【ICTが変える高齢化社会】バックヤードのICT化が進む | RBB TODAY

【ICTが変える高齢化社会】バックヤードのICT化が進む

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 待ったなしの高齢化社会。それに伴う労働人口の減少は、日本の将来に暗い影を落としている。少子高齢化の影響範囲は多岐にわたるが、今後長期的に続くと思われるもののひとつに、医療・介護の問題がある。アプローチはいくつかあるが、この問題の対策に、IoTやロボット、ビッグデータを活用する動きが官民ともに活発だ。

■ITが支える介助者の生産性向上

 政府は日本のお家芸である製造技術やICTによって、労働人口問題の解決と新たな市場を創出すべく、公募事業や制度・政策面でバックアップをすすめている。自治体や外郭団体は、政策予算から補助金や支援事業を展開。民間企業もこれに呼応する形で、介護ロボットやIoTを利用した衣料・介護サービスを提案している。

 ICTを活用した医療・介護の現場、ビジネスはどうなっているのか。中小企業が考えるべき戦略ポイントはどこにあるのか。この分野で研究を続けている多摩大学大学院 医療・介護ソリューション研究所 所長 真野俊樹教授によると、諸問題への対策は大きく分けて2つあるという。

 そのひとつは移民政策を含む海外からの労働力を受け入れること。もうひとつは科学技術を利用した機械化・自動化を進めて、年齢を問わずひとりあたりの生産性を向上させる方法だ。日本では移民政策のハードルが高いので、必然的にロボットやIoTといった技術革新が戦略の基本となる。

「介護にICTを活用するアプローチとしては、まず情報システムによるソリューションが考えられます。患者・被介護者ごとの情報、ケアのレベル、履歴、さらに介護保険、医療保険の点数管理など、ITの応用範囲は広い部分です。また、医師や看護師との情報共有、連携のためのシステムが必要とされています。サービスとしては、センサー、カメラ、ウェアラブルデバイスなどと連携した、見守り、モニタリングがあります」

●介護者を支援するロボットと、介護を直接行うロボット

 一方で情報システム以外のアプローチとして、ロボットやIoTの応用分野もあるという。

「介護ロボットは、日本の得意分野でもあるので、近年注目度が上がっています。パワードスーツのように介護者の作業を直接サポートするロボットや機器。介護そのものを実施するロボットの2つのアプローチで開発や製品化が進んでいます。そして最近ではセラピーロボットも注目されています。認知症対策、介護者の負担軽減、見守り機能など組み合わせることもできるのが特徴です」


 現状では、介護者をサポートする機器・ロボットの市場が広がりつつあるが、プレーヤーはまだ限られている。介護ロボットは人工知能技術の発展とともに実用化が進んでいるが、技術面や信頼性、法的な問題から普及はもう少し後になるだろう。アシストスーツやセラピーロボットなどが浸透してくれば、受け入れ側の違和感や不信感はなくなってくるが、それには時間が必要だ。

 とはいえ、これから労働人口は減る一方なので、介護者はロボットの利用を含めた作業の自動化、効率化は避けて通れない。しかも、10年、20年単位で考えても、いまのところ日本の人口が増加に転じる要因は見当たらない。

「2025年には、いわゆる団塊ジュニアの世代が後期高齢者に達します。認知症の対策、介護の問題はますます広がってくるでしょう。医療・介護に関する市場はまだこれから大きくなります」

■まずはバックヤードのICT化が進む

 日本におけるロボットを含むICT介護はまだ過渡期の状態であり、市場が定着、安定するにはまだ時間がかかると考えるべきである。また、ロボットや機器が介護保険、医療保険の提供対象として認可されるかも重要なポイントだ。保険適用が認められれば、病院や施設は導入しやすい。しかし、専門家にアドバイスを乞う場合、その人選が難しいと真野教授はいう。

「欧米には、医療機器、介護製品などに特化したコンサルタントがいますが、国内にはそもそもそういう専門家が多くありません。介護ビジネス、許認可に詳しいその分野の識者や研究者をあたることになるでしょう」

 ITや自動化というとコストダウン効果を考えがちだ。しかし、医療・介護分野では、それ以上に中長期的な問題として、絶対的な労働力不足をどう克服するかが問われている。ビジネスもそれに合わせて、中長期で労働力サポートや作業支援など、単位労働力あたりの作業効率を維持、またはアップさせる視点が必要だ。

 その上で、介護事業者はまず情報システムのIT化を進めていくことになるだろう。総務や事務などのバックヤードの効率化は、書類作成の簡略化、作業スケジュールの効率化など、介助者の負荷軽減にも繋がっていく。業務やビジネスに関係が深い部分でのIT化は、既存のICTとの親和性も高い。導入のハードルは高くなく、今すぐにでも導入を検討すべきだ。その効果を経験することで、ロボットやIoTの運用をどう進めていくか? より身近な視点で検討できるだろう。

【ICTが変える高齢化社会:1】広がる医療・介護の市場

《中尾真二》

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