紛争とか争いとか、いざこざのこと。コンフリクト・イーターは、ギスギスした気持ちや嫌な気持ちを嗅ぎつけて、こっそりやってきてその嫌な空気を吸い込んで、それを栄養にする。そして、幸せな気持ちになれるガスを出して、そこにいる人たちを幸せな気持ちにするんです。そんなモンスターがいたらどんなだろう、というのが、作品になりました」
加藤氏が中心として関わっている「キッズ・ゲルニカ in ひろしま」も、加藤氏が平和を願う気持ちを形にしたものだ。「キッズ・ゲルニカ」は、ピカソがナチスドイツに抗議して描いた巨大壁画ゲルニカと、同じ大きさの絵を子供たちが平和を願って描く、という20年前から始まった世界的な平和アートプロジェクト。世界40カ国でこれまで300枚以上が描かれてきた。
今回広島で描かれたのは20枚。教室の子供達や幼稚園の生徒たち、ワークショップに参加した子供たちなど、約1100人の子供達と100人の大人たちによって製作された作品たちは、福島県いわき市と広島の子供たちがコラボレーションした作品や、長崎やインドから寄せられた作品とともに「こんにちは原爆ドーム」展として原爆ドームの向かい側を流れる元安川の親水テラスにこの夏展示された。原爆ドーム前に広がった、子供達が想像力を羽ばたかせて描いた作品たちに真剣に見入る多くの平和を願う人々の姿は、ニュースや新聞などさまざまな報道機関でとりあえげられた。また、同時に世界各国でキッズゲルニカに参加したアーチスト達の作品を展示する展覧会もギャラリーで行われ、フランスやアメリカ、インド、ネパール、日本などから幅広い分野の作品が紹介された。
8月に開催していた「キッズ・ゲルニカ in ひろしま」では、照り返す暑い日差しの中、来場者一人ひとりに丁寧に話しかけ、子供達の作品について語る加藤氏の姿を毎日のように見かけた。「キッズ・ゲルニカ in ひろしま」などを通じて、加藤氏はここ広島で今年も、来年も、平和であたたかな想像力を周囲の人たちの心の中に育み続けていく。
「加藤氏お誕生日が、8月15日で、長崎出身だって。平和を語るために生まれてきたみたいな人ね」
来場していた知人が口にした言葉の通り、「コンフリクト・イーター」の当本人、加藤氏がスピーチを終えた会場には、ほんわりと暖かいガスが漂っていたように感じられた。
《築島 渉》
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