配信が始まると壮絶ないじめシーンや新境地を開いたソン・ヘギョの演技が話題となった。第1話で繰り広げられる激しいいじめに「見るのがつらい」という声もあるようだが、その後のドラマチックな展開と美しい音楽や映像、そしてヘギョが演じるドンウンを支えるチュ・ヨジョン(イ・ドヒョン)との心温まるシーンに本ドラマの魅力を感じる。
すでに3月にはパート2の配信も決定している。今回はパート2に向けて本作の見どころを紹介したい。(以下、物語の内容にふれるネタバレあり)
あらすじ:
母子家庭で育ったムン・ドンウン(ソン・ヘギョ、高校時代:チョン・ジソ)は、建築家になることを夢見て勉強に励んでいたが、金持ちのパク・ヨンジン(イム・ジヨン、高校時代:シン・イェウン)らから激しいいじめを受ける。そしてヨンジンの策略で退学に追い込まれてしまう。
母親からも見捨てられたドンウンは、工場で働きながら高卒認定試験→大学入学を果たす。つらい思いを味わっても、弱音を吐かず黙々と頑張ってきたのは、いつかヨンジンたちへ復讐すると心に誓ったからだった。そして念願の教師になったドンウン。本格的に人生をかけた復讐劇が始まった。
登場人物:
ムン・ドンウン(ソン・ヘギョ、高校時代:チョン・ジソ)
本作の主人公。高校時代に壮絶ないじめに合う。いじめにより負ったやけどの傷が体中に残っている。自分をいじめた加害者たちに復讐するべく、18年間かけて準備を進める。
チュ・ヨジョン(イ・ドヒョン)
形成外科医で、ドンウンの協力者で囲碁を教える。病院長の息子として生まれ不自由のない生活をしてきたが、父親が患者に殺されるという悲しい過去がある。
パク・ヨンジン(イム・ジヨン、高校時代:シン・イェウン)
ドンウンをいじめた中心人物。親が金持ちであることを盾にやりたい放題の女性。気象キャスターとなり金持ちのハ・ドヨンと結婚。一人娘・イェソルに恵まれ順風満帆な人生を送っている。
カン・ヒョンナム(ヨム・ヘラン)
ドンウンの同志。DV夫に虐げられる日々を送っている。ドンウンに夫を殺してくれるなら復讐に協力するともちかける。
ハ・ドヨン(チョン・ソンイル)
ヨンジンの夫。建設会社の社長。金も地位もあるが、ヨンジンの過去を知ることでかつてない大きな壁にぶち当たる。
チョン・ジェジュン(パク・ソンフン、高校時代:ソン・ビョングン)
ヨンジンとともにドンウンをいじめていた加害者。金持ちの親に寄生する典型的なドラ息子。キレると手に負えない。色覚異常を患っている。
イ・サラ(キム・ヒオラ、高校時代:ペ・カンヒ)
ヨンジンの仲間で、ドンウンをいじめていた加害者。画家として活動しているが、薬物に依存する堕落した生活を送っている。
チェ・へジョン(チャ・ジュヨン、高校時代:ソン・ジウ)
ヨンジンの仲間で、ドンウンをいじめていた加害者。裕福な家の生まれではないため、ヨンジンとサラにバカにされている。客室乗務員になったのは玉の輿に乗るため。
ソン・ミョンオ(キム・ゴヌ、高校時代:ソ・ウヒョク)
ヨンジンの仲間で、ドンウンをいじめていた加害者。へジョンと同じく裕福な家の生まれではないため、大人になってもジェジュンのパシリをやらされている。
ソン・ヘギョとイ・ドヒョンが、心を通わせ復讐を誓う
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Kelley McRaeが歌う心地よい音楽「Until The End」が流れる中、車を走らせるドンウン。あまりにも静かに物語がスタートするので、その後に描かれるドンウンの壮絶な人生がより一層際立つ。
髪の毛を後ろで無造作に束ね、顔色は青白く、ほとんど笑顔を見せない。華やかな役を演じることが多いヘギョが、2004年から2022年の18年間かけて自分をいじめた加害者たちにジワジワと復讐する、暗く悲しい女性を演じている。
窓一面に復讐の標的であるヨンジンらの写真を貼っている姿を見ると、ドンウンが恐ろしく異常な人間のように見えるが、彼女が受けてきたいじめの激しさを見てしまったら、異常だと片付けることができない。冷たい社会の中で常に虐げられてきたドンウンの生きる気力となったのは「私をいじめた加害者たちに復讐する」という目標だったからだ。
その目標を遂行するためにドンウンは「笑いたくない。笑うと目的を見失うから」と言う寂しい女性になってしまった。
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そんなドンウンに心を奪われるのが、形成外科医のヨジョンだ。病院長の息子として育ち、不自由のない暮らしをしてきたヨジョンだが、父親を元患者に殺される悲劇を経験している。その傷が癒えない時期にドンウンと出会い、ドンウンの中に自分と同じような闇があることに気付き、惹かれていく。
2人は、ドンウンが復讐の武器として使う囲碁を通じて親しくなっていく。ヨジョンがドンウンに囲碁を教えることで、心を通わせていくのだ。
本作は、いじめの加害者への復讐劇がメインテーマだが、ドンウンとヨジョンのシーンは物語の癒しであり希望となる。それは、イ・ドヒョンの包容力のある演技に心が温かくなるからだ。
心が踊るような恋愛が展開されるわけではないのだが、ヨジョンの押し付けがましくない優しさ、本気でドンウンを心配する様子に、虐げられてきたドンウンにやっと味方ができたと視聴者は心から安心する。そして何より2人が過ごす時間の描写が美しい。公園で囲碁をするシーンが印象的なのだが、季節が流れている様子を美しい映像で静かに描いていく。
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時が流れて、ドンウンが復讐を本格的に実行しようとした矢先に2人は再会。ヨジョンはドンウンへの変わらない気持ちを告白するが、「私に王子様はいらない。必要なのは一緒に剣舞を踊ってくれる処刑人」とドンウンは答える。
ドンウンが全身にあるやけどのあとをヨジョンに見せたことで、ヨジョンはドンウンのために処刑人になることを決意するのだが、この瞬間、怒りに震えるドヒョンの表情に心を奪われる人は多いだろう。
「もはやいじめではなく犯罪ではないか」といえるシーンやドンウンが受けた心の傷が物語の中で描かれていく。しかしドンウンとヨジョンのシーンで心が癒されることで、物語に引き込まれていき、そのさじ加減が絶妙だ。キム・ウンスクが書く脚本はやはりすごい…と改めて感じる。
高校時代を演じるチョン・ジソとシン・イェウンが強烈な印象を残す
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いじめシーンが描かれる高校時代は、別の俳優が演じていることもドラマの中で大きな効果をあげている。
ドンウンを演じているのは、チョン・ジソ。映画『パラサイト 半地下の家族』では、裕福な家の娘を演じたが、今回はシングルマザーの家庭で生まれた貧しい少女に扮し、映画の印象とはずいぶん違うことに驚く。
恵まれない家庭に生まれたが、建築家になることを夢見て黙々と勉強に励むドンウン。激しいいじめによって、彼女の運命はめちゃくちゃにされるのだが、いじめシーンの恐怖におびえる表情が真に迫っている。
学校を退学し、絶望に打ちひしがれ自ら死を選ぼうとしたが「なぜ私だけが死ななければいけないのか」と我にかえり、ヨンジンらに宣戦布告ともいえる言葉を投げかける。そのシーンの変貌ぶりに、ジソの俳優としての将来性を感じた。
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一方、ヨンジンの高校時代を演じたのがシン・イェウン。ディズニープラスで配信中の『代理リベンジ』で、主演のオク・チャンミを演じている。
代理リベンジでは、孤児として育ち双子の兄が謎の転落死を遂げたことの真相を追及する女子高生を演じている。いじめられるシーンがあるものの、目つきが鋭く弱々しいキャラではない。もともとイェウンが持っている雰囲気なのか、それがヨンジン役に強烈に活かされているのだ。
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大人を小馬鹿にした態度、不気味な笑顔でドンウンに詰め寄り、取り巻きにいじめをさせるなど、背筋が凍るような悪質さだ。成長したヨンジン役を演じるイム・ジヨンとも上手くリンクしており、同じ役をWキャストで演じる醍醐味を堪能できる。
囲碁のようにじわじわと攻めていくドンウン 本格的な復讐劇が始まる
本作を見る上でキーワードとなるのが囲碁だ。ドンウンとヨジョンが親しくなるきっかけになり、かつヨンジンの夫、ドヨンが囲碁をたしなむことで復讐に利用するための武器になるからだ。
囲碁に全く興味がなかったドンウンだが、ヨンジンの夫に近づく手段として、ヨジョンから手ほどきを受ける。その際に「囲碁は家の多い人が勝つ。自分の家を建てて、相手の家を壊しつつ徐々に攻め込む。沈黙の中で激しく。」と説明するヨジョン。それを聞いたドンウンはわずかに微笑み「気に入った」とつぶやく。
復讐のため周到な準備を重ねてきたドンウンは、まさに囲碁のように沈黙の中で激しくヨンジンたちに攻め込んでいく。ヨジョンの他に「DV夫を殺してくれるなら、復讐に協力する」と提案してきたカン・ヒョンナムの予想以上の働きぶりもあって、順調にことは進み、いよいよ本格的に復讐が始まるぞ…と思ったところでパート2に突入していく。
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思惑どおり囲碁を通じてドヨンに近づくことに成功したドンウン。社会的地位があり、自身の人生に何一つ汚点は許されないという信念があるドヨンが、妻の過去の罪を知ってどのような態度に出るのか。ドンウンの協力者、ヒョンナムの夫をどのように殺害するのか。そしてドンウンと共に処刑人になることを決意したヨジョンは、父が殺害されたという傷にどのように向き合っていくのか。パート2ではドンウン以外の人物の動向も注目したい。
Netflixシリーズ「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」独占配信中
■筆者プロフィール
咲田真菜
舞台・映画・韓国ドラマの執筆を手掛けるフリーライター。映画『コーラスライン』でミュージカルに魅了され、あらゆる舞台を鑑賞。『冬のソナタ』で韓国ドラマにハマって以来見続け、その流れで韓国映画、韓国ミュージカルにも注目するようになる。好きなジャンルはラブコメ、ファンタジー、法廷もの。ドロドロした愛憎劇は苦手。好きな俳優はイ・ビョンホン、イ・ジョンジェ、ヒョンビン、キム・ドンウク、チャン・ギヨン。いつか字幕なしで鑑賞したいと韓国語を勉強中。