マイナンバー制度、本当に便利になるのはこれから | RBB TODAY

マイナンバー制度、本当に便利になるのはこれから

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レピダム代表取締役、OpenIDファウンデーション・ジャパン プロデューサー 林 達也氏
レピダム代表取締役、OpenIDファウンデーション・ジャパン プロデューサー 林 達也氏 全 1 枚
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 マイナンバーの深層・真相・新相について、さまざまな業界の識者やオピニオンリーダーにご意見をうかがう本企画。前回に続き今回(最終回)は、本企画のファシリテーターを務めたレピダムの林達也氏【写真1】が登場。前回までのJIPDEC 坂下氏と、内閣府 向井氏の貴重なお話を踏まえつつ、マイナンバー制度の現時点での問題点と、今後の普及に向けて、重要な示唆をいただいた(このインタビューは12月上旬に行ったものです)。

■高い金庫や大掛かりなシステムの導入はあわてないこと
 いずれにしても押せ押せで来て、さて来年どうするのかという話になったとき、繰り返しになりますが多くの事象は来年に対応すれば済むということはこのタイミングでぜひお伝えしておきたい点です。坂下氏や向井氏からのお話のように、来年度に最低限すべきことだけをやればいいわけです。”大掃除の前にマイナンバー担当者を決め、マイナンバーにかかわる提出書類の洗い出しておく。”大変ですが、頑張れば1日はかからないでしょう。

 それから高い金庫やシュレッダーなどの不用意なものは買わなくてもよいと思います。そういうことに騙されないようにしましょう。結局、惑わされる人が出るほど、マイナンバー制度の国民に対する不信感も募ってしまいますから、本来の意味でも両者にとって何もよいことはないんですよね。

そういう意味で、中小企業は1年間かけて、来年の秋口まで状況を踏まえながら対応していったほうがよいでしょう。わかりやすく言えば、来年からお試し期間と学習期間が始まるので、徐々に準備して慣れていけばよいと。ですからマイナンバー対策製品の検討も来年で間に合いますし、各業種で一番コストが抑えられた管理方法が出てきますから、フィードバックを反映したベストプラクティスな製品を買ったほうがお得ですよ。

――なるほど。ベンダーさんも短期的に煽ってマイナンバー対策ソリューションを売らないほうがよいし、中小企業も焦ってソリューションを買うこともないということでね

■オンラインでも本人確認ができるようになったことは画期的

――現時点でマイナンバーカードの申請状況は芳しくないようですね。VNSの調査によると、カード申請を既に済ませたという人は全体の14.4%(調査期間:11月27日~30日、対象:全国・男女20~60代男女、有効回答数:1111名)しかありません。

林:マイナンバーカードについては、国家公務員が身分証明書として利用することになっていますし、国立大学法人等でも利用することになったようです。そうなると来年だけでも、かなりに枚数が発行されることになると思います。もしかすると申請を出した一般国民が1月に受け取れるマイナンバーカードはレアカードになるかもしれませんね。

 ようするに、すぐにマイナンバーカードが国民に行き渡るという状況でもないということです。どちらしても通知カードを受け取りきれていない段階ですし、ある程度はカードの申請が集まらないと作れないので、今後ゆっくりと浸透していくのではないかと思います。

――マイナンバーカードの利便性という点で、前回の向井氏の話では1つのカードに機能を集約していく方向ということでした。この点についてはいかがですか?

林:私自身は、この点についてはあまり賛成していません。というのは、マイナンバーカードは非常にレベルの高い認証手段なので、個人的には印鑑証明書カードぐらいの扱いをしたいと思っています。それこそ実印相当の署名機能まで付いているカードなので、やはり落とした時等のインパクトが大きいと思います。そこは、もう少し考えていかなければいけない課題だと感じています。

 実際には政府もこの課題はとっくに認識しているようなので、もう少し様子をみるのが良さそうです。今後はカードを持ち歩くという議論とともに、より便利になる仕組みの話も出てくると思いますので、それを企業が活用する方向になるでしょう。なによりマイナンバーカードに公的個人認証の機能が付き、オンラインでも本人確認ができるようになった点は、本当に画期的なことなのですし。


――マイナバーカードによって、全国民にオンライン上での実印を押せるような仕組みを配布できるようになったということですね。

林:ええ。それが最大のメリットですが、逆にいえば、もっと通知カード自体も大切に扱わなければいけないということでもあります。他人が実印を持ってしまうリスクもあるわけですから。マイナンバー制度で本人確認をどうしてこんなに厳密にやることになったのかというと、やはりその背景はオンラインで厳密な支払いを可能にするためです。極端な話ですが、オンラインで安心して土地の購入ができるぐらいの話です。マイナンバーカードがLoA4【注1】の認証基盤を持っているということは、実はそういうことなのです。

――すごい画期的な話ですが、逆にソーシャルな面で騙されてしまうという点では危ない面はないですか?

林:専門家がおっしゃるように3Dプリンターで陰影まで偽造できてしまう印鑑(ハンコ)よりも技術的には安全かもしれませんが、騙すというソーシャルな行為に関しては、いまも昔もリアルもオンラインの世界でも危険性は変わりません。ですから今度はオンラインの世界で、サービスを安全に提供できるフレームワークが求められるようになると思います。

 これに関しては、実は何年も前から省庁で検討されていることです。私も2014年には総務省の「モバイルトラストフレームワーク」に携わりましたし、なによりここ数年、経済産業省と共に「ID連携トラストフレームワーク」【注2】という枠組みを進めてきました。今後は、そういう基盤をベースにした社会を構築していくことが重要になってくると思います。

 まだ政府側からもマイナンバー制度で何が便利になるのかという具体的な話もあまり広報されていません。来年になってから、いろいろと見えてくると思います。現状では、国民のベネフィットが見えるところまでやっとたどり着いたという感じでしょうか。ただ、これで不便になることはまずない、便利になるはずのものなので、来年の1年間でじっくりと準備していただき、マイナンバー制度が使い易い制度になるように、企業側も共に育てていってくださればよいと思いますね。

【注1】アイデンティティ(ID)の4つの保証レベルのうち最高位となるもの。レベル1:ほぼ、あるいはまったく信頼性がない。レベル2:ある程度の信頼性がある (社会保障サービスでの住所変更手続きなど)。レベル3:高い信頼性がある(弁理士による特許電子出願など)。レベル4:きわめて高い信頼性がある(捜査当局の犯罪歴DBアクセスなど。

【注2】企業ごとにユーザーの登録・認証を別々に行うのではなく、ID情報を企業間で交換することで、一元的にサービスを利用できるようにする。この際に異なる組織間でのIDデータのやり取りには個人情報の悪用や漏えいリスクが伴うため、ポリシーやルールを明確にしたうえで、信頼できる組織を認定し、それらを連携させる仕組みをID連携トラストフレームワークという。

【本音で訊く! マイナンバーの深層&真相&新相(6)】今後の展望……本当に便利になるのはこれから

《井上猛雄》

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