【コラム】米国でくら寿司が快進撃を続ける理由 | RBB TODAY

【コラム】米国でくら寿司が快進撃を続ける理由

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立入勝義(起業支援コンサルタント)
立入勝義(起業支援コンサルタント) 全 5 枚
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 リオ五輪での日本の躍進ぶりはめざましかった。選手団及び委員会の大健闘を讃えたい。長寿・健康、真面目・勤勉、信頼・清潔、ユニークなサブカル、それにスポーツまで加わると日本文化に対するブランドイメージが向上する。自国の文化に対するイメージとプレゼンスの向上はビジネスにも影響を与えないわけがないので朗報である。

 さて先日、家族で4年ぶりに帰省した。地元大阪に帰って、私の父(子どもたちの祖父)と一緒に行ったのが回転ずしの「くら寿司」。子どもたちからのリクエストである。親も子どもたちの注文を訊いたり考えたりする手間がなく非常に便利である。

 ちなみに回転寿司の発祥は遡ること1958年(昭和33年)、東大阪市布施駅近くの「廻る元禄寿司」が日本第一号。ここが実家からすぐだったので子供の頃から通っていた。こじんまりした営業をしていたのが一気に全国区になったのは1970年の万博での出展だったというのはあまりに有名な話。その後、ブームを広げるために元禄寿司は「回転寿司」に関するいくつかの商標を開放。どこでも使えるようになったのがブームの火付け役となり今のブームにいたる。

 その時父親にはあえて言わなかったのだが、実は米国でも近年同じ体験ができるようになった。筆者が住んでいるトーランス市(トヨタの米国本拠地がある)には、家から歩5分のところに「KULA SUSHI(くら寿司)」が、車で3分のところに「GATTEN SUSHI」が同じような時期を前後してオープンした。奇しくもまた近所に回転寿司のご縁ができたわけだ。と言っても、実は回転寿司自体はもう10年も前から存在している。米国に進出した当初は物珍しさで人が集まったのだが、正直マスに受けたとは言い難い状況だった。

 そんな中再燃した回転寿司ブーム。いま市場で最も成功しているといえるのはKULA SUSHIだ。南北カリフォルニア州の9店舗に加え、今年テキサス州で、ダラス市内と近郊のプレイノ(Plano)の二店舗をオープンしたのが当地では大きな話題になったようだ。

 我が家でも子供の誕生日などでリクエストされて行くことも多いし、物珍しさに友人や客を連れて行くこともよくある。ところがいつ行っても満員御礼で外には1時間の行列ができているという次第。レビューを見ているとテキサスの新店舗ではすでに2時間待ちだというから、大人気テーマパーク並である。そこまでしても食べたいという米国人が多いのに驚きを隠せない。

 くら寿司の成功の秘訣を私なりに分析してみると、日本で流行った理由と大差はないように思えるのだが、ブームを再燃させた要素は間違いなくあると思う。

最大のポイントは

1)価格の訴求力である。(こちらのKULA SUSHIは現在一皿2.25ドル均一(一部商品除く)となっている)「安い」うえに「均一価格」というのが非常にわかりやすく伝わっているのだ。これは同じく快進撃を続けている「DAISO JAPAN」にもよく現れていて、こちらはもう56店舗に出店を増やしている。GATTENでは皿毎に値段が違い、高いものは一皿5ドルを超える。正直親の身であれば、子供がどの皿を掴むかでヒヤヒヤしてしまうが止めるわけにもいかない。

2)くらオリジナルの趣向である。これには注文用タブレットを全席に導入したことや「ビッくらポン」と連動した消費皿の自動計算システムなどが該当する。タブレットで細かく注文前の画像を見ることができるのも、魚にあまり詳しくない客に親切だ。また一部の店舗では店頭にチェックイン用のタブレットが配置してあり、待ち状況がわかるほかSMS通知とも連動しているという徹底ぶり。これは飲食店全体でもかなり新しい試みであり飲食店が多く立ち並ぶ競争の激しい地域で重宝される機能だ。

3)「店舗内での待ち時間」がほとんどないこと、というのも大きなポイントのようだ。タブレットを通じて注文し握りたての寿司がすぐ目の前に運ばれるという発想も斬新である。これはITの進んだ米国でもかなり目新しく映るし、動作が素晴らしく安定している。コンベア上の寿司の鮮度への疑問も解消される。

4)無添加(NO MSG)に対しても評価が高い。米国人でも健康志向は中流層以上にはかなり普及してきている。またベジタリアンやオーガニックなどの多様性に対応する試みも老若男女の別や世界有数の多様な人種を抱える米国でマスを掴むには大事な配慮である。

5)ローカライズも大事な要素だ。メニューを綺麗な英語に訳すという簡単に見えて難解な作業を正しくするよりも、ビジュアルに訴えるKULAの手法は正解である。原則言葉で説明するより画像で、というのはUIの基本トレンド。味付けも江戸前にこだわりきらず現地の人間が欲しいものを提供していくことでさらに人気を得るだろう(メニューは現時点で英語日本語中国語に対応しているが、スペイン語対応も望まれる)。同じく成功している飲食チェーンのBENIHANAやGYUKAKUもこのスタイルで成功している。頑なに日本の味そのままをこちらにもってこようとは思わないほうがよい。オマケがあたる「ビッくらポン」の仕組みは公平性や射幸性への配慮からか日本ではランダムだが米国では15皿食べると必ず当たる仕組みへと変更されている。

 これらにより、子連れにも大人気であり、子供にも浸透しているのだから将来的にもより馴染んでいくだろう。老若男女を問わず極めて高い顧客満足度が得られているという理由はこの辺にありそうだ。もちろんマーケティングにも趣向を凝らしていると思うのだが、最大の宣伝効果は口コミであり、リピーターの存在。席もカウンターとテーブルのバランスがよく、配置に無駄がない。実際中に入ってみると客の回転率は思いの外悪くないので、待っている人の数が多くても確実に捌けていく。だから客側も待てるというわけだ。

 しかし、この成功はどうしたら再現できるだろうか。他の中小企業にも参考になるような、普遍的な法則に繋がるように少し掘り下げて考えてみたい。

キーワードは「ブランディング」と「差別化」である。

 ここでの「ブランディング」とは、もともとあった日本食ブームと日本に対するイメージをうまく活用したということだ。20年も前に先立つSUSHIブームがなければさすがにKULAの成功はなかった。肥満や糖尿病などの生活習慣病に子供ですら悩んでいる米国の食文化に危機感をもったセレブたちの間で、健康・栄養面などで注目を集めた日本食を代表とする「SUSHI」がまたたく間に世間に浸透してからというもの、数多くの日本食が英語名として北米でも馴染みのあるものに変わっていった。それまでGEISHA、KIMONO、NINJAくらしか知られていなかったのが、今ではWASABI、SASHIMI、EDAMAME、TOFU、RAMEN、MISO、SAKE、MATCHA、WAGYU、TEPPANYAKI、最近ではKOMBUCHAが大人気(といっても実態は紅茶キノコであるが)だし、UMAMI (旨味)バーガーなんて人気店まで出てきて枚挙にいとまがない。英語化されるということはそれだけ受け入れられているということで、これはアジアの中でも日本食だけに起きている現象である。例えば韓国語ではKimchi や Bulgogi(焼肉)くらい、長い食の歴史を誇る中国ですらDim Sum(点心)と有名なお茶の名前くらいだ。

 多くの高級飲食店で日本語を散りばめたメニューがステータスと感じられるくらい、日本食に対する信頼度とそのブランドイメージは高い。KULAはここにうまく訴求し、本質的な日本食に対する需要を掘り起こしたといえる。日本のモノづくりに対する信頼、精度や清潔感に対するイメージというものをうまく活用したというのも同じことである。ロス近郊にたくさんある回転寿司のほとんどは日本人以外の経営者によるもので、レビューサイトなどを見る限りでは見る目がこえてきた米国人はその差をきっちり理解している。日本に対する好意的なイメージが一般人の脳裏にある限り、積極的に活用できるビジネスモデル、サービスや製品はまだ成功しやすい(逆もまた然りで、日本のプレゼンスが下がることで日本発のビジネス全てに影響がでるのは言うまでもない)。

 「差別化」という部分では、間違いなくIT(IoT)活用がそれである。ロボットや自動化は近頃広く受け入れられているのでベルトコンベアももはや奇異ではない。そもそも日本の自動販売機に代表される「簡易ロボット」的な文化は安定性が高いだけでなく、機能美と様式美を兼ね備えたもので素晴らしい。 帰省した際にも、子どもたちに大受けしていたのが「自動販売機」と「UFOキャッチャー(クレーンマシーン)」だった。これらはこちらにも一応あるのだが、圧倒的に日本のものが全てにおいて優っている。この機械化は米国人が大好きな「合理性」に見合ったものであり、彼らにはさぞや斬新に映っているであろう。しかし、これまで市場にあった回転寿司はもう陳腐化してしまっていた。そこに新風を吹き込んだのは高く評価される。筆者が知る限り他にKULAのようなシステムを導入している店はない。普通にコンベア上の皿を取り、別注は店員を通じて発注し、会計時には店員がきて皿を一枚ずつ数えていく。いくら食べたのか周りにも丸見えというのを気にする向きもあるに違いない。

 そこに子どもたちが普段慣れ親しんでいるスマホやタブレットのUI/UX文化をうまく取り入れたKULAは、IT先進国の米国においても極めてトレンディなものに映っているという事実。もちろん開発側のユーザーエクスペリエンスを支えているのは300以上の国内店舗で、食にうるさい日本人顧客を通じて得られた実績である。これは米国でも十分に通用するものなのである。これを温故知新と取るのか、武器を尖らせたと見るのか、筆者は両方だと思う。回転寿司はもっと普及してもよかったが、猿真似が続く市場の中で自分たちの価値を陳腐化させ価格競争を招いた結果、顧客回転率は下がりコンベア上の寿司は減り、鮮度も下がっていく一方で客足は遠のかざるを得なかったのである。これを差別化の勝利と言わずしてなんと言おう。

 実はここで学べる成功法則は安全性を中心に人気を誇った往年の日本車ブームを背景に、ハイブリッド車のトヨタ「プリウス」が大人気を博したというのと同じ原理であることに気づく。

 挙げられている理由は日本と同じじゃないか、と指摘したくなる方も多いだろう。しかしアウェイの地である米国で日本メーカーが成功する要素は似て非なる場合もあるし、タイミングや(国やメーカーの)イメージが作用することも多く10倍以上難しいことだと理解する必要がある。これと対照的にほとんど同じ状況なのに、まったく市場に刺さらないもののほうが大半なのは、こちらに住んでいれば日常的に目にすることである。成功したのには理由があり、そこには再現性があるはずだ。

 日本企業のプレゼンスが低迷している昨今、KULAの活躍が金メダル級のものになることを期待しているし、すでに米国の自動車市場で「金メダル」を獲得しているトヨタについていく機動力も経営戦略として高く評価できる。実はビジネスも個別に競うことはありつつも、実質は国別の団体戦なのだから。


●立入勝義(たちいりかつよし)
世界銀行元ソーシャルメディア広報担当官。元ウォルトディズニーリゾートデジタルプロデューサー。北米で、ライセンシング交渉、M&A、法務交渉(対米国起業)、ローカライゼーションなど起業支援コンサルティングを行う。日本語での著作は4冊、米キンドルストアでは100冊以上を出版。

米国でくら寿司が快進撃を続ける理由

《立入勝義》

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