【視点】広がる農泊、ビジネスの可能性は? | RBB TODAY

【視点】広がる農泊、ビジネスの可能性は?

ビジネス 経営
日本の田舎の家庭料理作りを体験するインバウンド客
日本の田舎の家庭料理作りを体験するインバウンド客 全 4 枚
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【記事のポイント】
▼すでに客とホストをつなぐ手数料ビジネスが成立
▼国内客中心だがインバウンドからの関心も
▼外資が進出していない「オールジャパン」分野


■国も後押しする農泊

 「船さのりだがったら、うちんこい!」。白髪の男女が両手にピースサインをして笑顔を浮かべる写真が印象的だ。

 NHKの朝の連続テレビ小説「あまちゃん」で有名になった岩手県久慈市。その久慈の漁師が開く1泊2食で7500円の宿が、とまれる株式会社が運営する農林漁業体験民宿の紹介サイト「とまりーな」で常に上位に入る人気の宿だという。

 農林漁業体験民宿とは、いわゆる「農泊」(農家民泊)だ。都市部の住人が体験活動を通じて、農山漁村の人・もの・情報と深く触れ合えるとして、「グリーン・ツーリズム」とも呼ばれる。94年の「農山漁村余暇法」の制定以降、国はグリーンツーリズムを推進し、年々、様々な規制が緩和されてきた。

 注目度でみると、ここ1年の「都市型民泊」には遠く及ばないが、現状はどうなっているのか。

■民泊人気に押されて農泊にも脚光?

 14年4月から農泊紹介サイト「とまりーな」を本格的にオープンさせた、とまれる株式会社 代表取締役 三口聡之介氏は「客足は伸びている」と話す。

 当初は、都市型民泊を始めようとしていた同社。法制度とのタイミングが合わず、まず農泊から始めた。東日本大震災後の東北復興の補助金なども活用し、東北エリアのホストを集めてサービスを開始した。

 それから2年。具体的な数字の公表は避けたが、同社広報によると、取り扱い高ベースで、15年度決算は前年比7割増しの成長。この2~3ヶ月だけで前年実績に匹敵する取り扱い高があるため、今期は「4倍の成長を見込んでいる」と話す。

 そもそもどういう収益スタイルなのか。同社によると、手数料ビジネスだという。掲載は無料だが、宿泊の契約に至った場合、ホストとゲストからそれぞれ10%の手数料を得る。

 一方で利用者については、現在のところ9割以上が国内客だという。客層は大きく分けて、大学生などの若者、未就学児を連れた30代夫婦、40代の団体客の3パターンが多い。インバウンド客のみの申し込みはまだ無いが、問い合わせは来るようになり、「変化を感じる」という。すでにサイトは英語対応していて、今後は中国語や台湾語などの多言語対応も始める予定だ。

 では、国内外の客を受け入れるホスト側の登録状況はどうか。現在、「とまりーな」で扱う宿泊施設は、約700軒。地域は現時点では東北や中部、沖縄・九州エリアが中心だ。登録されている宿は、すべてが農村漁村民泊というわけではなく、いわゆるペンションや古民家民宿もある。

 サイトでは、農業、漁業、古民家、工芸、芸能、料理、自然、歴史、スポーツ、その他など、体験カテゴリが分かれている。一つの物件で複数の体験をできる場合もあるが、農業漁業の体験に絞ると、約150件ほどカウントされていて、農業体験がもっとも多いという。


■細かな評価と応対でホストとゲストつなぐ

 客足が伸びた理由は何か。同社広報担当者は「口コミでの信頼性ではないか」
と話す。確かにサイトを見ると、随所にホストと客をつなぐ仕掛けが見られる。

 基本的にホストが書いているというブログのような紹介文には、布団やトイレ・風呂の数といった施設の情報だけでなく、宿で四季折々、どのような体験ができるのか。さらには、起床や消灯の希望時間まで、細かな宿での過ごし方が確認でき、ホストの人柄もにじみ出る。

 その内容を裏付けるように、各ホストのページの下には利用客のレビューが載せられる。食材の新鮮さに驚いた。あいにくの雨天で予定していた作業はできなかったけど、これができて良かった。飼われているペットが可愛かった……。そうした書き込みは否応なしに、宿の魅力を高める。

 近年の紹介ビジネスでは決して珍しいことではないが、宿に対する利用客の評価は細かく採点されている。掲載内容の正確性、コストパフォーマンス、ロケーションなど5項目が5段階で評価され、平均値が出される。問い合わせやコメントに対するホスト側の返答率、返答時間平均も表示される徹底ぶりだ。

■地方移住との連携でビジネスチャンス生まれるか

 こうした農泊の紹介ビジネス。収益としては「まだ赤字」だが、今後の可能性について三口代表はこう話す。

「設立当初、黒字まで5年かかると思っていたが、この1年の民泊の注目度の高まりを受け、前倒しできる手応えを感じている。中でも農泊は都市民泊と違い、エアビーアンドビーなどの外資が進出していない分野。しかも、地方創生や地方移住といった国の施策とも合致している」

 実際に、同社や同社の親会社である百戦練磨は、観光庁や地方自治体、JALなどとの連携の動きを強めている。地方移住の足掛かりに希望地域に農泊をしたり、移住先での収入源の一つとして自ら民泊を始めたりして農泊を活用する人も出始めているという。そこにビジネスチャンスは確かにある、というわけだ。

 なお、農泊に限っていうと、客とホストには相性のようなものが見られるという。実際に自身もいくつかの宿に泊まった経験を持つ三口代表は言う。

「理系学生と農泊のホストの相性は良いと思います。わりと無口な理系男子に対して、話好きな田舎のホストの方がいろいろ話しかけることで、交流を深めていく。田舎の祖父母宅に来たような感覚を得て、リピーターになる方もいます」

 イベント民泊など多様化する民泊の現状や、今後のインバウンド客の増加を視野に、今月15日から自社の民泊紹介サイト「STAY JAPAN」との統合を段階的に始めた同社。関連した同様の動きは業界内でほかにも起こるとみられ、ビジネスとしての農泊が今後ブレークスルーを起こすか、注目される。

~田舎にもっと外貨を!:1~広がる農泊、ビジネスの可能性は?

《塩月由香/HANJO HANJO編集部》

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