マイナンバー番号制度担当室長が語る本音…内閣審議官向井治紀氏 | RBB TODAY

マイナンバー番号制度担当室長が語る本音…内閣審議官向井治紀氏

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内閣府 大臣官房番号制度担当室長 内閣官房 内閣審議官の向井治紀氏
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マイナンバーの深層・真相・新相について、さまざまな業界の識者やオピニオンリーダーにご意見をうかがう本企画。第3回目は、マイナンバー制度設計の本丸である内閣府 大臣官房番号制度担当室長 内閣官房 内閣審議官の向井治紀氏に、マイナンバー制度に対して喧伝されている誤解について、本音の話をうかがった。本企画のモデレーターには2回目と同様に、レピダムの林達也氏が務めた。

■通知カード、マイナンバーカード、公的個人認証の誤解を解く

林:これまでマイナンバー制度について、ネガティブな報道が多かったようですが、この連載では本音の話をうかがいたいと思っています。特にマイナンバーの利活用が、いまでも多くの人に伝わっていないと感じています。今後どのような活用が考えられますか?

向井:誤解されているのが、マイナンバー制度そのものと、それに付随するカードや公的個人認証の話が混同して語られていることです。マイナンバーそのものは、公的な番号なので、端的には役所に対する書類関係のみで使うものです。中小企業や個人事業主は、税・社会保障関連、たとえば源泉徴収や社会保険など従来の書類にマイナンバーを加えて提出することになります。一方、行政側はマイナンバーで手続きの効率化が行えます。国民は申請手続きの利便性を享受できます。これがマイナンバー制度そのものの話です。

 一方で、利活用の話はマイナンバーカードに付随する「公的個人認証」を民間に公開することから派生するものです。これにより民間企業は、インターネットで個人認証などが行えるようになります。企業側の論理は、マイナンバーカードが普及するならば、公的個人認証を使ったサービスを広げていきたいという話です。現実に利用するのは大企業でしょうが、たとえばコンビニ業界や関連の中小企業にも活用範囲が広がるかもしれません。

林:そうですね。混乱の原因は個人番号と、通知カード、マイナンバーカード、公的個人認証がすべて同時に語られている点ですね。事前の準備段階の通知カードの扱いから混乱しています。企業が最初にマイナンバーを扱うのは通知カードの状態からです。そこで通知カードからマイナンバーカードに至る過程について教えてください。

向井:まず10月後半から通知カードが順次配られます。そこにマイナンバーカードの申請書が付いているので、写真を貼って必要事項を記入して提出いただくと、来年1月以降にカードができたことが通知されます。それを市町村の役場に取りに行く形になります。

 マイナンバーを取り扱うにあたり、従業員の本人確認をいつやるのかは、企業によって異なります。年内に作業するならば、通知カードで番号を収集することになります。その際に免許証などを持参してもらい、本人確認を行う形になります。アルバイトなどを抱える企業では、マイナンバーカードを使ったほうが番号と本人確認が同時にできるので便利かもしれません。

林:開始時にほぼ全員が持っているものは通知カード。住民票にも個人番号の記載が始まっています。すでに誰もが個人番号を持っており、いよいよ通知カードも手元に届くという状況。そして利便性のために、マイナンバーカードを申請して、役所に取りに行くというプロセスが進んでいくということですよね。

向井:そうです。できるだけマイナンバーカードを使っていただきたいです。そのために、この手の公的証明書としては例外的に無料になっているのですから。

■マイナンバーカードに健康保険証や戸籍の機能も持たせる
林:少し踏み込んだ話になりますが、マイナンバーカードを紛失した場合には、再発行も無料になりますか?

向井:再発行については基本的に有料です。失くして発行となると無限に無料になってしまうので(笑)。ただし災害などが起きた時は別途、免除を考えるかもしれません。

林:標準プロセスでは無料で、非常時のことも考慮にいれているということですね。

向井:ええ。カード有効期限も10年間なので、更新時も無料になると思います。もちろん財務省と交渉していませんから、まだ確定したわけではありませんが、これは無料にしなければいけないと思います。実は3年後には、マイナンバーカードの公的個人認証を利用し、健康保険証の機能も持たせたいと考えているからです。健康保険証は、すべての国民が持つことが前提。カード更新も完全に無料化を定着させるべきだと思います。

林:マイナンバーカード交付の無料期間を限定することも考えていますか? いつまでに取りにいけば無料です、というように。

向井:そういうご意見もありましたが、なんとなく皆さんを追い込んでいる感じがしますから、あまりよろしくないかと(笑)。

林:なるほど。企業は準備が整い次第、強制ではなく、社員に推奨してマイナンバーカードを取ってもらうと……。マイナンバーカードが定着する前は、(マイナンバーカードと)通知カードが混在する運用を行う必要があるということですね。

向井:そういうことです。ただしマイナンバーの管理については、それほどナーバスにならなくてもよいかと思います。特に中小企業の場合は、従業員数もそれほど多くないため、手書きで処理してきたことは続けていただけます。常識的に言って他の従業員に見られない場所に帳簿などを保管しているでしょうから、マイナンバー管理も同じ対応で大丈夫です。別にマイナンバーの情報は「金の延べ棒」という話ではありません。何百万円もの金庫に入れる必要はないですよ(笑)。

林:まさに中小企業では、今後どのくらいマイナンバー制度にコストをかけなければいけないのか、人的オペレーションでどのくらい負荷がかかるのか? という点が気になっているところです。その話の前に、最終的にマイナンバー制度で得られるベネフィットについて、中小企業の視点から教えてください。

向井:マイナンバーそのもののという観点では、ベネフィットよりも企業の負担が若干増える傾向にあるでしょう。多数のアルバイトを抱えていたり、出版社などで個人事業主に原稿料を支払う場合などは、特にご負担をかけることになるかもしれません。ただしマイナンバー制度は、もともと企業のIT化と業務の効率化を図るために導入しているため、IT化が進めば逆に還元できる側面もあります。

 たとえば源泉徴収は、市町村と国でバラバラに提出していましたが、el-Taxでマイナンバーを付けて出していただければ、自動振り分け機能で一括処理が可能になります。マイナンバー制度でご迷惑をかけるぶん、メリットも享受できるようにしなければいけません。特別徴収の付加についてもネットで一度に処理できるように総務省にお願いしているところで、かなり良い方向に進んでいます。

林:電子政府の流れに至るために、国民全員に持ってもらう番号がマイナンバーだということ。これが最も適切な認識ですよね。

向井:だからマイナンバーの次のターゲットは戸籍になります。現在、親子や夫婦関係を証明するものは戸籍しかありません。社会保障の給付でも、戸籍謄本や所得証明などが必要なケースがまだ多く残っています。それをインターネットで完全にワンストップで提供するためには、戸籍について考える必要があります。将来的に死亡時もワンストップで処理が行えることを念頭に置いています。

林:ワンストップサービスの話は、マイナンバー制度が出始めたことから、公共料金も含めてオンライン化される方向で検討されています。いまの話のように戸籍を意識している人は多くないと思いますが、そういうことも整理できるようになると、結局は中小企業の総務や事務のプロセスも簡略化されていくはず、という認識でよろしいですね。

■マイナンバー制度で、中小企業が本当に考えなければいけないこと
林:一方で飲食業や町の八百屋さんなど個人事業主もマイナンバーを扱う対象だという点が、まだ周知されていない気がします。中小のうち小企業はどういうときに、どういうことを意識する必要がありますか?

向井:端的に申しますと、税と社会保険(保障)の分野で、役所に提出する書類関係にマイナンバーを振っていただくということが原則ですね。これまで自分がどういう書類を出してきたのかを確認してもらうことから始めればよいでしょう。マイナンバーによって増える書類は一切ありませんから、去年まで出していた書類を引き続き今年も出してもらえれば大丈夫です。ただし年金や医療関係は一年遅れになります。個人営業の場合は、従業員の源泉徴収(平成28年から)と自分の確定申告書(平成29年から)、国民健康保険の申請(これまで加入している場合は提出する書類はほとんどない)の手続きが必要です。

林:源泉徴収については来年度なので、従業員に関しては来年12月頃まで用意できればよいわけですね。いま中小企業が恐れ戦いているのは、来年1月に何をしなければいけないのか、ということです。

向井:アルバイトを雇ったり、講演や原稿を頼んだりして源泉徴収が発生する場合など、一発モノのときが処理しなければいけない典型例ですね。それ以外はありません。

林:中小企業では、雇用契約書を新規につくって、それがすぐに終わるケース……。

向井:いえ、新規雇用の場合は関係ありません。ただし、雇用が終わるケースでは考えなければなりません。通常であれば来年(2016年)3月に従業員が辞めるため、その際に大量の処理が発生するでしょう。企業側で雇用保険を支払っている場合も入社段階で資格が発生するため、申請書を出す必要があります。雇用保険だけは平成28年1月からになります。厚生年金や健康保険は平成29年1月からですね。

林:人事のほうが、そういったシチュエーションを知っているようですね。人を雇って支払いが発生するケースですね。申請書類でミスをしたり、事情により書類を提出できない場合はどうすればよいのでしょう? 罰則が厳しいという話が広まり、おそらく一般の皆さんは知らずにあおられているのではないでしょか? このあたりで突っ込んだお話をさせていただければと思います。

向井:まずは書類を間違えたときは訂正していただければよいだけです。マイナンバーが取れなかった場合には、取れなかった理由を書いて出せば、国税庁で基本的に受理してくれます。また漏えいなどの罰則については原則的に故意の場合です。ただし使用者側に両罰規定があるので、従業員が故意で何かしたら雇用者側で罰がかかる可能性があります。

 両罰規定の解釈論では、使用者側に過失がなければ企業側に責任は問われませんから、セキュリティ対策や従業員教育を常識の範囲で実施してください。「マイナンバーは故意に漏らしてはいけません」ということを伝え、紙で貼ったりする。そういう話だと思います。本当に小さな事業者は経営者がマイナンバーの管理を兼務しているので、責任をもってやっていただければよいでしょう。まあ金目の問題はちゃんと管理されているでしょうから、同じ状態で管理していれば大丈夫です。

林:こういう表現が適切か分かりませんが、従業員の個人情報は印鑑やお金の話だと思って意識してもらったほうがよいですね。

向井:おっしゃるとおりです。マイナンバーはお金に直接結びつくものではありませんが、従業員の給料は他人に見えないようにするのは当たり前。従業員に分からないものが、外から侵入したものに分かるわけはありません。したがって印鑑やお金と同じレベルで管理すれなよいのでは? という説明をさせてもらっています。

林:経理担当は従業員の個人情報を扱うため、少し教育しなければいけませんが、そういう体制に組み込めばよいと……。

向井:特定個人情報は管理者を決めて管理する必要があります。経営者ご本人が担当していれば、自分が担当だと言えばよいだけです。規定集のひな形も出ているので、適宜参照していただくことになりますね。

■中小企業は、徐々にマイナンバー対策の準備をしていくスタイルでもOK
林:現在でもまだ、IT企業以外の会社はマイナンバーに対する意識が希薄なようです。

向井:できるだけ意識をもっていただきたいし、そのためのガイドラインもつくっています。こういう言い方して適切か分かりませんが、守っていなければすぐ罰則がかかるのかというと、そういうものでもありません。ただし個人情報が漏えいすれば、両罰規定を取られますから、準備しないとひっ掛かるリスクが増すということ。まあ常識的かつ総合的に判断して対策してもらえればと思います。

林:おそらく自営業で法人になっているところは、そのレベルでよいと考えられるでしょう。10人規模の企業も今の話でほぼカバーされます。しかし100人前後の企業が一番どうしてよいのか迷っており、IT化をしたくてもなかなかできない、あるいは今後そういう計画を立てねばならないと思っています。実際に準備にかかる猶予はどのくらいですか?

向井:特定個人情報保護委員会に監査権限があるといっても現在50名規模ですから、対象相手も国や地方自治体が優先されます。そうなると民間企業に特定個人情報保護委員会が関わるときは、漏えい事件が表面化するなど何か事故が起きた時でしょう。だからマイナンバーで世の中を締め上げるようなことはありませんよ。中小企業は個人情報保護法のときにどうしたのかということを思い出しながら、徐々に準備をしていくスタイルになると思います。

 セキュリティを商売する方々が、やや過剰にモノを言われる傾向にありますが(笑)、常識的なセキュリティ範囲で情報を守っていけばよいでしょう。セキュリティと情報規模には、ある程度の相関関係があり、当然ながら大量も情報を有する企業はセキュリティが厳しくなりますし、情報が少ない企業はそれなりのものでよいと思います。要はコストパフォーマンスの問題です。また情報の内容によっても異なってきます。従業員の情報か顧客の情報かでも扱いが異なってくるでしょう。

 そのあたりを勘案していただき、これまで手書きでやってもうまく行っているのであれば従来どおりで構わないのです。先ほどご説明したように手書きの書類を保管するのに、別に何十万円もする金庫が必要なわけでもありません。従業員が勝手に盗めないぐらいのセキュリティがあればよいということですね。

林:事務所に入って勝手に取られないレベルの鍵付きロッカーがあり、そういう場所に書類の束が入っていれば、それはちゃんと管理していたことになるわけですね。

向井:通常の商売と同様に管理してもらえればよいということです。普段、給与の台帳はどうしているのか、ということを考えれば、まさか、そういう資料を机の上に放っておく人はいないでしょうかねら。

林:いやいや。たまにあるかもしれませんよ(笑)。それはよろしくないので、これを機に正してくださいという話ですね。

【本音で訊く! マイナンバーの深層&真相&新相(3)】番号制度担当室長が語る本音!

《井上猛雄》

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