刑事と被疑者のラブストーリー!パク・チャヌク最新作『別れる決心』は滑稽さも滲み出る不倫劇 | RBB TODAY

刑事と被疑者のラブストーリー!パク・チャヌク最新作『別れる決心』は滑稽さも滲み出る不倫劇

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『別れる決心』2月17日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー/©2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED
『別れる決心』2月17日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー/©2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED 全 7 枚
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 パク・チャヌク監督の最新作『別れる決心』は、またしても強烈な一作だった。『オールド・ボーイ』に『お嬢さん』、と禁断の愛を描き続けてきた監督らしく、今回も刑事と被疑者というスリリングな組み合わせのラブストーリーである。

(以下、ネタバレあり)

 物語は、週末婚の刑事ヘジュン(パク・ヘイル)が、崖から転落死した男の中国人妻ソレ(タン・ウェイ)の調査を開始することから始まる。薬指に指輪を付けているのにも関わらず、互いに「美しい被疑者」「品のある刑事」と好意的な印象を抱いてしまった2人。取り調べが進めば進むほど、その想いが膨らんでいくのは自然な流れだった。

へジュンを演じたのは、『殺人の追憶』や『グエムル ~漢江の怪物~』などポン・ジュノ監督作への出演で一躍注目を集め、ドラマ、アクション、時代劇などキャリアを通して幅広い分野で活躍しているパク・ヘイル。/©2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED


ソレを演じたのは、アン・リー監督『ラスト、コーション』やマイケル・マン監督『ブラックハット』などに出演してきた国際派俳優のタン・ウェイ。/©2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED


 2回目の取り調べは、初デートさながら。ソレは初めから積極的で、DV夫に上手く言葉で伝えられずに自傷したことがあると太ももを露わにし、女性刑事ではなくあえてヘジュンにその証拠を撮影させる。孔子の「賢い者は水を好み慈悲深い者は山を好む」という言葉を引用し、「私は慈悲深くなく、海が好きです」と自分の好みを話す。対して、ぼそっと「僕も…」と答えるヘジュン。そして、「変なタイミングで笑ってしまう」という共通点に微笑み合う。途中、晩御飯として高級寿司を向き合って食べ、息ぴったりで片付けをする。食後、ヘジュンはわざわざ歯ブラシに歯磨き粉を付けて渡し、ソレは歯磨き後、香水を吹きかけて第2ラウンドへと挑む。ソレが独立功労者の末裔であることを証明するため、2人が1台のスマホを覗き込むシーンも、非常に距離が近い。

ソレを最後まで疑い続けていたへジュンの部下スワン(コ・ギョンピョ)。禁煙中のへジュンへの当てつけも込め、タバコ2本吸いをする姿が最高だった。/©2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED


 事件発生後、ヘジュンはソレの張り込み調査に勤しむ。双眼鏡を覗き込み、ソレがアイスクリームやタバコを嗜んでいる時には口元を見つめ、実際に彼女の側にいることを妄想する。ソレは、ヘジュンが犯罪者相手に奮闘している場面を目撃し、その勇ましい姿に心をときめかせる。さらに、ヘジュンの張り込みに気づいてからは、近所に住まう猫に「あの刑事の心臓(心)が欲しい」と囁く。このように、好意を持っている者同士の一線を超えるか超えないかの瀬戸際のシーンが続く。筆者は鑑賞中、確実に心拍数が上がっていたと思う。

 結局、ソレの夫の事件は自殺として捜査終了に。これ幸いと、さらに親密になっていく2人。へジュンはソレを自宅に招いて手作りの夕飯を振る舞い、ソレは仕事で落ち込むヘジュンの「寝かしつけ」を行なう。介護士のソレが、急遽在宅老人ケアに行けなくなった時、へジュンはその代わりを申し出る。これがまずかった。在宅老人が軽い認知症で、ソレと同機種のスマホを所持していたことから、ソレの夫殺しが明確になってしまったからだ。しかし、へジュンは刑事としての誇りを捨て、愛する女の罪を問わないことにする。その時の台詞が、あまりにも印象深い。

『別れる決心』という作品名もだが、台詞一つひとつがとにかく秀逸だった。韓国で公開後に発売された脚本集がベストセラー1位を獲得したというのも納得だ。/©2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED


 映画後半の舞台は、海辺の街イポ。妻の勤務先に引越し、睡眠障害が悪化して覇気を失ったヘジュンの姿が映し出される。一方ソレも、新しい夫ホシンとイポへ移住。しかし、2人が市場でバッタリ出くわした翌日、ホシンの殺人事件が発生。再び2人の人生が入り混じっていくことに。へジュンが被疑者であるソレを調べれば調べるほど、彼女がどれだけ自身を想っていたかが浮かび上がってくる。そして物語はクライマックスへーー。

 要は不倫愛の物語なのだが、危険な関係に燃え上がるそれとは真逆で、妙にしっとりとしている。その要因は、映像に“水”を効果的に使っているからだろう。へジュンは、頻繁に目薬を挿している。ソレは、へジュンを寝かしつける際に海を漂うクラゲをイメージさせる。心が通じ合った後に描かれるのは、雨降りの日のデートだ。へジュンはイポ移住後、精神科でクラゲの映像を眺めている。ソレは、イポ移住の理由に「霧が好き」と答える。雪が舞う中、2人は唇を重ねる。そして最後はもちろん、海のシーンだ。2人の愛の形が“水”を使って描かれていると言えるだろう。対して、ソレの1人目の夫は“油峰”から落とされて目の水分を失い、2人目の夫は13度も刺された状態でプールに入れられその液体を丸ごと抜き取られているというのも面白い。

へジュンとソレの雨降りの日のデートシーン。このシーンを振り返ると胸が締め付けられる。/©2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED


へジュンの妻は、閉経を遅らせる効果があるとザクロを大量に備えている。ちなみに、ザクロに含まれるカリウムには、体内の余分な水分を排出する働きがある。/©2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED


 この手の禁断愛の結末に対し、よくある「切ない」という感想は、もちろんあるはある。しかしそれ以上に、人間の愚かさに対する歯痒さや冷笑なども心の中でぐるりと渦巻き、半泣き半笑いの状態に陥った。皆さんは鑑賞後、一体どのような感情を抱くだろうか? 少なくとも、「単一的」ではないことであろう。

『別れる決心』2月17日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
監督:パク・チャヌク
脚本:チョン・ソギョン、パク・チャヌク
出演:パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ
提供:ハピネットファントム・スタジオ、WOWOW
配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題:헤어질결심|2022年|韓国映画|シネマスコープ|上映時間:138分|映画の区分:G
(c)2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED
『別れる決心』公式ホームページ
https://happinet-phantom.com/wakare-movie/

■筆者プロフィール
山根由佳
執筆・編集・校正・写真家のマネージャーなど何足もの草鞋を履くフリーライター。洋画・海外ドラマ・韓国ドラマの熱狂的ウォッチャー。観たい作品数に対して時間が圧倒的に足りないことが悩み。ホラー、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマが好き。

《山根由佳》

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