サービス産業の「生産性向上」はいかにして達成できるのか?:1 | RBB TODAY

サービス産業の「生産性向上」はいかにして達成できるのか?:1

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100件近くの宿泊業のカイゼンの好事例のうち特に20の事例を選出し、映像事例集及び冊子事例集としてまとめられた
100件近くの宿泊業のカイゼンの好事例のうち特に20の事例を選出し、映像事例集及び冊子事例集としてまとめられた 全 4 枚
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★お客様の価値を生み出す行動に注力するマインドセット、それが生産性を向上させる

「生産性の向上」ーーこのところ様々なメディアやビジネスシーンでよく耳にする言葉である。ビジネスにおいて当たり前と思われている「生産性向上」がいま、日本のすぐに解決すべき課題となっている。「労働力不足の克服には、生産性の向上しかない。中でも、我が国の雇用の7割を担うサービス業は、飛躍的に生産性を高める潜在力を秘めている。今こそ『サービス業の生産性革命』を起こすときだ」(要約)ーー2年前に安倍総理が述べたこのスピーチは極めて説得力のある内容であり、それを具現化するための取り組みが行政を中心に行われている。

 観光庁は「宿泊業の生産性向上推進事業」を実施し、宿泊業経営者のためのワークショップを全国で開催。またモデル旅館ホテルへコンサルティングを行うことで、生産性向上の成功事例を約100件創出した。現在、それらの成功事例を抽出して映像や冊子で公開している。日本経済の喫緊の課題であるサービス産業の「生産性向上」はいかにして実現するのか? その本質とは何なのか? 「宿泊業の生産性向上推進事業」の中心的役割を担った、公益財団法人日本生産性本部 主席経営コンサルタントである、鈴木康雄氏と熊木登氏に、宿泊業に題をとり話を聞く。

■日本の労働生産性は低い~主要7カ国中最下位という事実~

 公益財団法人 日本生産性本部が16年12月19日発表した「労働生産性の国際比較 2016年版」によれば、日本の労働生産性はOECD加盟35カ国の中で20位。統計で遡れる1970年以来、主要先進7カ国の中では最下位の状況が続いている。その一方で、「日米産業別労働生産性水準比較」によれば、製造業はアメリカと比べても日本の生産性は高く、反対に飲食業などサービス業は生産性が低いという。

鈴木 「製造業が長年続けて取り組んできた生産性向上ですが、宿泊業は大企業が少ない為に大規模な資本投下も出来ず、そのチャンスに恵まれませんでした。三次産業が拡大していく中で、サービス業が生産性向上に取り組むことは、雇用問題の解消や経済成長にもつながります」

■「おもてなし」とは、「手間を惜しまず相手に尽くすこと」ではない

「生産性向上」というワードを観光業に当てはめてイメージした時、手間を省いたあたたかみのないサービスを思い浮かべてしまう人も多いのではないだろうか。しかしここで言う「生産性向上」とは「価値を生み出さない活動はやめ、価値を生み出す活動に注力すること」であると、二人は口を揃える。特に今回のワークショップでは、「価値をうまない仕事を削減すること」に注力した。

熊木 「サービス提供先に価値を与える仕事を増加させ、価値をうまない仕事を削減することが、生産性向上につながります。そのためには、価値をうまない仕事をムダと考え、業務のムダを認識し、ムダのない仕事のやり方に変えていくことが重要です」

鈴木 「業務のムリやムダを放置することは、長時間労働や低賃金を招き、結果的に優秀な人材が流出、ますます少ない人数で長時間労働を強いられるという負の連鎖に追い込まれてしまいます。宿泊業経営者の多くは、この負の連鎖に苦しめられています」

 中小企業での生産性向上の取組みが生まれにくいのは、カイゼンを通した成功体験をしていないからだと、鈴木氏は言う。カイゼンの方法を知り、業務のムリ、ムダが無くなり単位時間あたりの価値を増大させるという成功体験を積むことで、優秀な人材の定着率があがる「正の連鎖」へと導くことができるのである。


■「見える化」「標準化」が生産性向上の第一歩

 今回実施された「宿泊業の生産性向上推進事業」では、生産性向上や顧客満足向上のため、各宿泊業経営者が業務について「見える化」や「標準化」に取り組んだ。

熊木 「製造業では、まず製品を作るための仕様書、工程表、作業標準書などを作成してから、これらの標準ドキュメントに従って製品を製造します。製造業では当たり前のように行われている「見える化」や「標準化」ですが、サービス業では導入が遅れており、人によるバラツキが発生しています」

 まず「見える化」では、各宿泊業経営者が、独自の「スキルマップ」を作成するなどの工夫を行い、スタッフの習得スキルを細かく可視化。更に習得レベル把握をすることで、一人三役化やスキルアップに貢献した。業務の「標準化」では現状の詳細な把握から始め、各人によるバラツキのあった業務内容を、誰もが同等のサービスが出来るよう可視化した。

 これは現場のスタッフの協力無くしてはなし得ない作業だ。このことから、経営者が現場を巻き込んで業務改善や生産性向上を目指すことで、スタッフそれぞれのスキルやサービスに対する意識が向上し、効率的な内容へ変更する提言や参加意識が高まり「正の連鎖」が回り出す様子が、公式サイトの事例からは見て取ることができる。

 次回は鈴木、熊木両氏が講師をつとめたワークショップの様子を報告する。

《かのうよしこ/ライター》

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