「おそ松さん」の笑いは必ず6回…監督と編集がじっくり語った | RBB TODAY

「おそ松さん」の笑いは必ず6回…監督と編集がじっくり語った

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編集が生んだ「おそ松さん」の笑い 藤田陽一監督+編集・坂本久美子 座談会
編集が生んだ「おそ松さん」の笑い 藤田陽一監督+編集・坂本久美子 座談会 全 7 枚
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大人気のまま放送を終えたTVアニメ『おそ松さん』。赤塚不二夫の代表作『おそ松くん』の6つ子が成長してニートになったという設定で繰り広げられたギャグは、男女・年齢の別なく数多くの視聴者を虜にした。人気の秘密のひとつは、たたみ掛けるようなテンポ感があったのは間違いない。
そこで今回は、藤田陽一監督と、編集の坂本久美子さんに、『おそ松さん』における編集へのこだわりを聞いた。
[取材・構成 藤津亮太]

『おそ松さん』
http://osomatsusan.com/

■ダイアローグをアクション感覚で編集

――藤田監督と坂本さんはお仕事は初めてになりますか。

坂本久美子さん(以下、坂本)
監督になってからは初めてですね。

藤田陽一監督(以下、藤田)
実は長いんですよ。『陰陽大戦記』って、今話題の『KING OF PRISM by PrettyRhythm』の菱田正和監督の作品でふたりとも一本立ちしたので。

坂本
そうですね。『陰陽大戦記』がお互い、デビューぐらいの作品で、あそこで揉まれましたよね。それ以来、10年ぐらい知り合いではあるんだけど、仕事はずっと間が空いてて。藤田さんはその間に『銀魂』で人気監督になってて(笑)。だから久々にちゃんと仕事をすることになって「成長もしてねえし、なんか全然ダメだな」ってなったら怖いなって、最初はちょっと緊張しました。でも、始めてみたらすごくやりやすくて安心しました。

――『おそ松さん』の編集で意識をしているところはどこなんでしょうか。ギャグものだから、というところがありますか?

藤田
ギャグだからというか……『おそ松さん』ってセリフの掛け合いの数があまりに多いので、ダイアローグをダイアローグの切り方じゃなくて、むしろアクションだと思って切ってもらう、っていう感覚が大事になってくると思ってました。たとえば半秒の間ができても、セリフの言い方ひとつで埋まっちゃうといえば埋まっちゃうんですよね。でも、そこをちゃんと坂本さんは切ってくれる。演出がテンポを決め込んでいくことが大事だって考えてくれる編集さんなので、そこは助かっています。そういう編集さんはなかなか有り難い存在なんです。

――坂本さんは『おそ松さん』編集をしてみていかがでしたか。

坂本
どんな作品もそうですが、最初はキャラクターの喋り方がどういうものかわからないんで、そこはこうやって動くのかな、喋るのかなと想像しなくちゃならないんですよ。それが『おそ松さん』では6人もいるので、大変でしたね。

――テンポについてはどうでしょう?

坂本
確かにギャグなんでテンポはどうしても早くなっていくんですけれど、それだけではだめなところがあって。走ってばっかりいると、重要なところが流れちゃったり、オチも効かなくなったりするので、「ここはちょっと一旦置きましょうか」というところは時に藤田さんに相談したりしつつ、ですね。幸い、藤田さんが考えているテンポとこちらの考えているものが近かったので、揉めたり(笑)とかはなかったと思います。

藤田
ダイアローグまわりの3コマとか、6コマがやっぱり積み重なっていくので、すごく大事だと思うんでしよ。

坂本
本当にそうですね。私も「3コマ切ろう」とか細かいことは言いたくないんだけど、本当に全然違うので。テンポってそこの積み重ねででるものなので。

■「6つ子」ならではの難しさは?

藤田
それは絵コンテの段階でも意識してるんですよ。セリフばっかりのカットに尺をつける時、×秒ジャストか、×秒12コマ半秒の刻みでしか尺をとらない演出さんもいるんですよ。それよりも細かい間は“誤差の範囲”みたいな考え方で。でも僕は、ほかのスタッフへのメッセージという意味も込めて、もっとタイトに、アクションのつもりでセリフをとってほしいくて、×秒6コマとか細かくつけるんですよね。……それって辛(から)すぎますかね?

坂本
いやいや、いいと思いますよ。一番最初にやったのが第2話からでしたけど、確か最初は、ちょっとダラっとした感じでやりたいっていうのは聞いた記憶もあるんですけど(笑)。

藤田
第2話のアヴァン(デリバリーコント「イソップ物語」)は特別(笑)。

坂本
そうでした。だから最初はだらっとおもしろい感じにするのかと思ったら、わりと早い段階でギュッとし始めましたね(笑)。

藤田
雰囲気はだらっとしてるけど、セリフはタイトだから。松原(秀)さんの書くセリフって、ストーリーのために登場人物が言わせられているセリフっていうより、もっと生々しい“会話”になってるんです。そこを大切にするためにも、会話のテンポは大切にしたいと思っていて。

坂本
そういう部分を出すのにちょっとずつの間が必要なんですよね。たとえばおそ松って、喋り方はのんびりに聞こえるんですけど、それはそれでのんびりに聞こえるタイトさがあったりして。

――6つ子の喋りは、それぞれ独特ですが、編集にも影響したりしますか?

藤田
そこまでは違わない……かな。一松はちょっとゆったり、トド松はちょっとはやいなってぐらいですね。

坂本
カラ松が「フッ」って笑う分が「長い」って、特に後半気にしてましたよね。

藤田
そうそう(笑)。「フッ」というところが積み重なると、タルくなっちゃうんですよね。

坂本
でもまあ、もちろん言ってこそみたいなところもあり。

藤田
そう、そこは難しいバランスですね。それでいうと6つ子っていう人数そのものが難しいところもあって。

坂本
寄り(アップ)を見せようと思っても、6回分いるんですよ。PAN(カメラを横に振るカメラワーク)も6人並んでいるから長い長い(笑)。普通のPANよりも尺が自然と長くなる。

藤田
天丼(繰り返しのギャグ)は3回までなんだけど……。

坂本
6回必ずいるっていう。

藤田
そこも6回分、テンポ的にどうやって積むか、って話なんですよね。

■ 流れてしまわないように“ひっかける”

――素朴な質問なんですが、アフレコ後に役者さんのお芝居を聞いて再編集する、ということはあったんでしょうか?

坂本
いや、それはないです。基本的にはアフレコの前に1回だけ編集して、もう本当にそこで完全に決め込んでます。その後は、完成した映像に差し替えていくだけですね。

――あくまで映像側でテンポを計算してあって、そこにアフレコしてもらっているわけですね。

藤田
そうです。役者さんはもしかすると、「もうちょっと間があればもっとお芝居できるのに」と思ってるかもしれなくて、そこは申し訳ないんですけれど、お客さんが腹八分目の状態で次の情報を見せてかないと、次が情報が入って来ないんですよね。お芝居だけで満腹されてしまうとそこが難しい。そのあたりをコントロールできるのが、編集された映像でアフレコをする強みなので。

坂本
そこを一番計算していますからね。その上で、みなさん、すごくいろいろ演じてくださってありがたいって思います。セリフがついた素材が戻ってくると、トド松なんか、編集してた時よりずっとセリフの強弱が波打ってて「こんなの想像できなかった!」ってなりました。

――編集の作業は、どんな流れで進んでいくんでしょうか。

坂本
基本は動画が棒繋ぎになった素材を見つつ、自分でセリフを言ったりしながら、コマを足したり引いたりしてメリハリをつけていきます。

藤田
僕は「流れちゃっているから、どっかひっかっけて?」ってちょくちょく言うじゃない。あれは、ほかの監督さんも言うのかな? 大きな緩急はコンテで作れるんですけど、やっぱりフィルムになると会話が流れすぎる時がでてくるんですよね。

坂本
ああ、確かに藤田さんはよく「ひっかけて」って言いますね。映像って勢いだけでも見られちゃうかもしれないんですけど、それがちゃんと笑えるかどうかと考えると、もう一歩、もう半歩踏み込んだ方がよい時があって。

――その“ひっかける”ポイントってどう探すんですか?

坂本
たとえば、ワーって会話が続いた時でも、ここは一拍おいてるなっていうところがきっとあるんで。そこをもう少し伸ばしてみよう、みたいにして“ひっかける”ようにしていきます。

――時間はどれぐらいかかるのですか?

坂本
普段は3時間ぐらいですねよね。編集でゼロからテンポを作らなくてはならない時は7時間ぐらいかかったこともあります。

――普通のA・Bパートにわかれているエピソードもあれば、小ネタ集みたいな週もありますが、どちらのほうが大変ですか?

坂本
「あー、いっぱい戦ったな」っていく気持ちになるのは。それは第3話『こぼれ話集』とか第17話『十四松まつり』小ネタ集の時ですね(笑)。

■ 全体の尺調整は予告とCパートで

――Cパートがあったりなかったりするのは、やっぱりA・Bパートを編集した結果、時間が余ってしまった時にそうなっている、というわけでしょうか。

藤田
そうです。それは『銀魂』のころからやっていました。完璧に編集したものを、放送枠の尺に合わないから伸ばしたりするのはいやだな、と。『銀魂』の時よりも自分のテンポがわかってきたんで、以前よりも比較的早めに「これ絶対、(尺が)ショートするからCパートに何か入れよう」って決められるようにはなってると思います。あとCパートを入れるほどでもない場合は、次回予告で調整してます。

坂本
基本的に放送のための定尺を気にせず編集して、たいがいはちょっとショートすることが多いので、そこは予告で調整してますね。だから毎回予告の尺は違うんです。いちおう15秒を想定してるんですけど、最初のころは藤田さんが「それだけセリフを入れるから大丈夫」って言って1分ぐらいあったこともあるし、最短は……5秒?

藤田
5秒ですね。1ロール最低5秒はないと怒られるので(笑)。

――印象に残っているエピソードを教えてください。

坂本
Cパートでいうと第14話「チョロ松先生」がめっちゃ好きでした。最初一人であの長いセリフいいながら編集してたんですけど、神谷(浩史)さん、これを一息でいうのはきっとしんどいだろうなって思ってました。

藤田
神谷さん、必死になってやってくれたんですよ。

坂本
やっぱり。普段と感じが違って印象的だったのは第7話「北へ」ですね。

藤田
あれも『おそ松さん』以外では許されないんじゃないかっていうテンポ(笑)。

坂本
普通は詰めて詰めてになるのに、「北へ」は3秒ぐらい間を取っても「まだちょっと早くない?」みたいな回で。ヒッチハイクで車が通り過ぎるところなんかは、絵コンテで30何秒あったの、さらに伸ばして40秒ぐらいにしてますからね。……伸ばしたといえば、第8話「なごみのおそ松」の「犯人は~」というのも……。

藤田
あそこも増やしたね~(笑)。

坂本
あそこはト書きに「飽きるまで」って書いてあったんで、自分が飽きるまでカットバックを続けたんですよ。その後、ダビング終わった素材に差し替えてたら、編集室の外で聞いてた後輩が「長っ!」ってトド松と同じリアクションをとってくれて、うれしかったですね。

――苦労したエピソードはありますか?

坂本
どれも楽しかったんですが、シリーズ最初のほうに出てきた普段とちょっとテイストが違う話数――第5話「エスパーニャンコ」とか第10話「イヤミチビ太のレンタル彼女」――は、その話数なりのテンポ感つかむのに時間がかかったりもしましたね。

――『おそ松さん』の編集作業を振り返っていかがでしたか。

藤田
自分がサンライズ出身だからなのかもしれないんですが、絵コンテでも決め込むけど、最後は編集でもっていくっていう感覚があるんです。実際に映像を流してみてリズムを作っていくんで。きっちり編集することで退屈でなくなると思っているので、やっぱり編集は大事だってことを改めて実感しましたね。坂本さんとできてよかったです。

坂本
いえいえ。私はまず編集前は絵コンテを見るのが毎回楽しみで、編集した後は、音戻し(ダビングでセリフと効果音がついた素材が編集に戻ってくること)も楽しみ、という作品でした。周囲の普段アニメを見ないような友達からの反響や感想も多くて、楽しんだり、びっくりした作品でした。


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《藤津亮太》

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