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フリーアドレス導入の目的は人員増対策
クレストホールディングスは看板などの屋外広告事業を中核とする企業だ。現在、東京・赤坂にある本社オフィスには、持ち株会社である同社と傘下の株式会社クレスト、それにガーデニング用植物などライフスタイル関連事業を展開するインナチュラルの計3社、52人が在籍している。
同社がフリーアドレス導入に踏み切った最大の理由は、人員増でオフィスに人が入りきれなくなったこと。経営管理本部人事部Senior Managerの金谷武さんは「社員は営業メンバーが大半を占めていて、普段はオフィスにいないので、特に営業メンバーを中心にフリーアドレスにしようということになりました」と語る。
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社屋移転前の試験導入で課題を抽出
水道橋の前社屋で始めたフリーアドレスの試験導入では、まず各人の机にあった引き出しをすべて撤去し、代わりに個人用ロッカーを設けた。各人は始業時にはロッカーから仕事に必要なものを机の上に持ち出し、終業時にはすべて収納する。ロッカーのスペースが足りないという不満は特に出なかったという。
フリーアドレス導入の実験と並行してペーパーレス化を実施し、紙の書類が撤廃されたことも、各人の荷物削減につながった。「断捨離はできますね。本来は必要ないものばかりなので、コンパクトになればなるほど自分で工夫するようになります」と金谷さん。
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社員各人には仕事用の端末としてノートPC「MacBook Air」が支給された。基本的にはこのノートPCを携えて社内外を移動し、作業を行う。
社員から疑問視されたのは、座席のくじ引き制だ。当初は、毎朝くじ引きで決めた座席に座らせる方式にし、前日と同じ席に座らないよう強制的にシャッフルしていた。せっかくフリーアドレスにしても、各人が前日と同じ席に座るようになっては意味がない、そんな思惑からとった苦肉の策だった。社員が出社すると、オフィスの入り口に置かれたタブレット端末で、その日座る座席が割り当てられる。このくじ引き制は、2019年5月に現在のオフィスに移転した際には廃止され、各人が自由に座席を選べるようになった。半年間の試験導入を経て、社員が毎日違った席に座ることに慣れてきたためという。
試験導入を始めてから数週間もすると、今度はデザイナーから「仕事に集中しづらい」との不満が上がってきた。毎日座席が変わるようになるとコミュニケーションが活発化し、話し声もうるさくなる。このため、デザイナーについてはフリーアドレスの対象から除外し、固定席にかたまって座らせることになった。
社員が集中する時間帯になると、座席が足りなくなることもあった。ただ、パソコンを持ち歩けるようにしたことで、座席にあぶれた社員は執務エリア外のフリースペースでも作業はできたので、特に大きな問題にはならなかったという。赤坂の現オフィスに移ってからは、以前の数倍の広さになったため、今のところこうした問題は起きていない。
紙の撤廃でオフィスがすっきり
現在の赤坂にある本社オフィスはビル4階のワンフロアで、延床面積467.9平米。在籍する62人のうち37人は完全フリーアドレスだ。総務部門やデザイナーなど15人は固定席。また電話をかけることの多いインサイドセールスチームの10人は島だけ決まっていて、その中で自由に座る。
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執務エリアのデスクには大画面のディスプレーが並んでいるのが目に付く。社内で仕事をする際には、これに各人のノートPCをHDMIケーブルで接続し作業を行えるようになっている。これとは別に、オフィス内の各所には傘下企業や支社の社内の様子を映し出すディスプレーが備えられている。
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同社はフリーアドレスを導入する以前は、紙の書類を使うことがかなり多い職場だったという。現在は書類は基本的にはクラウド上にデータ化されている。見積書や営業関連のものは「セールスフォース」で共有。経理の業務も「セールスフォース」からデータを吸い上げて計算したり請求書を作ったりしている。なお、勤怠管理も「セールスフォース」に接続された「チームスピリット」とうソフトを使っている。
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ただ、契約系の文書では「ドキュサイン」を使っている。もっとも対社外ではまだペーパーレス化されておらず、捺印申請などには今も紙を使っている。
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オンラインでの情報共有がビジネス迅速化につながった
オフィス内には固定電話が置かれていない。社外からかかってきた電話は、各人のノートPCにインストールされた「ダイヤルパッド」というIP電話アプリを使ってヘッドセットで応対する。電話応対やインサイドセールスチームが内勤営業で電話をかけた履歴はすべて「ダイヤルパッド」で社内に共有されている。また営業に関するメモはすべて「セールスフォース」で一括しているため、口頭で引き継ぎをする必要はなくなった。同社は「セールスフォース」に関してはカスタマイズを進めて使い込んでおり、ユーザー会の会長をやっているほどだという。
社内のコミュニケーションツールには、フェイスブックの「workplace」を使っていいる。以前は同社グループのうちインナチュラルではビジネスチャットアプリ「Slack」を使っていたが、現在は「workplace」に統一している。
「Slack」では基本的にチャットのように会話が流れていってしまうのに対し、「workplace」は議事録ふうに使え、フォルダーやファイルを蓄積していけるのが便利な上、各部署ごとにグループを作って部外秘の情報を共有できる利点もある。同社では仕事上のやりとりにはチャットはあまり使わないため、「workplace」の機能のほうがより適していたという。
「workplace」で全社的に情報共有できるシステムにしたことは、ビジネスの迅速化をもたらしたという。社外での打ち合わせの際も、社員は常にノートPCを開いて「workplace」で社内とつながっている。「クライアントから『こういうのがやりたいんだよね』と要望や提案があったとき、以前なら社にいったん持ち帰っていたが、今はその場で社内とやりとりして瞬時に回答できるようになりました」(金谷さん)。
フレックスタイムで残業が減った
同社ではフリーアドレス化と同時にフレックスタイム制も導入した。コアタイムは14~16時の2時間と短い。その結果、残業が減るという思わぬ効果も。「朝9時出社と決めてだらだらやるより、夜型の人もいるので」と金谷さん。14時に出社すれば、夜まで仕事をしていても残業にならない。「うちには子供のいるお父さんお母さんも多いですけど、お父さんでも子供を保育園に連れて行ってから出社するということもできます」
社内ミーティングは今も対面で行うのが原則だ。一方でフリーアドレスとフレックスタイムの導入で在社率は減っているので、会議は出席しやすいよう月曜に行うことにした。毎週月曜は朝9時に全員で朝礼を行った後、各部門ごとのミーティングが始まる。この結果、オフィス内が人であふれるのは月曜だけで、他の曜日の午前中は閑散とするようになった。
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同社の場合、フリーアドレス導入の目的はオフィススペースの有効活用だったが、結果的にさまざまな副次的効果も生まれた。「もともと社風として上下も横も隔たりがなかったが、いろんな机に座れるようになったことで今まで以上にコミュニケーションが活発化している。雑談レベルから違う部署同士でビジネスのヒントが生まれるみたいなこともあります」と金谷さんは語る。