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最小の資金&手間で、作務衣を世界へ

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開設を予定している海外向けサイトのデザイン(ダミー)は、国内サイトのデザインを依頼している会社と共同で作成(近日公開予定)
開設を予定している海外向けサイトのデザイン(ダミー)は、国内サイトのデザインを依頼している会社と共同で作成(近日公開予定) 全 3 枚
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【記事のポイント】
▼国内向けのECサイトを足掛かりに、スモールスタートに挑戦
▼その国で利用頻度の高い支払環境への対応が、購買のハードルを下げる
▼資金調達からPRまで、越境ECに利用できる公的支援は多い


■国内でのEC展開が越境ECの足がかりに

 中国の通貨政策が爆買い市場に影響を与えているという話を聞くが、高品質な家電製品や日本カルチャーに根差した商品の人気が衰えたわけではない。このようなニーズに対して、国境を越えてネット上でビジネスを行う、いわゆる越境ECが新しい販路、チャネルとして中小企業から注目を集めている。しかし、いざ始めるとなるとどこから始めていいのか、どんな方法があるのか、自治体など行政の支援はあるのかなど、気になる点は多いだろう。

 越境ECを始めるにあたって参考になりそうなのが、作務衣や甚平など和装衣料の製造・販売を手掛ける群馬県桐生市の「伊田繊維」だ。海外のECサイトを利用して、北米、シンガポール、ヨーロッパへと販路を広げようと、現在その準備を行っている同社に、越境ECの戦略について話を伺った。

 店舗運営責任者の伊田将晴氏によると、伊田繊維では5年ほど前から、楽天市場など国内にあるECサイトに出店していた。この際に、海外からの注文を受けられるように設定はしたものの、「当初は海外通販、越境ECについて特別に意識することはなかった」という。

 しかし、いざ出店してみると、次第に海外からの注文が入ってくる。国内の店舗でも、外国人旅行者が同社の作務衣をお土産に買っていくという話も耳にするようになった。やがて、海外のバイヤーなどからも問い合わせが入り、パリには伊田繊維の商品を取り扱うショップも現れた。

 伊田氏の中には漠然とではあるが、着物とは違う甚平や作務衣という日本文化を海外に広められたらという想いがあったため、「デマンドがあるなら海外市場は大きいので参入の意義はある」と考えるようになったという。


■ターゲット国の市場調査、重要なのはニーズと決済手段

 国内向けのECサイトの出店に対して、海外から注文が来たのは「作務衣という商材のおかげもあったのでは」と伊田氏は話すが、同時に支払に電子決済のPayPalを利用可能にしていた影響もあるだろう。PayPalは欧米ではeBayとともに普及しており、これに対応しているショップは外国人による購入ハードルを下げることができる。

 伊田繊維が本格的に越境ECを始めるにあって、選んだ海外のECサイトはAmazonとeBay。理由は単純で、グローバルに展開しているサイトのほうが、より多くの顧客にリーチできるという考えからだ。ちなみに、越境ECというと中国市場をイメージする人が多いかもしれないが、伊田氏によれば「作務衣や甚平は中国からの注文はあまりない」という。

 商材に海外でも受け入れられるようなニーズがあることに加え、ターゲットとする市場の支払い環境などを調査することは、越境ECの重要なポイントとなる。その感触を事前に得ておくことは、これから越境ECを始める場合のアドバンテージになるだろう。

 なお、越境ECを展開する準備について、伊田繊維ではすでに国内でのEC展開という下地があったため、それほど大きな手間はなかったという。英語での商品説明などを用意する必要はあるが、これは外部の専門家に発注することで対応した。

 具体的には国内サイトのデザインを依頼している会社に、英語版のサイトやFacebookについてもデザインを依頼した。PRについても、やはり国内ECサイトを運用するにあたって利用している代理店を介して、リスティング広告を海外向けに展開する予定だ。

■国内ECの下地があればスモールスタートの可能性も

 このように既存のリソースを活用できるところから始めるというスモールスタートが、伊田繊維の越境ECにおける戦略となっている。サイトの翻訳や広告といった一定の投資は必要だったが、その資金については商工会議所から得た情報を元に、中小企業基盤整備機構(中小機構)の助成金を活用している。3月にはアメリカとシンガポールで同機構が開催する展示会で、商品展示を行う予定だ。

 この伊田繊維の戦略は、越境ECに関心のある中小企業には大いに参考になるだろう。まずはできるところから準備をはじめ、その中で利用できる公的支援を活用する。海外だからといって新たな取り組みを行い、自らハードルや基準を無意味に上げないこともポイントだ。

~越境ECを地方から:1~最小の資金&手間で、作務衣を世界へ

《中尾真二/HANJO HANJO編集部》

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