現在放送中の連続テレビ小説「あんぱん」(NHK)で今田美桜が演じる主人公・朝田のぶの夫となる柳井嵩役の北村匠海が報道陣のインタビューに応じ作品への想いを語った。
同作は「アンパンマン」の生みの親で昭和・平成を代表する漫画家であるやなせたかしとその妻・暢をモデルとするフィクション。生きる意味も失っていた苦悩の日々とそれでも夢を忘れなかった2人が“逆転しない正義”を体現した「アンパンマン」にたどり着くまでを描く。
――朝ドラ初出演ですがオファーを受けたときの心境を教えてください。
オファーを頂いたときはびっくりしました。本当に。のぶ役の方もまだわからない状況だったこともありまして。
朝ドラは“朝を支える”といいますか“朝を彩る”ものだと思います。役者だったら朝ドラだったり大河というものはある意味、役者人生の指標になるものだと思います。そんなことを考えていたときにオファーを頂きました。自分の人生のひとつのチャレンジとして「やってみよう」と思いました。
それとオファーを頂いた理由を聞いたときに、自分の死生観みたいなものとやなせさんの哲学というものがはまって「あなたしかいないと思いました」と言われました。そんなにはっきり言ってくださり、それだけの信頼を置いてくださっているところに心を打たれました。
やなせさんを演じることにやりがいも感じますし、今だからこそちゃんと伝えないといけないメッセージというものが非常に多くあると思います。自分自身の言葉としても伝えたかったことでもありますし、「あんぱん」という温かさを常に持っているドラマだからこそ普遍的に伝わるメッセージも必ずあると思っています。そのきっかけを僕に任せて頂けるのなら精いっぱいやりたいなと思いました。
――「朝田のぶを主人公として、柳井嵩の人生が描かれること」への感想をお願いします。
撮影は半分くらいまで進んでいて、嵩とのぶがすれ違い続けている段階です。自分は今、嵩が戦争に行っているパートの撮影をしています。のぶとは別々の世界にいて、それぞれが人生でつまずいたり起き上がったりという段階です。僕は嵩としてしか生きていないので「のぶは今何をしているのだろう」と考える日々です。


脚本を読んでいると、のぶの目線で描くところもありますし、嵩の目線で描く部分もあります。ひとつだけじゃないところが「あんぱん」の描き方なのだろうなと思いました。2人の目線で進んで行って、それがひとつになったときに初めてのぶの目線で嵩の人生が描かれていくのではないかなと思っています。
まだ撮影をしていないパートでは確かにのぶの目線で嵩が描かれていくことが多くなっています。支えるだけではなくて、のぶも嵩に支えられているという描き方がすごく温かいなと思っています。この時代だからこそ、女性や男性というはっきりしたものではなくて、夫婦というひとつの描き方をすごく感じます。
それでいうと、今僕はずっと戦争パートの撮影をしていてのぶに会えていません。なので、すごく寂しいです(笑)


――嵩を演じるにあたり大切にしていることは?
僕たちが知ってるやなせさんは「アンパンマン」が世の中に知れ渡ってメディアなどに出ているやなせさんの姿だと思います。人生経験を積んだやなせさんはユーモアもあるし、柔らかさが際立っている出で立ちで物腰も柔らかいです。その姿にある意味で“ゴール”を見たイメージだったのですが、ただ10代から演じる自分が10代のときにそのイメージでやってしまったら「それは違うな」と思っています。
僕も小学生や中学生のときはこんなに話せなかったし、声も違って、姿勢も違って、歩幅も違いました。きっとやなせさんをモデルにした柳井嵩もそうだろうなと思います。嵩が戦争を経てから「正義」というものをのぶに対して言語化して伝えるシーンがあるのですが、そこに至るまでのことを戦争中に経験しなければならないと思いながら戦争パートの撮影をしています。
――2025年は戦後80年です。戦争パートも数週間を使ってじっくりと描くとのことですが、戦争パートの撮影ではどんなことを感じたのでしょう。
戦争というものは「悪」だなと思いました。現場は変わらず明るくて温かいのですが、シーン自体はすべてが重いです。芝居では声量などを含めてずっと感情を殺さなければなりません。姿勢からはじまって個性というものがなくなる感じです。セリフも「(何々)であります」とか。“着帽して右手を上げて”というように本当に箇条書きで書かれたような芝居が毎日進んでいくので大変です。でも、この時代だからこそしっかり描かなければならないと思いますし、その機会を頂いたので身を粉にしてやっています。


――劇中に登場する「絵」はプロの方が描いているそうですが、「絵を描くシーン」ではすべて北村さんが実際に描いていると聞きました。「絵を描くシーン」はどうでしたか?
僕は小学生のときから絵画教室に行っていて、選択授業も全部「美術」を選んでいました。デッサンとかが上手いというわけではないのですがメソッド自体はわかります。漫画タッチの絵は描いたことがないのですが、普段から絵を描くことが多くて油絵とかボールペン画で抽象的な絵ばかりを描いていました。なので、絵を描くということは自分にとってすごく馴染みのあることです。学生時代から絵を描いていたので、もしかしたら嵩とちょっと通じるものがあるかもしれないです。
やなせさんとはお会いしたことはないのですが、(テレビアニメ『それいけ!アンパンマン』のオープニング主題歌である)「アンパンマンのマーチ」の歌詞が注目されたことがコロナの時期などにありました。そのときに僕は「アンパンマン」と出会い直したという感じです。そこから、子どものときよりも深い目線でやなせさんと出会って行ったので、ある意味、運命的な役との出会いだなと感じています。
――「あんぱん」をどんな作品と捉えているか教えてください。
のぶは嵩にできない生き方を真っすぐにしています。嵩は自分の中で「恋」だと明確に気づかないような瞬間も多く、「ライク」なのか「ラブ」なのかというふうに右往左往します。のぶはずっと嵩の前を走っているのですが、嵩の前に開けている道が光っているから嵩もそこをたどって歩けていけた人生だったので、東京に初めて出たときにふとのぶを思ったりします。自分の人生に足りないものを理解したときにはじめてのぶのことを好きだと気づいたのかなと思います。のぶの“性格や外見のこういうところ”というわけではなくて。
人生って1人で生きることはなかなか大変で、誰かと手を繋いで歩かないといけない瞬間ってあると思います。嵩にもそんな瞬間がたくさんあります。ずっと誰かと手を繋ぎたかったのですがそれが叶わない人生でした。肩を組んでくれる友人はいるのですが、そうではなくて「自分は誰かと手を繋ぎたいんだ」と感じていて、でも、のぶは自分の前を走っているから気づけないと言いますか。それぞれが人生経験を経て、嵩がはじめてのぶの横に並んだときに「この人が大切な人なのだ」と気づく……という物語だと思っています。
連続テレビ小説「あんぱん」
NHK総合 毎週月曜~土曜 午前8時~8時15分ほか
*土曜は1週間の振り返り