農家の今を変えるのはテクノロジー? ドローンやIoTの農業活用例とは | RBB TODAY

農家の今を変えるのはテクノロジー? ドローンやIoTの農業活用例とは

IT・デジタル その他
TEADの「Mulsan DAX04」。タンク容量は10リットルと、認定を受けているドローンでは最も大きい。1フライト10分~15分で、約1ヘクタールへの散布が可能
TEADの「Mulsan DAX04」。タンク容量は10リットルと、認定を受けているドローンでは最も大きい。1フライト10分~15分で、約1ヘクタールへの散布が可能 全 5 枚
拡大写真
【記事のポイント】
▼ドローンによる農薬散布のコスト破壊は個人ユースから、サービスの低価格化はもう数年先
▼贈答品から海外輸出まで、鮮度維持のパッケージが差別化を生む
▼鮮度維持のパッケージは、流通時の歩留まりも改善させる


 優れた肥料。電気分解やマイクロバブルで成長力を高める農業用水。さらには、太陽電池、鳥獣駆除、植物工場など……。日進月歩する農業の最先端を垣間見れる、日本最大の農業展「農業ワールド2016」が幕張メッセで開催中だ。

 安倍政権が“攻めの農業”を掲げているように、これからの農家や農業法人には成長戦略が求められている。では、具体的にどの技術に注目し、何から取り組むべきか。その一端を会場の展示に追った。

■ドローンによる農薬散布開始、気になるコストは?

 今回会場を回った中で、最も目についたのはIoTの取り組みだ。センサー端末を田畑に設置し、温度や日照量、土壌水分量などを長期にわたってモニタリングする。外的環境をデータ化すれば、生産計画や技術の継承に役立てられるだろう。この分野では「e-kakashi」が先駆者として知られているが、今年はライバル企業がさらに増えた印象がある。初期コスト無料で導入できるなど価格面での差別化も見られ、かつて導入を見送った農業従事者も、再検討の時期に来ているのかもしれない。

 そんな、IoTと並んで注目度が高かったのがドローンだ。農林水産航空協会の規定に基づく講習がはじまり、いよいよ産業用無人ヘリコプターに代わる農薬散布の体制が整った。ドローンの販売からメンテナンスまでを手掛けるTEADのブースでは、協会の型式認定を取得した「Mulsan DAX04」を出展。同社の営業企画部 岡田善樹氏によると、今シーズンで100台以上を売り上げたという。

「無人ヘリに比べると機体価格は1/5程度。ホバリングするため操作性がよく、近くに山林が迫る山間地でも飛ばせますので、ニーズはかなり高いです。北海道や東北で広大な圃場を持つ農家では、個人ユースも増えています」

 販売実績では農業従事者、農薬散布サービスを提供する事業者の割合はおおよそ半々だという。では、無人ヘリとドローンを提供する農薬散布サービス事業者では、後者の方がサービス価格は下がるのだろうか?

「ドローンでの農薬散布についてはサービスが始まったばかりなので、明確な相場がない状態です。ただ、オペレーターコストが変わらないので、若干安くなる程度ではないでしょうか」

 なお、現在は運用基準上、2人1組でのマニュアル操作が規定されているが、将来的には自動運転に切り替わるのは間違いないという。それも、そう遠い話ではなく、数年先の話だとのこと。実現すればサービス価格のさらなる値下げも期待できそうだ。

■“獲れたての鮮度”を保つ流通包装の最先端

 農業用資材の展示では、定番の一つになっている流通用のパッケージ。これについても、見た目ではわからないような機能性が、新たな技術開発によって追加されているのが面白い。トップ堂の「カビナイバッグ」もその一つだ。以前は業務用商品や一般消費者向けに提供していたものを、今年から青果包装資材として売り出すという。

 これはジップ袋のように内部を密封する包装袋だが、特徴としては特殊なコーティングによって内部でのカビの発生を防ぐことにある。従来のカビ対策では包装に穴をあけることで、通気性を向上させるのが主流だった。しかし、通気性の向上は生鮮食品の水分を蒸発させ、鮮度が失われる原因となっている。


 代表取締役社長の天野陽祥氏によると、実証実験では多くの農家がその効果に驚いたという。イチゴやトマト、ナシなどで、これまで密封すれば確実に生えていたカビが、長距離輸送しても現れなかった。

「カビナイバッグを使う最大のメリットは、農家や果物狩りでしか味わえなかった、もぎたての瑞々しさを消費者に届けられることです。贈答品などの用途では、革新的な差別化につながると思われます」

 パッケージとしてはコストと手間がかかるので、まずは高付加価値商品をターゲットに展開していくとのこと。ただ、カビナイバッグで鮮度を保てば、流通時に多い時で50%程度発生していた廃棄を抑えられるとのことなので、これを加味すれば十分コストに見合うシーンもありそうだ。

 また、高級フルーツでは輸出のニーズが高まっているが、ここに目をつけたのがトーホー工業の「EPS ハイブリッドベリーBOX」だ。15年に「日本パッケージングコンテスト」でジャパンスター賞を受賞した、トレー内でイチゴの一粒一粒を中空でくるむように包む「ゆりかーご」とコラボ。このトレーを発泡スチロールのボックスに、これまた中空に三段に配置することで、輸送中の揺れに起因するダメージを防いでいる。最上段には保冷剤を配置しており、9時間近くは内部温度を10度以下に保つ仕組みだ。

 事業開発本部 本部長で常務執行役員の阿部政男氏によると、イチゴは擦り傷と温度変化で特にダメージを受けやすい果物だという。そのため、イチゴを二重に中空で保つことで、振動を吸収し、包装材との摩擦を防いでいるとのことだ。

「発送直前に保冷剤を入れて梱包すれば、空路で東南アジア圏までなら配送しても、現地の冷蔵コンテナに収まるところまでは低温を保てます。また、耐衝撃という部分では、同じ発想から国内向けに桃や梨のパッケージを開発しましたが、梨を使ってのテストでは大阪=山梨間を三往復しても果実に傷はつきませんでした」

■明日から始める攻めの農業に、技術パートナーは不可欠

 その他、興味深い展示としては、TOMTENが出展していた野菜や果物をCA貯蔵できる個人農家向けコンテナ「JANNY MT」も挙げておきたい。CA貯蔵は庫内の酸素量を減らし、低温を保つ長期保存のための手法だが、主には大規模な倉庫で利用されている。初期・ランニングコストともに一般農家には敷居が高く、かといって農協の手を借りれば、出荷先を制限されることになる。

 しかし、「JANNY MT」ではセンサー情報に従って、通気用の弁を制御すれば、あとは貯蔵用の大規模冷蔵庫にコンテナごと収納するだけでよい。一般の農家でも十分に管理が可能だ。出荷管理を自ら行うことができれば、生産調整に失敗したときでも、生産物の売価をある程度コントロールできる。

 ネット直売や海外輸出など、JA以外にも新たな販路の開拓が進む中、農場には大型ロットに対応できるような大規模化が求められている。また、海外や直売などの販路開拓を進めるためには、生産品の良さを最大限に伝えられる流通手段も必要だろう。その一役を前者にはドローンが、後者には包装資材や貯蔵コンテナが担う。農業従事者だけでなく、業界関係者が同じ方向を向いた先に、“攻めの農業”の未来が見えてきそうだ。

【農業ワールド:1】ドローンやIoT、農家の今を変える技術

《丸田鉄平/HANJO HANJO編集部》

特集

【注目記事】
【注目の記事】[PR]

この記事の写真

/

関連ニュース