訪日客、次のゴールデンルートを探せ! | RBB TODAY

訪日客、次のゴールデンルートを探せ!

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高速バスマーケティング研究所代表 成定竜一氏。バス業界に関する取材や講演多数。最近ではFIT対策についての発言も多い
高速バスマーケティング研究所代表 成定竜一氏。バス業界に関する取材や講演多数。最近ではFIT対策についての発言も多い 全 4 枚
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 訪日客が団体客から個人客へと移行する中で、訪問先も東京から富士山をへて大阪・京都に向かうゴールデンルートから、全国津々浦々へと変化している。“以前よりも外国人観光客を見かけるようになった”と感じる地方在住者も増えているのではないか。

 では今後、どういった地域に訪日客が集まる可能性があるのか。全国の高速バス事業やインバウンド事情に詳しい高速バスマーケティング研究所代表の成定竜一さんに、これまでの振り返りと今後の予想を伺った。

■白馬にニセコ、九州、広島、そしてサムライロード

――成定さんから見て日本のインバウンドは、いまどのような状況にあると見ていますか。

成定 いま二つの流れがあると思います。団体包括旅行から個人自由旅行へという形態の変化と、ゴールデンルートから津々浦々へという地理的な変化。その両方がほぼ同時に起こっていると感じています。

 我々日本人の海外旅行も、かつて「ノ―キョ―(農協)ツアー」とも揶揄されたロンドン・パリ・ローマ8日間の旅といった団体旅行の時代から、地球の歩き方とH.I.S.の格安航空券のおかげで、個人化していきましたよね。ましてや今はLCCが飛び始め、インターネットで情報収集できる時代です。訪日客のFIT(Foreign Independent Tour:海外個人旅行)化の動きは、我々がかつて海外で経験したときよりも、一段と早い動き方をしている印象を持っています。

 またFIT化には、たとえば我々が“パリのアパルトマンで1週間住んでみたらかっこいい”と思うように、日本の素の生活を見にくるという側面があるので、観光立国の恩恵やすそ野が全国津々浦々に広がっていくだろうと総じて予測しています。

――個人の訪日客受け入れにおいて先行してきた地域と、その特徴を教えてください。

成定 まず滞在型のFIT受け入れ地として、スキーリゾートの北海道ニセコや長野県白馬が挙げられますね。

 訪日観光客には一か所のリゾート地で長く楽しみたい滞在型と、いろいろな観光地を見て回りたい周遊型の二種類があります。空港からホテルに直行できる滞在型のほうがハードルは低く、そのため、個人旅行化の流れは滞在型で先に進みました。

 我々もヨーロッパに行って個人であちこち周遊しようとするとハードルが高いですが、ハワイに行って、空港からホテルに直行してリゾート施設で7日間なら、けっこう簡単ですよね。そういった感覚でオーストラリア人は特に白馬を気に入りました。ただ、日本の宿泊施設が伝統的に行ってきた一泊二食型のお仕着せのサービスに彼らが満足しなかったため、転じて、周辺の市町村の飲食店にバスで送迎するという、新たなサービスも生まれました。

 続いて、個人旅行化の流れは周遊型にも押し寄せました。周遊型を希望する個人客がまず押し寄せたのは九州です。地理的に韓国や台湾から近いというのもありますし、点在する温泉地のほか、高千穂峡、ハウステンボスといった良いコンテンツが凝縮されています。さらに、九州各県や山口県下関市周辺の高速バス・一般路線バスのほぼ全線と一部の船舶が乗り放題になる、フリーパスチケットの「SUNQ(サンキュー)パス」がある点も大きかった。チケット販売数は年間約5万枚を突破しましたが、その要因はFIT訪日客の利用であると考えています。

 ほかにも広島原爆ドームと宮島の二つの世界遺産を持つ広島も、単独で集客力がありますね。予想以上にヒットしたなと驚かされたのは中部国際空港から飛騨・高山・白川郷、金沢へと抜けていく「昇龍道」。中華圏の人向けの呼称ですが欧州人には「サムライルート」と呼ばれています。中部運輸局が主導していて、ちょうど龍が昇っているように見える街道を高速バスを乗り継いで旅する形なのですが、高山、白川郷、金沢というのはどちらも古い日本の街並みが残っているのと、割引切符が販売されていることもあり、年々、個人の訪日客が集まっていると聞いています。


■次に来るドル箱コースはここだ

――今後インバウンドが増えるであろうエリアとして、成定さんが注目している場所はどこですか?

成定 そうですね。いま私が注目しているのは、7月から京王電鉄グループが中部・北陸地方の各社と連携して、新宿からの乗り継ぎチケットの販売を開始した「三つ星日本アルプスライン」です。このルートは昇龍道の効果ですでにインフラを含めた受け入れ態勢が整っていることもあり、短期間のうちに稼ぐ路線になるのではとみています。

――「三つ星日本アルプスライン」について具体的に教えてください。

成定 大きな特徴としては、中部空港発の昇龍道に対して、新宿から出発するという点と、訪日客に人気の松本城に立ち寄れるという点です。高速バスを乗り継ぐ三つ星アルプスラインは、ミシュランで三つ星の評価を得た松本城のほか、平湯温泉、高山、白川郷を経て、金沢か富山へと抜けるコースになっています。乗り継ぎ運賃が最大3割値引きされることもあり、そう時間をかけずにお金を生む路線になるのではと見ています。

 京王電鉄グループが、チケットの発売に合せて京王モール内に中部・北陸地域の観光名所の情報を集めた専用窓口を作るほど力を入れている点も、そのように見る理由の一つです。

――なるほど。中長期ではいかがですか?

成定 東北ですね。訪日客のFIT化の流れと東日本大震災の時期が重なったことから、ほか地域に比べてまだそこまで多くの個人の訪日客が東北を訪れていません。ただ、この春から仙台空港が民営化され、東急電鉄グループに運営が委託されたことが転機になるのではと見ています。

 仙台空港にはこれまで羽田線も国際便もありませんでしたが、民営化によって「将来は国際便の定期便を」という声もあります。仙台空港がゲートウェイとしての機能を果たし、そこから東北6県を周遊するというコースを作れれば、東北がFITの受け皿になることは十分考えられます。

 地域そのものを見ても、訪日客向け観光地としてのポテンシャルが十分にあります。世界遺産の平泉に山寺、ねぷたなどの夏祭り、福島県会津地方の大内宿など、海外受けしそうなコンテンツが東北にはまだまだたくさんあるのです。

 中でも、山形県鶴岡市を中心とした庄内地域一帯に注目しています。藤沢修平のふるさとで、丸ごと一つの谷をロケ地にしているところもあります。写真文化やブログ文化が根付くタイ人は好むでしょう。ただ、公共交通機関では行けないような場所なので、現在は、ロケに参加するタレントの日本人のファンが見に行く程度のようです。個人の訪日客には、まだハードルが高いかもしれません。

 仙台空港や鉄道、バスといった公共交通機関の連携によって、こうした地域をつなぐ周遊ルートはいくつも生まれる可能性があり、生まれれば集客力があると見ています。国も現在、各地の運輸局を中心に、広域周遊ルートの創出支援を模索しているようですが、いうなれば、欧州のロマンティック街道やカナダのメイプルルートのような周遊ルートをいかに創出できるかで、個人の訪日客の数も変わってくるのではと感じます。


■地方のバス会社と鉄道会社、運送会社がいかに連携できるか

――全国津々浦々にインバウンドの恩恵を行き届かせるために、周遊型の個人の訪日客を増やす必要があると思いますが、今後の課題はなんでしょうか。

成定 やはり公共交通機関の連携ですね。右ハンドルの特殊性もあり、個人の訪日客が全国津々浦々を旅しようと思った時、頼りにするのはレンタカーよりは公共交通機関です。連携も、ただ単に国が音頭をとって主導しても、実際にオペレーションをどうするのか、チケットの管理や処理はどうするか、細かなルール作りが必要になります。

 さらに観光産業に携わる受け入れ側の意識も大切です。一つは当事者意識の問題であり、もう一つは異業種間や隣接する観光地間で垣根を超えられるかという問題です。これは、簡単ではありません。でも、それが必要であることは、すでに結果を出している周遊ルートが物語っています。

――ご自身も出張の移動で高速バスを使われることが多いそうですね。利用者の視点から見て、こうしたインバウンド向けサービスがあればいいのに、と思うことはありますか。

成定 一つは、今まで以上の手荷物託送サービスの実現です。国も「手ぶら観光の実現」を目標に掲げて支援を始めていますが、公共交通を乗り継いで個人の訪日客が周遊旅行するとき、最大のストレスは手荷物です。現在でもたとえば舞浜駅で荷物を預かったらディズニー周辺のホテルに夕方までに荷物を託送してくれるといった、局地的なサービスは始まっています。ですが、周遊型においては、チェックアウトする宿で荷物を預ければ、チェックインする次のホテルに荷物を届けてくれる、それもその日のうちに届けてくれるようなサービスは始まっていません。だからこそ、先行地域の周遊ルートをモデルコースとして決め、まずその間だけでも試験的に実施することが重要ではと考えています。

――その他にも何か必要と思われる対応があれば教えてください。

成定 二地点間移動に特化した高速バスと、お仕着せのパッケージ型のバスツアーの中間の商品があればいいと思います。外国人は周遊するので、移動はしつつも、要所要所で立ち寄りながらの観光を希望します。駅前で降ろして終わりではなく、途中で観光地に立ち寄りつつ、ホテルへも送ってくれるような、どこで降りても良い自由度がある移動的要素と観光的要素を併せ持った片道型のバスツアーです。バス業界と旅行業界の間の商品なので、縄張り意識を打破するのは簡単ではないと思います。

 ただ、インバウンドだけでなく、国内客も団体旅行から個人旅行に切り替わっていることを踏まえると、大きな潜在ニーズがあると見ています。こうした変化に対応していかなければ、国内の観光産業に未来はないとも思っています。これらを踏まえて先進地域がこれまでのベストプラクティスを共有する場が、いま必要だと感じています。

<Profile>
成定竜一(なりさだりゅういち)さん
高級都市ホテルチェーンを退社後、06年に楽天バスサービス株式会社に入社。楽天トラベル「高速バス予約」サービスの事業責任者を経て、同社取締役に就任する。11年に退職すると、高速バスマーケティング研究所を設立。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員(10年度)、「国内観光の振興・国際観光の拡大に向けた高速バス・LCC等の利用促進協議会」(15年度~)などを歴任する。

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《塩月由香/HANJO HANJO編集部》

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