【劇場型で魅せる飲食店】ビール愛好家を惹きつけるブルーパブとは?
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▼嗜好性の高いクラフトビールは、コアな愛好家を集める
▼手作り感の演出や体験でファンを獲得
▼クラフトムーブメントの利点の一つはコスト抑制
▼多種多様な品種をそろえることが重要
■ニーズをつかみコスト減にもなる“ビール自社生産”
大量生産による大衆的な売れ筋商品よりも、少量多品種の個性あるモノづくりが注目される時代である。このような時流に乗ってブームを呼んだものの一つが、小規模醸造によるクラフトビールだろう。そこからさらに一歩進んで、近年ジワジワと数を増やしているのがブルーパブ。醸造所を併設したビアバーだ。
東京・新宿を中心に複数の飲食店経営を行うライナ株式会社が、ブルーパブ「Vector Beer Factory」をオープンしたのは、約2年前のこと。すでに、近隣にクラフトビールを扱う飲食店「Vector Beer」を展開しており、これが本格的なビア業態参入へのきっかけとなった。
ライナ代表取締役の小川雅弘氏は、クラフトビール好きが高じてビアパブを開いたという、生粋のクラフトビール愛好家。その愛好家目線があったからこそ、ブルーパブという業態の商機に気づいたといえる。
「仕入れるビールが他店と同じでは面白味がありません。ここでしか飲めないオリジナルのビールがあることが重要なんです。クラフトビールの仕入れ値は高く、長い目で見れば、醸造所を併設した方がコスト的にもメリットがあります」
■手作り感を強調して、愛好家のファンを増やす
Vector Beer Factoryの壁はコンクリート打ちっぱなしで、ガス管をアレンジした照明などが、どこか工場らしい雰囲気を醸している。実はこの照明からイスやテーブルまで、店内におかれたインテリアは、小川氏をはじめとしたスタッフが自作したもの。「プロに頼むよりも個性を演出でき、コストも節約できる」という、同氏のアイディアだ。
そんな、手作り感や工場らしさを演出している店内では、「新宿ビアブルーイング」と名付けた見学会を月に1回開催。原料や製造工程について学んだあとは、ビールのレシピを作成し、作業を手伝うことができる。ホップを選ぶ人、アルコール度数を決める人、フルーツを選ぶ人、ビールに名前を付ける人などの役割分担が決められ、ビール造りの面白さを肌で体験できるという仕組みだ。
「参加した方には、『ビールがこんなに手軽に作れるのか』と感動していただけます」と小川氏は言う。カウンターの奥にある小さな醸造所で、ビールが作られている様子を間近に体験することは、普段お店を利用している客にとってもインパクトがある。店で提供しているビールのひとつ、『アンナJAPAN』は見学会で作られたもの。ただ、味わうだけでは体験できない、クラフトビールの魅力が多くの客を魅了している。
■クラフトビールファンがハマる、ブルーパブの魅力とは?
クラフトビール愛好家ならずとも、作り立てのビールの美味しさは格別だが、その味わいには秘密がある。酵母は東大教授から仕入れた生のもの。その種類によってビールの味は大きく左右されるが、通常は仕込みの際に2~3回使用する酵母を、Vector Beer Factoryでは1回限りと決めているという。活発な酵母を使ったほうが、美味しいビールが作れるというのが、小川氏の哲学だ。
クラフトビールの世界は奥が深い。大手メーカーが作る一般的なビールとは違い、醸造所ごとにさまざまな味わいのビールがある。一度魅力に取りつかれると、さらに違う味を知りたくなり、結果として多種多様なビールが飲める店が客に喜ばれるのだ。
「Vector Beer Factoryでは、樽が空になると新しいビールを入れています。その情報を聞きつけて、その折ごとに店を訪れるお客様もいらっしゃいます」
そんなクラフトビールの愛好家の中では、特にIPA(インディア・ペールエール)の人気が高いという。IPAとはかつてイギリスからインドへ向かう赤道直下の航海において、ビールの品質を保持できるように、ホップの量やアルコール度数を高めたビール。苦味の強さが特徴で、アメリカのクラフトビールでは定番となっている。Vector Beer FactoryのおすすめもIPAで、提供している17種類のビールのうち、10種類がIPA。これを目当てに来店する客も多い。
■一大観光産業としての可能性も秘めるブルーパブ
Vector Beer Factoryのクラフトビールはグラス450円、パイント750円。「都内で一番安いのでは」と驚かれる価格設定の裏には、クラフトビールを世に広めたいという小川氏の強い思いがある。
「アメリカにおけるクラフトビールの市場規模は、ビール業界全体の7~8%ありますが、日本ではわずか1%にも及びません。お客様の嗜好が多様化している今日では、マーケット拡大の可能性を秘めており、その普及に向けた一つの提案ができればと考えています」
例えば、アメリカのポートランドは“クラフトビールの街”として知られており、小さなエリア内にブルワリーが50軒以上ある。クラフトビールを目的とした観光客も多く訪れ、街全体に経済効果をもたらしているようだ。醸造所同士で麦芽の貸し借りをするほど、横の繋がりがあるという。
「新宿もポートランドのような街になれば、クラフトビール業界全体が盛り上がり、市場が活性化していくでしょう。そのためにも、まずは裾野を広げることが大切です」
醸造所を併設したブルーパブには、ビア業態における新たな可能性となるだろう。愛好家のニーズにマッチし、コスト面でもメリットがある。ここ数年、クラフトビールのブームが続いていることにも、マーケットとしての可能性を感じさせる。その上で、やはり醸造所というモノづくりの現場を見せることは、集客において大きな役割を果たしているようだ。Vector Beer Factoryの醸造所見学のような取り組みを見ても、ファンをつかみ、リピーターを増やす上でその存在感は非常に大きい。
~劇場型で魅せる飲食店:3~ビール愛好家を惹きつけるブルーパブとは?
《斉藤裕子/HANJO HANJO編集部》
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