脳の電気信号でサイバー義肢を動かせ!国際競技大会「サイバスロン」の提唱者に聞く | RBB TODAY

脳の電気信号でサイバー義肢を動かせ!国際競技大会「サイバスロン」の提唱者に聞く

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最新のテクノロジーによるサイバー義肢の開発が進んでいる。(c)ETH Zurich / Nicola Pitaro
最新のテクノロジーによるサイバー義肢の開発が進んでいる。(c)ETH Zurich / Nicola Pitaro 全 8 枚
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 最新のテクノロジーにより「義手」や「義足」の可能性が飛躍的に拡大しつつある。筋肉や脳からの電気信号で動かせるサイバー義肢(義手・義足・義指など)の開発がグローバルで進んでいるのだ。スイス・チューリッヒでは、手術で腕や脚を失った障害者たちによる国際競技大会「サイバスロン(CYBATHLON)」が開催された。大会は今後、日本を含む世界各地で開催していくという。

最新のテクノロジーによるサイバー義肢の開発が進んでいる。(c)ETH Zurich / Nicola Pitaro
最新のテクノロジーによるサイバー義肢の開発が進んでいる。(c)ETH Zurich / Nicola Pitaro


サイバスロンとは、どんな大会?


 サイバスロンとは、ロボット工学などの最先端技術を用いて開発された義肢を身につけた障害者によって競われるスポーツ大会のこと。チューリッヒ工科大学のロバート・ライナー教授の提言により実現した。都内で開催中の「Science Robotics Meeting in Japan 2018」では12日、そのライナー教授による基調講演がおこなわれた。

東京国際交流館(プラザ平成)で開催中の「Science Robotics Meeting in Japan 2018」。チューリッヒ工科大学のロバート・ライナー教授が基調講演をおこなった
東京国際交流館(プラザ平成)で開催中の「Science Robotics Meeting in Japan 2018」。チューリッヒ工科大学のロバート・ライナー教授が基調講演をおこなった


 ライナー教授が「障害者のための装具の開発促進」を狙って、チューリッヒの当地にてサイバスロン 第1回大会を開催したのは2016年10月のこと。同氏は「大きなアイスホッケースタジアムを借りて開催した。チケットは完売し、当日は4,600人以上の観客が訪れた。世界中のメディアがテレビで中継した」と前回大会を振り返る。

チューリッヒで2016年10月に開催されたサイバスロン 第1回大会の様子。(c)ETH Zurich / Alessandro Della Bella
チューリッヒで2016年10月に開催されたサイバスロン 第1回大会の様子。(c)ETH Zurich / Alessandro Della Bella


 実施された競技は「パワード義手レース」「パワード義足レース」「パワード外骨格レース」「パワード電動車椅子レース」「機能的電気刺激自転車レース」「脳コンピュータ・インターフェース・レース」の6種目だった。

 ここで、いくつかの競技内容を紹介しよう。たとえば「パワード義手レース」は、筋肉に埋め込んだ電極が信号を感知することで動かすことのできる人工腕の利用者によるレース。フランスパンを切る、缶詰を開ける、洗濯物を干す、衣類をハンガーにかける、電球を交換する、といった日常生活で必要な動きが試された。

パワード義手レース(Powered Arm Prosthesis Race)の模様。(c)ETH Zurich / Nicola Pitaro
(c)ETH Zurich / Nicola Pitaro


パワード義手レース(Powered Arm Prosthesis Race)の模様。(c)ETH Zurich / Alessandro Della Bella
パワード義手レース(Powered Arm Prosthesis Race)の模様。(c)ETH Zurich / Alessandro Della Bella


 パワード外骨格レースは、麻痺した脚を外側から支える装具の利用者によるレース。ライナー教授は「彼らは、柔らかいソファから立ち上がるだけでも重労働を強いられる。飛び石を踏む障害ゾーンでは、デバイスが様々な歩幅に対応していることが求められた」と解説する。

パワード外骨格レース(Powered Exoskeleton Race)の模様。(c)ETH Zurich / Alessandro Della Bella
(c)ETH Zurich / Alessandro Della Bella


パワード外骨格レース(Powered Exoskeleton Race)の模様。(c)ETH Zurich / Nicola Pitaro
パワード外骨格レース(Powered Exoskeleton Race)の模様。(c)ETH Zurich / Nicola Pitaro


 脳コンピュータ・インターフェース・レースは、脳波で動くアバターによる障害物レース。脳の信号をキャッチできる脳波計を利用している。「何も考えない」ことでアバターが歩き出し、「ジャンプ」「滑る」「加速」といったコマンドを脳波で送ることで障害物をクリアしていくという。

脳コンピュータ・インターフェース・レース(Brain Computer Interface Race)の模様。(c)ETH Zurich / Nicola Pitaro
脳コンピュータ・インターフェース・レース(Brain Computer Interface Race)の模様。(c)ETH Zurich / Nicola Pitaro


“究極の義肢"を目指して


 ライナー教授によれば、切断手術により四肢のいずれかを失う患者の数は、アメリカ国内だけでも毎年170万人におよぶとのこと。そうした患者の多くが頼るのが、昔ながらの非電気的な義肢だが、残念ながら日常生活の様々なシーンで利用者に不便を強いていると言わざるを得ない。また現時点では、脚の動きをコンピュータで制御できる義足システム「C-Leg」をベターな選択肢として挙げる人もいる。しかしライナー教授は、C-Legについても「義肢が利用者の意図を理解してくれないのが問題」と指摘した。同氏が目指しているのは、利用者の意図を正しく理解できる安全な義肢。この"究極の義肢"を近代テクノロジーで実現する日まで、挑戦を続けていく考えだ。

 なお、サイバスロン 第2回大会は2020年にチューリッヒで開催される予定。これと並行して、世界各地で競技を分散開催することも検討している。「いま分散開催を予定している地域は南アフリカ、グラーツ(オーストリア)、そして東京です。東京では来年、電動車椅子のレースを開催したい」と同氏。今後もサイバスロン大会を通じて、障害者の真のニーズに迫っていくと意欲を燃やしていた。

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《近藤謙太郎》

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