「都会ではなく、過疎地で人材が集まった!」……サイファー・テック 吉田社長 | RBB TODAY

「都会ではなく、過疎地で人材が集まった!」……サイファー・テック 吉田社長

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“半東京半美波”で精力的に活動する吉田基晴氏
“半東京半美波”で精力的に活動する吉田基晴氏 全 5 枚
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 太平洋に面する海辺の町で、ウミガメが産卵で砂浜に上陸することで知られる徳島県美波町。NHKの朝ドラ「ウェルかめ」の舞台にもなった、人口1万人に満たないこの小さな町がいま注目を集めている。企業が次々とサテライトオフィスを開設しているのだ。

 企業進出の波を起こすきっかけとなったのは、情報セキュリティやDRM(デジタル著作権管理)の分野で事業展開するIT企業のサイファー・テック。東京の神楽坂に本社を置くが、2012年5月にこの町へサテライトオフィス「美波Lab」を新設したのをきっかけに、社員数が7人から26人へ3倍も増え、4年連続の増収増益を達成しているというのだ。同社代表取締役社長の吉田基晴氏は次のように語る。

 「都内で求人広告を出してもなかなか人が集まりませんでしたので、ならば地方にオフィスを置き、都会から地方へ人材を呼び寄せようという“逆張り”の発想に立ちました。すると美波町での暮らしに魅力を感じた若者が集まってきてくれたのです」。

 会社設立時の03年の5人から12年までにわずか2人しか増えていなかっただけに、その効果は絶大だが、美波町へサテライトオフィスを置き、美波町での人材募集で成果を上げた背景には、美波町の持つ魅力が欠かせないと吉田氏は指摘する。

 「例えば、都内で生まれ育ち、美波Labへ転職してくれたA君は、趣味のサーフィンをもっと楽しみたいという思いから美波町へ移り住んできました。それだけ、サーフィンの地としての魅力が美波町にあったわけです」。

 また、A君は町の祭や阿波踊りをはじめ、消防団、津波避難路草刈りなど、地域のさまざまな活動に参加している。こうした町とのつながりを吉田氏は「つとめ(=役目)」と言い、東京と比べて美波町でのライフスタイルは、サーフィンという「遊び」が充実したばかりか、「稼ぎ」「暮らし」「遊び」「つとめ」が一体化し、充足度が高まっていると見ている。さらに、ライフスタイルが向上するからこそ仕事においても活力がわき、同じ時間内で作業量やクオリティが増すという見方もできる。


 美波町は吉田氏の出身地でなじみがある。また、美波町の地元住民の歓迎ムードも大きかったため、サテライトオフィスの開設に踏み切った。もちろん、インターネットに接続できればどこでも仕事ができるという点と、全国的に徳島県は光ファイバー網が整備され、どこでもインターネットがつながりやすいという条件もプラスに働いた。町からは、オフィスの賃料の一部を補助してもらえるなどのサポートも受けている。

 吉田氏は「美波Lab」の開設で得た経験から、ITを駆使して働き、仕事以外の魅力となるXも楽しむ“半X半IT”という生き方を提唱。町に企業誘致された身でありながら、13年6月に株式会社あわえを設立し、自ら美波町に企業誘致する活動も始めた。その結果、15年11月現在で13社がサテライトオフィスを進出。社会動態人口もそれまで減少続きだったが14年に初めて増加へと転じた。

 では、どのような企業がどのような目的で美波町という過疎地にサテライトオフィスを開設してきたのだろうか?

 「例えば、大阪でクラウドシステムを開発する鈴木商店は、クラウドだからこそどこでもネットを活用できることを証明するために、自ら大阪から遠く離れた美波町にサテライトオフィスを開設しました。株式会社たからのやまは、未来の東京の姿が過疎地の美波町にあると言い、美波町に住む高齢者の方々に協力してもらい、高齢者向けのIT製品を開発しています。

 サイファー・テックは人材確保のために、鈴木商店はビジネスチャンスを広げるために、たからのやまはビジネスのヒントを得るために、過疎地の美波町に助けてもらっているわけです」という吉田氏。企業にとってサテライトオフィスを構える価値は決して小さくなく、さまざまな面でメリットを得ることができそうだ。

 あわえでは美波町への企業誘致のほか、若者を美波町へ呼び込むインターンシップ、全国各地の自治体の地方創生担当者や地域おこし協力隊など向けた研修をはじめ、さまざまな活動を展開している。今後、美波町を起点に日本全国へ、企業再生や地方創生の波が広がりそうだ。

人材確保に過疎地が貢献? サテライトオフィス最前線

《加藤/H14》

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