【仏教とIT】第18回 ヘイ!坊主!あそぼーぜ! | RBB TODAY

【仏教とIT】第18回 ヘイ!坊主!あそぼーぜ!

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【仏教とIT】第18回 ヘイ!坊主!あそぼーぜ!
【仏教とIT】第18回 ヘイ!坊主!あそぼーぜ! 全 5 枚
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お坊さんとマッチング!



「すべては『お寺はもっと身近であるべき』という私の思い込みから始まってます」
そう笑って語るのは、株式会社ブイ・クルーズ社長の阿久津泰紀さん(46)。8年前
、仕事で京都に来たときに、阿久津さんはふと違和感を覚えたという。

「京都は街中にお寺がたくさんありますが、観光寺院以外はどこにも入れない。お寺の門の向こう側でお坊さんがどんな風に暮らしているのかわからない。でも、SNS映えするから門前で写真撮って満足する。滑稽な光景ですよね」

 阿久津さんの会社は、Web系のシステム開発が専門だが、京都府南丹市の小学校跡を利用した地方創生事業「南丹市企業支援サテライトオフィスSoi」の運営にも携わる。つまり、単なる“開発屋”の集団ではなく、企画や運営まで含めた総合力で課題を解決していく組織体になっている。AIによって近い将来取って代わられる“技術力”よりも、「他人のために自分がなにをできるか」と考える“人間力”をベースに会社を作っていくのが、阿久津さんの信念だ。

Soi利用イメージ。廃校はまるでオフィス。南丹市の豊かな自然に包まれてリラックス勤務


 だから、お寺をとりまく状況が不自然だと目に映ったときも、この不自然さを解決することを必死で考えた。そうすると、

「熱烈な信仰心ない私だって、初詣はやはりお寺か神社」
「仏教は日本人のDNAのなかに刷り込まれている」
「観光客だらけのお寺でお堂を眺めるより、お坊さんと話す方が心が落ち着く」
「お寺離れが進んで文化が廃れていってもいいのか」
「お坊さんとのマッチングサイトを作れば人も地域も活性化するはず」

ということで、最適解はマッチングサイトだと見えてきた。そこで、阿久津さん率いるブイ・クルーズの社員たちは、採算など度外視にしてマッチングサイトの開発に着手。およそ1年前に、京都のお坊さんと出会えるサービス「Hey!Bouz」の骨組みがほぼ完成した。ただ、問題は次のフェーズ。このような奇抜なサービスに登録してくれるお坊さんがどれだけいるか。伝統と格式を重んじる京都を舞台の中心にするなら、なおのことである。

 勘の良い読者ならおよそ察しがつくかもしれないが、こういうタイミングでターゲットになるのが往々にして私である。阿久津さんも、私の噂を人づてに聞いて訪ねて来られた。私も私で、このサービスのユニークさに心を奪われ、京都のお坊さんらしい“奥ゆかしさ”など気にせず、早速登録した。さらには、阿久津さんの熱意に打たれた私は、知人のお坊さんで「この人なら登録してくれるだろう」という人を何人か紹介した。


ホスト役を務めてみて



 その後、お坊さんの登録が10人ほどになった今年2月、プレオープンを果たした。
そして、この6月に本オープン。いまではお坊さん20人ぐらいがリストに載っている。
マッチングの仕組みは体験してもらったほうが早いが、「Bouz散歩」「お寺見学」「お経を読んでもらう」のなかから希望を選び、続いてエリア、支払う金額などを入力していく。そうすると、「○人のお坊さんがマッチングしました!」と表示され、実際に日時が合うかなどの調整へと進むことになる。最後まで残ったお坊さんが複数いれば、ユーザーがいずれか一人を選んで、マッチング完了である。



 サイトがオープンして間もないので、リクエストがあったのはまだ20件程度だが、マッチングが不成立になったケースはほとんどないという。「ユーザーさんは皆さん喜んでくださってます」と阿久津さん。「お坊さんと話せたり、親身に相談に乗っていただけたりする点が、評価されているようです」と手ごたえを語る。ちなみに私も一度だけ、ホスト役を務めたことがある。

「お寺の歴史が知りたい」という少し年下の女性からのリクエストで、滞在時間は1時間の設定だった。ガッカリさせないように、お寺の由緒がわかる資料などを準備してからお会いしたが、文化財を多数所有する観光寺院とは違うから、いくら丁寧に語っても15分~20分で語り尽くしてしまった。そのあとは、本堂で念仏や坐禅してみたり、座敷でお茶飲んでくつろいだり。そんな他愛もない時間を過ごした。でも、丁寧に整備された庭を眺め、畳やふすまから漂う日本のにおいを味わいながらまったりとお茶を飲むのは、とても贅沢な体験だったらしい。大変満足していただいた。念仏の声も迫力があったそうで、「カラオケ行きたいです!」とかつて味わったことのない奇妙な喜び方をしてもらった。

坐禅の呼吸法やら足の組み方やらを詳しく説明して一緒に坐ったり





Hey!Bouzが開く古くて新しいトビラ



 サービスに登録している他のお坊さんに聞いても、「これまで檀家さんとの狭い関係性のなかで生きてるうちに、社会から孤立していたことに気づきました。まさに“井の中の蛙”でした。むしろ、Hey!Bouzはむしろお坊さんの視野を広げてくれるためのサービスかもしれません」と、絶賛する声が返ってきた。

 ということで、Hey!Bouzはお坊さんにとってもユーザーにとっても画期的なサービスとして評判なのだが、そこに多少ムズムズする感覚を覚えるのは私だけだろうか。

 檀家さんや地域の人がお寺に足を運んで他愛ない世間話をする。
 少し前まで当たり前のように存在した、ありふれた光景である。

 それなのに、わざわざネット上のサービスを利用し、1時間あたりいくらという金額を設定してお坊さんと会う。ネット以前の時代に置き去りにした忘れものを、ネットを使って取りに帰っている。つまり、時代が一周まわっていることになる。先鋭的に思えるHey!Bouzのサービスだが、もとから存在した世界へのトビラを開いている。

 だから、阿久津さんは「Hey!Bouzの理想は、Hey!Bouzが要らなくなること」だという。Webサービスなどなくても、お坊さんに気軽に話しかけられる。そういう時代こそ理想的だというのである。

「家族のなかでも、会社でも、趣味の合う人とのサークルでも、キャラを演じ続けてしんどくなっている人は多いです。『死にたい』とまで思い詰める前に、弱みをさらけ出す相手としてお坊さんが居てくれたら、どんなに私たちは楽になれるか。気軽に飛び込める“駆け込み寺”が増えてくると、ずいぶん生きやすくなりますよね」

 私は、阿久津さんのこの願いに心から共感しているし、同じような感覚を抱く人は少なくないと思う。だから、京都に来られる折にはぜひHey!Bouzのサービスを利用してほしい。そこには、単なる観光では味わえない、人生を変えるお寺体験への道が続いている。

https://heybouz.com/

阿久津さん(右)と筆者(左)。株式会社ブイ・クルーズオフィスにて


池口 龍法氏
池口 龍法氏

【著者】池口 龍法
1980年兵庫県生まれ。兵庫教区伊丹組西明寺に生まれ育ち、京都大学、同大学院ではインドおよびチベットの仏教学を研究。大学院中退後、2005年4月より知恩院に奉職し、現在は編集主幹をつとめる。2009年8月に超宗派の若手僧侶を中心に「フリースタイルな僧侶たち」を発足させて代表に就任し、フリーマガジンの発行など仏教と出合う縁の創出に取り組む(~2015年3月)。2014年6月より京都教区大宮組龍岸寺住職。著書に『お寺に行こう! 坊主が選んだ「寺」の処方箋』(講談社)、寄稿には京都新聞への連載(全50回)、キリスト新聞への連載(2017年7月~)など。

■龍岸寺ホームページ http://ryuganji.jp
■Twitter https://twitter.com/senrenja

《池口 龍法》

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