【仏教とIT】第9回 iPhone型位牌、着せ替え位牌と供養の心 | RBB TODAY

【仏教とIT】第9回 iPhone型位牌、着せ替え位牌と供養の心

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【仏教とIT】第9回 iPhone型位牌、着せ替え位牌と供養の心
【仏教とIT】第9回 iPhone型位牌、着せ替え位牌と供養の心 全 4 枚
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先祖供養とお国柄



 亡くなった娘の墓を巨大なiPhone型にしたロシア人のお墓が話題になっている。故人は生前アップルの小売・サービス店で勤務していたので、それにちなんでのことだという。

 これに引き換え日本では、最近は夫婦墓など「家墓」以外のスタイルも増えてきているが、大きなお墓を建てる場合は、相変わらず「○○家先祖代々之墓」と記された家単位のものが中心である。故人のパーソナリティーをモチーフに、唯一無二のお墓を建立するというのは聞いたことがない。せっかく高いお金を出すのだから、石の材質や彫刻のデザインなどにもっとこだわってもいいだろうと思うが、そういう考え方をする人は少ないらしい。

 お墓に比べれば、仏壇に祀られる位牌は先祖お一人ごと(あるいは夫婦ごと)に作られるので、カスタマイズのしようがあるかもしれない。しかしながら、慣例的には、位牌に関してもどれか一基だけが目立つことのないように、同じ寸法、同じ体裁となるように作る。モダン仏壇と言われるマンションにも違和感なく安置できる仏壇でも、このあたりの事情は変わらない。お墓や位牌の姿には、「右向け右」的な日本人の性格が、よく表れているともいえるだろう。


iPhone型位牌「iHai」



 とはいえ、実は日本にも、iPhoneからインスピレーションを得て作られた独創的な位牌が存在する。その名も「iHai(アイハイ)」という。ロシア人のお墓はiPhoneを模したものだが、iHaiのほうはなかにiPhoneが入るようになっている。しかも充電が切れないように、下部に開けられた穴からケーブルを接続できるようになっているという親切設計だ。





 このiHaiを開発したのは三河地方の仏壇の伝統を受け継ぐ都築仏壇店の都築数明さん(クロート・クリエイション代表)である。都築さんは、伝統的な三河の仏壇技術をいかに後世に遺すかを模索し、アメリカやドイツで個展を開くなど、先進的な試みをなしてきた。仏壇店には、オーソドックスな仏壇と肩を並べて、武士の兜をモチーフにした「武壇」などさまざまな仏壇が存在感を発揮している。

 iHaiが開発されたのは2012年。私が都築仏壇店を訪ねてiHaiに出会ったとき、「性懲りもなくまた珍しいものを」というぐらいの軽いノリで、この商品を笑った。すると、都築さんは「最近、ご家庭の仏壇にiPhoneやスマートフォンを供えてあるのをよく見かけるんです」と真面目に答えてくれた。

 そう言われれば確かにそうなのである。少し前まで、仏壇に供えられるのは、腕時計と眼鏡というのが相場だった。遺された人たちは、腕時計や眼鏡を通じて、故人の人柄を偲んだのである。しかし、都築さんの言う通り、私も各家庭の仏壇をお参りしていると、ときどきiPhoneやスマートフォンが供えられてあるのを見かける。亡き人が最後まで肌身離さず持っていた携帯電話。そこには、着信履歴、発信履歴、送受信したメール、撮影した画像など、故人を偲ぶためのあらゆる要素が詰まっている。捨てられずに仏壇に供えて供養したいという感情も頷けるのである。なお、最新版のiPhoneに対応したiHaiは販売されていないが、「要望があればオーダーメイドします」とのこと。


供養の心を考える



 都築さんが、位牌と供養にこだわるのにはわけがある。iHaiの開発に先立って、都築さんは2011年に発生した東日本大震災の復興支援に携わってきた。その復興支援というのは、被災した海岸沿いを訪ねて傷ついた位牌を預かっては修理して届けるという仏壇職人らしいやり方だった。そして、その過程で気づかされたことがあったという。

「海外個展を開いていた頃はカッコいい仏壇を作ることばかり考えていましたけど、間違っていたと気づきました。被災された方が『位牌だけ持って逃げました』とか、『位牌がなかったらお盆に里帰りする意味がない』と当たり前のように語るのを聞いて、供養の中心にあるのは位牌だ思い知りました」

 以来、「位牌と供養」は都築さんの活動のテーマになっている。しかし、そのやり方はiHaiだけでなく、いつも奇想天外である。3ヵ月前に会った時には「位牌に着物を着せてあげたい」と言われたから、また虚をつかれた。でも、これも理解できる。すでに先祖代々の仏壇があるなら、できるだけ大切にお祀りしたほうがいい。かといって、従来通りの祀り方を守り続けることに固執するあまりに、供養の心を見失っても仕方ない。大切なのは、供養の場に命を吹き込んでいくことであり、またそのための工夫である。





 思うに、現代の私たちは、昔ながらの伝統を嫌っているわけではなく、そこにアプローチする手立てを見失ってもがいている。すでに本稿の連載に書いたように、ご朱印のような手軽なきっかけがあるだけで、お寺参拝の機運は盛り上がる。おそらくは、仏壇に向かうのもちょっとしたきっかけで随分変わるだろう。故人を偲んで、好きだった素材とか色合いの洋服を着せてあげるとか、夏服から冬服に衣替えしてあげるとか、そんな他愛ない仕組みがあれば、仏壇に手を合わせるのが楽しくなるだろう。

 iPhone型のお墓やiHai、そして着せ替え位牌。デジタルもアナログも交えて、さまざまな試みがこれから提案されていくだろう。IT技術も柔軟に取り入れることで、供養の心がどんどん深まっていけばいいと思う。

池口 龍法氏
池口 龍法氏

【著者】池口 龍法
1980年兵庫県生まれ。兵庫教区伊丹組西明寺に生まれ育ち、京都大学、同大学院ではインドおよびチベットの仏教学を研究。大学院中退後、2005年4月より知恩院に奉職し、現在は編集主幹をつとめる。2009年8月に超宗派の若手僧侶を中心に「フリースタイルな僧侶たち」を発足させて代表に就任し、フリーマガジンの発行など仏教と出合う縁の創出に取り組む(~2015年3月)。2014年6月より京都教区大宮組龍岸寺住職。著書に『お寺に行こう! 坊主が選んだ「寺」の処方箋』(講談社)、寄稿には京都新聞への連載(全50回)、キリスト新聞への連載(2017年7月~)など。
■龍岸寺ホームページ http://ryuganji.jp
■Twitter https://twitter.com/senrenja

《池口 龍法》

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