今回は、トルダム病院の隣にキム・サブの夢である外傷センターが完成。これまではトルダム病院内でドラマが繰り広げられることがほとんどだったが、新施設ならではの点検ハプニングや2拠点体制による混乱といった人災に加え、船上での脱北者手術やビル倒壊現場での手術、大雪や火災による2次災害なども描かれ、シーズン1、2よりも格段にスケールアップ。とにかくてんこ盛りであった。
第9話冒頭、「異常気温、自然災害、急速に悪化している気候変動、山火事や地震、そして戦争。予測不能な数多くの事件や事故、人災。それらは前触れなく突然我々に襲いかかる。今やどんなことが起きても不思議ではない世の中になりました。俺たちはそんな世の中に備えなければなりません」とキム・サブ(ハン・ソッキュ)は語り、災害現場などの映像が映し出される。『浪漫ドクター キム・サブ3』は、まさにその起こりうる出来事を可能な限り詰め込んでおり、シーズンを通して“リアルさ”を追求しているように感じた。だからこそ、登場人物一人ひとりの言葉の説得力も増している。
■筆者プロフィール
山根由佳
執筆・編集・校正・写真家のマネージャーなど何足もの草鞋を履くフリーライター。洋画・海外ドラマ・韓国ドラマの熱狂的ウォッチャー。観たい作品数に対して時間が圧倒的に足りないことが悩み。ホラー、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマが好き。
山根由佳
執筆・編集・校正・写真家のマネージャーなど何足もの草鞋を履くフリーライター。洋画・海外ドラマ・韓国ドラマの熱狂的ウォッチャー。観たい作品数に対して時間が圧倒的に足りないことが悩み。ホラー、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマが好き。
名誉と使命感、どちらを重視すべきなのか
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新シーズンのキーマンは、新たに登場したチャ・ジンマン(イ・ギョンヨン)だ。シーズン2よりトルダム病院の院長の座に就いたパク・ミングク(キム・ジュホン)は、キム・サブと志を共にするようになり、外傷センターの運営体制を整えるべく奔走。その過程で、有名な胸部外科医ジンマンを外傷センター長に据えることに。トルダム病院のお馴染みのメンバーたちは、当然猛反発。外傷センターがキム・サブの夢であることは周知の事実であり、彼こそがセンター長を務めるべきだと考えていたからだ。否応なしにジンマン指揮のもとで始動する外傷センターだが、キム・サブと学部時代にライバル状態であったジンマン。実力は確かだが規則優先を重視する、“キム・サブ イズム”とは全く異なる哲学の持ち主だった。
これまでの『浪漫ドクター キム・サブ』では、キム・サブの主張こそ正義、という描かれ方であったが、ジンマンの登場により「それで本当に良いものなのか」と疑問を抱かせるような構造になっている。損得勘定を考えず、目の前の患者に集中することを良しとしてきたキム・サブだが、瀕死状態で始める手術は術中死となって医師が責任を問われる可能性を秘めている。
劇中、ジンマンはキム・サブに対し、「無謀な手術をさせ、なぜ医師にリスクを負わせるのか」と声を荒げる。実際のところ、一般外科医のエースとして腕を振るうソ・ウジン(アン・ヒョソプ)は術中死による訴訟を数多く抱えてしまっている。キム・サブは「それが医師の仕事だからだ。職務を果たすのに理由が必要か?」と返すが、医師のメンタルヘルスを考えると、ジンマンの主張も一理ありだと思わざるを得ない。
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「誰かに肩入れしたことや私的な感情を持ちこんだことはしない。医師として信念に従い最善を尽くします。どんな偏見も私的な感情も持ち込みません」と語り、医師の名誉を守ろうと徹底するジンマン。しかし欠点は、患者や患者の家族の気持ちへの配慮が圧倒的に欠けていること。その結果、自滅してしまう。
12話で展開されるキム・サブとジンマンの会話は印象深い。「大韓民国の医療はその使命感で医師を縛り付けて酷使している」「治療しても帰ってくるのは悪口と恨みだけ。いつまで耐えると?」と言うジンマンに対し、「それでも使命感なくしてできないことがあり、病院のシステムが回らないから仕方ない」「すべての不合理に対する答えを見つけるまでだ」と自論を展開する。明確な正解は、キム・サブも模索中であり、視聴する我々も向き合わなくてはいけない問題ということだろう。ジンマンはやり過ぎではあったが、綺麗事だけでは成り立たないという現実を突きつけ、多角的な視点を与えてくれる重要なキャラクターだったと思う。
ライフワークバランス問題は医療業界でも
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もう一つの現実と言えば、労働時間の問題だ。これまで同作では、医師たちがプライベートを過ごす時間はあまり描かれてこなかった。院内で寝泊まりしたり、外食や帰宅してもすぐに連絡が来て駆けつけたり、といったパターンが多い。もちろん架空の話であり、事故・事件の描写に時間を割くためだろうとは理解しているが、「この人たちはいつ休んでいるのか」という疑問は常に頭をよぎっていた。現実的にも、緊急を要する重症患者が常に運ばれてくる現場において、医療従事者たちのライフワークバランスの優先度が低くなってしまうことは想像に難くない。今回初登場した新人専攻医チョン・ドンファ(イ・シニョン)、そして単身赴任中の応急医学専門医チョン・インス(ユン・ナム)が、そういった状況を説明する役割を担っている。
まだトルダム病院にやってきたばかりのドンファは、稼働時間が多いことついてSNSで愚痴を垂れ流し、先輩や上司からの連絡を無視して職務放棄後、やっと出勤したと思えば労働時間の法律を持ち出して反論。教育係のウジンからは「プライベートも大切だが医師ならやるべきことはやれ」と説教されてしまう。一方、インスは単身赴任歴が長くなったことで夫婦仲が悪くなり別居状態に。幼い娘がその状況を打破するためキム・サブに直談判しにやってくる事態を招いてしまう。
それぞれ物語が進むにつれ、気持ちに変化が生まれ、一旦は解決するが、根本的な問題は残ったままだ。ここでも、ジンマンによる「大韓民国の医療はその使命感で医師を縛り付けて酷使している」という台詞を思い出してしまう。
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さて、ドンファの主張はもっともではあったが、それ以前に彼の仕事への向き合い方はよろしくなかった。『浪漫ドクター キム・サブ』の醍醐味と言えば、新人の成長物語であるが、今回はキム・サブが直属の上司ではなく、キム・サブとドンファの間にウジンを据えていることで、ヒューマンドラマとしての新たな面白みが加わっている。キム・サブは医師としても指導者としても秀でており、それゆえ、ウジンも優秀な医師に育った。しかし、ウジンは教育係としてはひよっこだ。キム・サブから受け継いだ「患者第一」という考えをもとに、ドンファに徹底的に厳しく振る舞ってしまう。そして、まだ医師としての使命感を持たず、何が正解なのか模索中のドンファはウジンの対応に不満を持つようになり、2人は患者の診断の正誤などでぶつかり合うようになる。
相手を萎縮させてしまうウジンもウジンだが、感情的になって上司の揚げ足を取ろうとするドンファもドンファだ。最初は双方にやんわりとアドバイスし、ニコニコと様子を見守っていた大ボス(キム・サブ)が、新人問題児(ドンファ)の未熟な振る舞いを見かねて最終的にブチギレる、というところまで合わせて、その図に共感する社会人も多いことだろう。
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トルダム病院のメンバーが大集合
全体的にシリアスなトーンで記事をまとめてしまったが、今回も「ジンクス発動で大慌て」といった吉本新喜劇並みのお決まりのくだりなど、『浪漫ドクター キム・サブ』らしいコメディ要素は健在。もちろん2組のカップル、ウジン&ウンジェ(イ・ソンギョン)、パク・ウンタク(キム・ミンジェ)&ユン・アルム(ソ・ジュヨン)の行く末も描かれているのでご安心を。
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それだけでなく、シーズン1、2からの懐かしのキャラクターたちもカムバック! 各キャラクターたちの再登場シーンでは、どこからから吹き付ける風の中で撮影されたスローモーション映像に高揚するBGMを組み合わせたコテコテの演出なのだが、それがまた良い。一人、また一人とお馴染みの面々が映し出される度、胸が高まっていく。また、ユ・インシク監督が演出を手がけたドラマ『ウヨンウ弁護士は天才肌』のメインキャストもカメオ出演しているのも、韓ドラファンにはたまらないオマケだ。
趣のあるトルダム病院を見慣れていたため、最初は違和感のあった外傷センターとの2拠点展開。しかし、いざ体制が整い、とある登場人物も最後に加わることが分かると、今後の“チーム・トルダム”の未来が楽しみで仕方ない。シーズン4の決定、熱烈に望んでいる。
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