筑波大学の産学連携、「世界初」の取り組みに注目! | RBB TODAY

筑波大学の産学連携、「世界初」の取り組みに注目!

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紅茶やウーロン茶などの発酵茶から分離抽出した高分子ポリフェノール(MAF)は、ミトコンドリアを活性化して、脂肪肝を防ぎ、運動との併用で筋持久力を上げ、筋肉量を増加させる。健康やスポーツの分野で大きな効果が期待されている
紅茶やウーロン茶などの発酵茶から分離抽出した高分子ポリフェノール(MAF)は、ミトコンドリアを活性化して、脂肪肝を防ぎ、運動との併用で筋持久力を上げ、筋肉量を増加させる。健康やスポーツの分野で大きな効果が期待されている 全 3 枚
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■ウーロン茶や紅茶から高分子ポリフェノールの抽出に成功

 大学と民間企業が連携して新しいイノベーションを創出する。そんな「産学連携」という動きが、日本の大学・研究機関で盛んに行われている。大学側も実用化、製品化を視野に入れたうえで研究を進めている。

 今回は、そんな産学連携を積極的に進めている筑波大学を訪問し、ウーロン茶や紅茶といった発酵茶に含まれる高分子ポリフェノール(MAF:Mitochondria Activation Factor)にミトコンドリア活性化因子があることを発見し、その精製に成功した沼田治教授(筑波大学大学院 生命環境科学研究科生物科学専攻)に話を聞いた。

「わたしたちはMAFがウーロン茶や紅茶といった発酵茶に含まれていることを世界で初めて発見し、それを抽出・精製することに成功しました。」

 緑茶のような不発酵茶の健康成分は、カテキンなどを中心によく知られていますが、同様にウーロン茶や紅茶といった発酵茶にも健康成分が含まれているという。日本では緑茶の生産・消費が多いが、ひとたび世界に目を向ければ紅茶などの発酵茶の生産量のほうが圧倒的に大きい。発酵茶からの健康成分は、大きな発見なのだ。

■MAFが体重と血糖値上昇の抑制、内臓脂肪量減少に効果

 ではその健康成分の主たる因子であるMAFはどんな働きをしてくれるのだろうか。

「もともとウーロン茶には血圧降下作用、体の酸化を防止する抗酸化作用、肥満抑制作用などが知られていました。さらに呼気中の二酸化炭素量を増加させる働きがあったことから、ミトコンドリアの酸素呼吸を活性化させる働きがあるのではないかと研究を始めたのです」

 ここでカギとなるのが「ミトコンドリア」だ。ミトコンドリアは酸素呼吸をすることによって細胞のエネルギーの基となるATP(アデノシン三リン酸)を生成する。ミトコンドリアが活性化することでATPをたくさん生成し、それが体内の糖や脂肪を消費してくれる。

「ウーロン茶や紅茶に含まれる高分子ポリフェノールが、このミトコンドリアを活性化させてくれるのです。だからミトコンドリア活性化因子=MAFと名付けました。この高分子ポリフェノールは分子量が9000~18000という高分子で構成されるもので、化学構造式的にカテキンと同じ構造を内包することがわかりました。そして、わたしたちはこれを抽出して精製することに成功したのです」

 沼田教授の研究室では、この抽出したMAFを糖尿病モデルマウスに投入。その結果、投与10週間で体重と血糖値上昇の抑制、内臓脂肪量の顕著な減少、血中遊離脂肪酸量の有意な減少、脂肪肝発症の抑制といった効果が見られた。緑茶カテキンの有効成分であるエピガロカテキンレートとも比較しても、より効果的なこともわかったという。

「さらにはトレッドミルでマウスを運動させる実験も行い、骨格筋の遅筋化の促進、筋持久力の向上という結果も得られました。遅筋というのは持続的な運動を担う筋肉で、ここが促進されることで有酸素運動が増え、体内脂肪の消費と持久力が向上する。つまり引き締まった体になるのです」


■トクホ飲料、健康サプリなどの製品化へ

 このMAFの具体的な製品化への取り組みも進められている。沼田教授は、水と80%のエタノールを用いてMAFを抽出する独自の技法を創案し、「紅茶抽出E80分画(E80)」を調製した。この「E80」は、MAFが25%含まれ、カテキン類(7%)なども含まれている。「E80」を配合した緑茶の開発に取り組んでいる。

 「この『E80』配合緑茶を摂取させたマウス実験でも、体重増加の抑制作用、内臓脂肪量の抑制作用が確認できました。非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の予防効果もわかっています」

 とくに注目しているのがこのNASH予防で、2017年には全世界で8.63億ドルにも達すると予想されている。また、サルコペニア予防としても活用が見込まれる。サルコペニアとは加齢による筋力の量、機能が低下する現象のことで、高齢化社会の到来で関心が高まっている問題だ。筋肉の遅筋化が図れるMAFが、天然由来のサルコペニア予防製品として期待できる。

「特定保健用食品(トクホ)としての飲料のほか、機能性表示食品としてサプリメントの開発に取り組んでいます。当然、製品化には民間企業との連携が不可欠になりますので、飲料関連企業、健康食品企業など民間企業にも売り込みをかけており、関心を寄せてもらっています」

 具体的には「2、3年以内に製品化したい」と考えているようだ。

■「大学もこれからは経営的視点が必要」ますます進む筑波大学の産学連携

 筑波大学は、産学連携にとても力を入れており、2014年4月から新たに国際産学連携本部を設置。2015年度の研究費受入額の平均伸び率が大きい機関として全国の大学で2位となるなどの実績を上げている。

 国際産学連携本部審議役を務める内田史彦・同大教授は、「大学もこれからは経営的視点が必要。海外の民間企業とも共同研究を進めており、地域(茨城県)とも連携しています」と話す。かつては「千三つ」(1,000件の研究で実用化されるのは3件くらいの意)と言われた大学の研究だが、「大学も自分で稼ぐ時代になっているのです」(内田教授)と強調する。

 折りしも4月6日に、トヨタ自動車と自動運転、燃料電池などについての共同研究プロジェクトを発表した筑波大学。産学連携は同大の柱となっていくことは間違いない。

《関口賢/HANJO HANJO編集部》

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